事例紹介

県産果実の輸出拡大に向けたコロナ禍における海外プロモーション ~フルーツ王国山梨県の取り組みとは~

●はじめに

 モモやブドウの生産量日本一を誇り、フルーツ王国として名高い山梨県。

 今年の3月には「山梨県産果実の輸出拡大に向けた基本的な戦略[i]」を策定するなど、国内だけでなく県産果実の海外展開にも力を入れています。新型コロナウイルス感染症の影響に伴う外国との往来制限などにより現地におけるPR活動が難しい中、県産果実の輸出拡大に向けて山梨県が行っている海外プロモーションとは。

 山梨県農政部販売・輸出支援課に取材しました。

 

 

 

                   <山梨県産のモモとブドウ>

 

 

●県産果実の輸出拡大を目指す背景や経緯を教えてください。

 国内における果実全体の消費量が減少傾向にあるということが主な背景です。
 こうした中、更なる農業振興や海外におけるブランド価値の向上を図るため、経済発展の続くアジア諸国への輸出拡大に向けてプロモーション活動や新規市場の開拓に取り組んできました。
 2019年12月に策定した「やまなし農業基本計画[ii]」では、2022年の県産果実輸出目標額を13億円に設定し、2021年3月には今後の施策の実効性を高めた「山梨県産果実の輸出拡大に向けた基本的な戦略」を策定しました。

 プロモーションに関しては、本県産果実のブランド価値を高めていくために、本県がモモとブドウの生産量日本一の果樹王国であることを前面に打ち出し、「山梨のモモとブドウは最高品質」というイメージにフォーカスしながら、価格と品質のバランスが保たれた魅力的な高付加価値商品であることを積極的に情報発信することとしています。

 

 

●プロモーションの対象としている国・地域はありますか?その理由も教えて

 さい。

 中国、香港、台湾を対象としています。理由としては、香港、台湾については県産果実の輸出実績がそれぞれ1位、2位であり、輸出先として重要な地域であるためです。

 また、中国については今後の輸出の可能性を見据え、ターゲットとしています。

 

 

●コロナ禍においてはこれまでどおりのプロモーション活動を行うのは難しかった

 のではないでしょうか。

 現地でのプロモーションを計画していたこともあり、予定していたとおりとはいきませんでした。

 これまでは、香港や台湾の現地小売店に職員が赴き、販促イベントを実施していました。お客様に県産果実を試食してもらい、その品質や食感、甘みなどを実感してもらうことで購買に繋げるというものでしたが、コロナ禍で試食販売ができない状況となってしまいました。
 他にも予定していた現地プロモーション事業はありましたが、外国との往来制限をうけ、職員の渡航を伴うものは実施できなくなってしまいました。

 

 

●そのような厳しい状況下で、どのような対応をとられたのでしょうか。

 昨年度は、これまで行ってきた現地店舗等での販促イベントについては、県の関係者不在の状態かつ試食販売も行わない形で継続しつつ、新たに各主要輸出先国・地域でSNSのページを立ち上げ、イベント情報やインフルエンサーの店頭訪問の様子などを発信することにより、プロモーションの効果を高める工夫をしました。
 従来の現地店舗等での販促イベント(リアル)と各国・地域で運営しているSNSを活用した情報発信(デジタル)という、リアルとデジタルを組み合わせたPRというわけです。
 他にも、日本国内でも実施できる取り組みとして、母国に対して大きな影響力が期待される在日大使館を対象に「駐日大使への山梨PRツアー」を新たに企画し、実施しました。

 

 

●現地小売店での販促イベントは、県の関係者不在の中でもなぜ実施できたのでし

 ょうか。

 これまで県や生産者(JA)が輸出先国において県産果実のプロモーションを継続して実施していることから、現地の輸入事業者との間には、職員の渡航ができなくとも小売店舗店頭での販促活動を依頼できる関係を構築できています。2020年度、2021年度とも県や生産者が渡航できない状態ではありますが、現地事業者の協力のもと販促活動を継続できています。

 

 

 

    <現地小売店でのPRイベント>             <インフルエンサーを活用したPR>

 

 

●SNSでの情報発信は昨年度から始めた取り組みとのことですが、何か工夫されて

 いることはありますか?

 SNSの投稿に対する反応は国・地域によって少しずつ異なるため、投稿内容を各国・地域の好みに合わせて発信しています。
 例えば、中国に向けた発信では、本県産果実のプレミア感・信頼性・安全・高品質を伝え、特に山梨のモモやブドウの形や甘味などのポイントを紹介しています。

 また、香港ではフルーツの美味しい食べ方や果実を収穫する様子、台湾では生産者の紹介や生産過程でのこだわりのポイントなどを発信しています。
 他にも、ジェトロの「インフルエンサー発信事業」と連携するなど、現地で発信力があるインフルエンサーを活用し、山梨の魅力を効果的に伝えられるよう工夫しています。

 

 

 

     <香港で運用中のSNSページ>              <台湾で運用中のSNSページ>

 

 

●リアルとデジタルを組み合わせたPRの効果はありましたか?

 SNSのフォロワー数は現在合計で約2万3,000人と、多くの方々にご覧いただいております。

 SNSを活用することで、リアルタイムで情報を届けられるため、イベントの集客につながっていると思いますし、実際に購入してくれたというコメントもSNSに届いていることから、効果的なPRであると感じています。
 また、2020年の県産果実輸出額が、輸出を開始して以降初めて10億円を超えました。この要因の一つとして、2020年度から新たに実施したSNSでの情報発信などの取り組みも功を奏したと考えています。
 昨年度実施した香港や台湾等での市場調査では、果実の購入場所は実店舗とする消費者が多い状況にありながら、情報収集の場面ではインターネットも多く活用されている状況でした。コロナ禍による非接触ニーズの高まりなどを受けて、消費行動におけるインターネットの存在感が増している状況が見られますので、認知度・ブランド力の向上に向けて、今後もSNSなどのインターネットツールを積極的に活用していきたいと考えています。
 他にも、昨年度香港や台湾で実施した消費者アンケートや関係事業者へのヒアリングから、山梨県産のモモやブドウが多くの消費者に認知され、高品質な商品としてブランド力を有していることがわかり、これまで長年実施してきたプロモーションの成果も実感しています。
 今後も山梨県産果実は価格と品質のバランスが保たれた高付加価値商品であるという認知度を向上させ、ブランド力を高める取り組みを進めていくことが重要だと考えています。

 

 

●国内では「駐日大使への山梨PRツアー」を実施したとのことですが、これはどの

 ような取り組みでしょうか。

 数か国の駐日大使ご夫妻を山梨県にお招きし、県産食材を使った創作料理と県産ワインとのマリアージュをお楽しみいただくことで、県産果実を含めた農畜水産物をPRするという取り組みです。
 食事会では、料理に使用した食材の生産者の方々にもご来場いただき、食材の魅力をPRしていただきました。

 

 

 

      <昼食会の様子>                   <駐日大使との記念撮影>

 

 

●駐日大使の皆様にはどのように県産果実をPRされましたか?

 昼食会前のセレモニーにおいて、モモやブドウ、スモモの生産量が日本一位であることなどを紹介しました。
 また、県産果実は創作料理のデザートに使用されたほか、記念品としてブドウの詰め合わせをお渡しし、その魅力をPRしました。

 

 

<ブドウの詰め合わせを贈呈>

(ミクロネシア大使(左)と長崎山梨県知事(右))

 

 

●実施に至るまでにはどのような苦労がありましたか?

 各国を代表する大使や県内各事業者と、日程や企画内容等に関する様々な調整をしていかなければならなかったことに苦労しました。特に、各国の大使館とは日本語でのやりとりができなかったこともあり、調整に苦慮しました。
 また、通常業務では意識することのない外交儀礼(プロトコール)を踏まえた準備をする必要があったことも難しい点でした。外交儀礼に関する知識を有した専門家を迎え、アドバイス等を受けながら準備を進めました。

 

 

●この取り組みにより、今後の各国へのPRにつながりそうですか?

 実際に山梨県に来てもらい、県産農産物の品質の魅力を体験していただいたことから、大使ご夫妻や大使館職員からは「本国に山梨県の魅力を伝える。」とのお言葉をいただいておりますので、今後のPRにつながっていくものと考えています。

 

 

●最後になりますが、県産果実の輸出拡大に向けたプロモーション活動について、

 今後の展望を教えてください。

 新型コロナウイルス感染症の影響などにより市場環境が目まぐるしく変化している中ではありますが、「山梨県産果実の輸出拡大に向けた戦略」に基づき、今後も積極的にプロモーション施策を実施していきたいと考えています。

 

 

●おわりに

 いかがでしたでしょうか。今回は、県産果実の輸出拡大に力を入れている山梨県のコロナ禍における海外プロモーション施策について取材しました。
 山梨県農政部販売・輸出支援課では、これまで築き上げてきた現地事業者との関係性を活かして現地での販促活動を継続しつつ、新たにSNSという手法も取り入れてリアルとデジタルを組み合わせたPRを実施するなど、コロナ禍でも十分にプロモーションの効果を発揮できるよう工夫されていました。
 また、国内でも実施できるプロモーション活動として「駐日大使への山梨PRツアー」というユニークな取り組みを新たに企画し、挑戦されていました。
 取材を通して、コロナ禍という困難な状況にありながらも、創意工夫を凝らして海外プロモーションを継続することの重要性を再認識するとともに、これまで長年にわたり山梨県が行ってきたプロモーション活動の意義を感じました。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、内容の変更や中止を余儀なくされる事業も多くある中で、地域産品の効果的な海外プロモーション施策を模索されている自治体も多いのではないかと思います。本記事が少しでも皆様の参考になりますと幸いです。

 

 

(経済交流課 中込)

 

 


[i] 「山梨県産果実の輸出拡大に向けた基本的な戦略」

山梨県産果実の輸出拡大に向けて、主な輸出先地域に共通して重要なポイントとなる現状と課題を整理し、その対応方針を纏めた基本的な戦略。

https://www.pref.yamanashi.jp/nou-han/yusyutusenryaku.html

 

[ii]「やまなし農業基本計画」

農政の基本理念や将来の農業の姿をはじめ、今後、山梨県が重点的に取り組む施策や具体的な数値目標などを明らかにする基本指針。
https://www.pref.yamanashi.jp/nousei-som/r1_kihonkeikaku.html

 

 

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