事例紹介

アフターコロナにおけるインバウンド対策4つの戦略(株式会社クリップ プロジェクトデザイナー 島田昭彦)

  • はじめに

 私、島田昭彦がCEOを務める株式会社クリップは、京都を中心に、「ヒト、モノ、コト、文化をコラボレーションして収益化、伝統をモダンに、日本の魅力を世界へ、世界の人を日本へ」とビジョンとして掲げて、文化観光コンテンツ開発、地域デザインの構築を行っています。

 緑茶×モダン日本文化として、サントリー緑茶伊右衛門のリアルカフェ『伊右衛門サロン』、築100年の小学校の校舎を取り壊さずに文化施設宿泊施設として再生した『立誠ガーデン』、将軍塚青龍殿『ガラスの茶室』、京友禅アロハ『パゴン』、京和傘日吉屋ランプシェード『KOTORI』などのプロデュース。

 自治体化国際化協会のプロモーションアドバイザー派遣事業では、千葉県流山市にて、特産品のみりんを、海外シェフとのコラボレーションで世界発信を提案、長崎県雲仙市では、雲仙の魅力を再編集、リデザインなど、文化や地域の高付加価値化、ブランディング、プロモーションを企画・推進しました。

 これらの経験を踏まえ、アフターコロナのインバウンド対策や、新しい日常で旅人はどこに向かい、受け入れ側は何を準備すべきなのか? 高付加価値化した観光コンテンツの造成の取り組みをお伝えしたいと思います。

 

  • アフターコロナの行動心理と4つの戦略

 ビフォーコロナのこれまでを観光1.0とするなら、これからは観光2.0の時代です。これまでの観光の捉え方、すなわち、寺社仏閣、観光地を巡る、インスタ映えするポイントを巡る、光りを観る観光だけではなくなる。具体的には、国内旅行者、少し遅れてインバウンドの復活、両方において、新しい旅の特徴として、人と人が会う楽しみ、人と自分を見つめ直すことがクローズアップされてきます。

 これまで行動規制がかけられていたことで、外に出たい、旅をしたいけどできない、会いたくても会えなかった、そんな気持ちを皆持っているのではないでしょうか。「コロナが収束したら会おうよ!会いに行くね!」こんなやりとりを、電話やSNSで、ほぼすべての人がしたはずです。

 これらの行動様式がアフターコロナで、顕在化してきます。遠方に住む友人を訪ねる、生まれ故郷に住む両親の元へ子供を連れて里帰り。いつ会えるかわからないから今、会って一緒に旅をしよう。そして、人に会い、行ったその場所そのものや、そこにある営みや文化に触れる機会が増える。すなわち、人と文化と自然に触れる旅が、重要な要素になってきます。

 

  • 戦略その1 「自然志向」

 屋外で、密にならない、感染リスクの低いコンテンツ造成が求められています。京都では、10月以降、国内旅行者は徐々に戻りつつあります。特徴は、観光地巡りではなく、たとえば、京都市北部、自動車で1時間ほど50キロ離れた京北(けいほく)という場所では、北山杉の森のなかで、密を避けて、家族だけで、安心安全な休暇を過ごすスタイルがとても増えてきました。

 これまで、アウトドアでのキャンプやBBQは一般的でしたが、トレンドとして、テントサウナのような新しい楽しみ方が増えてきたことも、見逃せないポイントとなっています。

 

  • 戦略その2「健康志向」

 戦略その1にも深く関連しますが、新型コロナウイルス感染症のインパクトを経て、人々の健康意識が非常に高まっていると言えます。

 特にサウナは、これまでのサラリーマンターゲットの屋内型の温浴施設ではなく、フィンランドやロシアに端を発する、屋内外で温浴~冷水浴~外気浴で、交感神経、副交感神経のリラックス効果を促す健康を意識した時間の過ごし方が増加傾向にあることも注目すべき点でしょう。

写真:京都市京北での北山杉に囲まれたサウナ(写真撮影:島田昭彦)

 

  • 戦略その3 「アート」

 青森県十和田観光機構では、自然やアート、建築文化に興味関心の高い層に対して、奥入瀬渓流、岡本太郎の作品、十和田現代美術館などを目的訪問する回遊型のプログラムを構築しています。

 十和田湖畔では、8月には、密を避け、自然の中で2日に渡って、「星に願いを」アートエンターテイメントとして、参加者約4000人がスカイランタンを購入し、思い思いの願い事を書いて夜空に放ち(終了後は思い出の品として自宅に持ち帰れる)、青森のみならず近隣県のカップルやファミリーに向けたコンテンツ造成を行い、秋から冬にかけては、「十和田湖 光の物語FeStA LuCe」と題した、十和田神社の屋外にアートイルミネーションを設置し、15分程度のウオーキングルートを設け、自然×アートのコンテンツ展開も行っています。

 市内中心部には、日本が世界に誇る建築家、西沢立衛氏が設計しオープンから6年で100万人来館の十和田市現代美術館に加え、安藤忠雄氏による図書館、隈研吾氏による地域交流施設トワーレが点在、他方、弘前市では、あおもり創生パートナーズが、近代建築の父と呼ばれる、前川國男の作品群を、世界のクリエイティブクラスに観に来てもらえるよう情報発信の準備を進めています。

 建築、デザイン、アートを好むクリエイティブクラスと呼ばれる旅行者は、文化力、経済力を併せ持ち、海外の富裕層になると、なんと自宅に美術館を設計してもらうため建築家の建物視察とアート作品購入を目的に、旅行する人も少なくありません。

 

写真:青森県十和田湖畔「星に願いを」スカイランタン(写真撮影:島田昭彦)

写真:上 青森県十和田神社 光の冬物語

下 青森県弘前レンガ倉庫美術館の現代アート(写真撮影:島田昭彦)

 

 

  • 戦略その4「高付加価値文化体験」

 文化を高付加価値化した観光コンテンツのブランディングとして、佐賀県嬉野市では、ティーツーリズムに取り組んでいます。

 ターゲットは、当面は、国内の探究心旺盛な、文化力のある富裕者層、海外との交流が再会した暁には、海外の文化観光に興味関心の高いクリエイティブクラスが対象です。

 嬉野温泉街を流れる塩田川、風情溢れる宿場町の面影、少し足を延ばせば広がる美しい茶畑。大村湾を望む見晴らしのいい茶畑の天茶台で、茶農家の茶師が最高のお茶を点て、屋外空間で楽しむ至高の時間を提供します。

 旅館滞在中は、ゲストひと組に対して専任の茶師が付き、ウエルカムティーから湯上り、食前、食後のコール料理に合わせたティーペアリング、就寝前、起床後の一杯まですべてのお茶の世話をしてくれる、嬉野という地域性を活かした究極の付加価値を楽しめるような設計です。

 加えて、400年以上の歴史を誇る「肥前吉田焼」、日本三大美肌の湯と称される「嬉野温泉」のコンテンツを、伝統を重んじながらも、時代に合わせ新しい切り口で魅力を融合させ「嬉野茶時」というネーミングで発信・ブランディングを行うことで、1泊2日の10万円以上の宿泊プランを展開しています。

 

写真:佐賀県嬉野ティーツーリズム 天茶台でのプレミアム体験(写真撮影:島田昭彦)

 

  • 生きることを見つめ直す観光コンテンツ

 人と出会い、四季折々の自然、地域固有の文化を感じながら自分とは何かを、改めて見直す内省要素が含まれた旅、今一度、生きることを確かめる旅、人間の本質を問う原点回帰が、アフターコロナの観光コンテンツの高付加価値化を生むのかもしれません。

 

 

 ※印刷用PDFはこちら

Categories:事例紹介 | インバウンド | トピックス

Copyright © CLAIR All rights reserved.