事例紹介

成田空港のトランジット旅客を近隣観光でおもてなし

成田空港には、入国しないトランジットだけの利用者が年間25万人もいるという。そんな方々を近隣の観光地に誘い、日本の良さを知ってもらおうと官民連携の取り組みが始まった。小さい取り組みだが、継続することにより、さらに新しい展開も期待されている。

成田山新勝寺ではお坊さんの行列に出会い、撮影を熱心にする

成田山新勝寺ではお坊さんの行列に出会い、撮影を熱心にする

ポイント:

・前回の失敗を踏まえて課題に向き合う
・2015年は体制づくり、2016年はプロモーションに注力


成田空港では、トランジット旅客に対し、近隣の観光案内をしている。利用者からは高い評価だ。

このプロジェクトの発端は、2014年6月17日に観光立国推進閣僚会議で決定された「観光立国実現に向けたアクションプログラム2014」に、「トランジット旅客のうち、日本に入国しないで乗り継ぐ予定であった者(国際線通過旅客)についても、我が国の良さに触れてもらい、次回の訪日につなげるべく、入国旅客への移行を図るためのプロモーションを実施する。」と明記されたことだ。
この実現に向けて「トランジット旅客の訪日観光促進協議会」が設置された。成田空港、日系の航空会社、近隣の自治体、国交省、近隣の商業施設も構成員として参画した。

成田空港は、アメリカ便とアジア便を結ぶハブになっているので、トランジットで長時間留まるのは珍しくない。年間に約25万人もいて、70%が空港内に留まるという現状がある。

成田空港の到着ロビー

成田空港の到着ロビー

そこで、2014年の秋、トランジット旅客の訪日観光促進協議会のワーキンググループとして、千葉県、成田空港、地元の成田市、そして近隣の芝山町、多古町の担当者が集まり、官民一体となって実現に向けた話し合いがなされた。

実は、最初は消極的な意見が多かったという。
それは、以前も成田空港では、トランジット旅客を対象としたツアーが商品化されたことがあったが、様々な課題があり、継続されなかったからだ。
バスで近隣を案内する企画で、これは仁川やシンガポールのトランジットツアーをモデルにしている。

では、なぜ継続できなかったのか。それらを明確にすることで、何をすべきかが見えてくると考え、当時の状況を改めて検証することから始めた。

そこからわかってきたことがある。
最大の要因は、トランジット旅客の要望とバスの出発時間をマッチさせることの困難さだった。成田空港は、世界中の様々な国や地域と結ばれていることから、トランジット旅客の到着時間も様々であるため、出発時間を固定すると参加できるトランジット旅客は限られてしまう。

この検証結果を共有し、出された意見は、バスのチャーターではなく、公共交通機関を使う方法だ。つまり電車や路線バスでの移動だ。実費分は参加者に負担してもらう。

そうすれば、参加できる時間の枠がひろがり、1日に何度でも乗車できる。またコースも1つだけではなく、複数から選べるようになる。
アウトレットなどの商業施設はセルフツアーにして、好きなようにショッピングしてもらう。

成田山の参道にある酒屋で日本酒のテイスティング

成田山の参道にある酒屋で日本酒のテイスティング

また取り組む意義についても議論された。
やはり、日本の玄関口として、本来は日本に来る予定がなかった人に、その良さを知ってもらい、次回はしっかりと観光に来てもらう。

そのためには、継続できるプロジェクトに育てていきたいと全員が一致した。

2015年の3月には、トランジットツアーをリリースするという目標があったが、前年12月時点で何も決まっていなかった。
しかし方向性が確定すると、そこからが早かった。前回の反省点として、いかに固定費をおさえるかが課題で、出された答えがボランティアガイドと公共交通機関の活用の2点であった。

具体的なコースは各エリアの担当者が、4時間以内というのをメドに考えてもらった。

翌年1月には、トランジット旅客の訪日観光促進協議会の承認を受け、ゴーサインが出た。

それと同時並行で、今回の肝になるボランティアガイドの募集をスタートさせた。
50人ぐらい集まってもらえれば上出来だと思っていたところ、蓋を開けると10日間で400人もの応募があった。これには誰もが驚いた。
研修会を開催し、参加者は最終的に350名になった。シルバー層が一番多く、なかには高校生の応募があった。また千葉県以外の東京や群馬からの応募もあった。
オリンピック・パラリンピックに向けて何か貢献したいという思いが強く、毎日ボランティアを希望する人もいた。

多古町や芝山町には、実際に行ったことがない人が多かったので、研修会では、見どころを案内した。

この官民のプロジェクトでは、役割分担が明確だった。

成田国際空港株式会社は、トランジット旅客の動線に案内板等を提示するとともに、ツアーカウンターの設置等を担った。
一般財団法人成田国際空港振興協会は、ツアーカウンターの運営を担った。
成田市は、ボランティアガイドの募集管理、成田市内のコース設計とその管理。多古町と芝山町はそれぞれの受け入れコースの設計とその管理だ。

2015年3月からこのトランジットツアーがスタートした。
9時から14時まで活動時間中に、ボランティアガイドが2人1組でガイドする。4時間のコースを案内するが、12時過ぎのスタートであれば、2時間の短縮コースをアレンジ。参加費は無料(公共交通機関の実費のみ)とした。

ピンク色のハッピ姿で成田山新勝寺の境内を案内する

ピンク色のハッピ姿で成田山新勝寺の境内を案内する

外国人の利用者からは、満足の声が多く届いた。
今度は別のコースに参加したいなど、前向きの回答だ。これまで200本程度が催行された。

2015年は、ツアーを問題なく実施することに注力を置いた。2016年は、プロモーションに注力していくそうだ。関係者と協力し、このプログラムを多くの方々に知ってもらう働きかけをしていく。

さらに、新しいコースも加わる。近隣の自治体が新しく参加したいと申し出があったからだ。小さく継続することによって、新たな展開が始まろうとしている。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

Tags: | |

Copyright © CLAIR All rights reserved.