事例紹介

インフラツーリズムの先進地を訪ねて~世界最大級の地下河川”首都圏外郭放水路”を活用した春日部市の取り組み~

 

注目を集めるインフラツーリズム

 国土交通省の「インフラツーリズム拡大の手引き―試行版―」(※1)よると、インフラ見学に対して「興味がある」と回答した人は約9割。訪日客の高い関心のみならず、国内でもインフラそのものが地域固有の観光資源として注目され始めています。

 そのような中、首都圏外郭放水路(通称:地下神殿)は、首都圏を守る防災インフラという使命を超え、観光施設として新たな一歩を踏み出しています。

              見学会を案内する「地下神殿コンシェルジュ」は、春日部市における雇用創出にも繋がっている

 

 平成28 年3月に国が取りまとめた「 明 日の日本を支える観光ビジョン」を契機に、地下神殿を管理する江戸川河川事務所や地元の春日部市等で構成される利活用協議会が設立され、平成 30 年8月から、日本初となる民間運営 (東武トップツアーズ株式会社)による社会実験見学会を開始 しました 。


 現在は社会実験第2弾として、料金・時間の異なる3コースに拡大 、非公開だった 作業用 通路やポンプ室を開放しています。本利活用協議会は、これらの取り組みのほか、春日部市域への地域振興が評価され、2019年9月、 観光庁の第 11 回「観光庁長官表彰」を受賞 。

 

 見学者数について も 、「民間運営見学システム」を導入する前後 (※2)で、 9,585 人から 35,401 人へ約 3.7 倍に増加 するなど、官民連携の先進的な事例となっています 。

 

海外からも熱い視線

          東京・大阪などの大都市だけではなく、地方の魅力ある場所を旅行したいと話す学生たち。

 

 取材当日は、平日にも関わらず多くの方が見学会に 参加しており、その中で JTB 団体ツアーに参加していた海外出身フィリピンや アメリカ など )の学生 にインタビューする ことができました。
 

 地下神殿について感想を聞いてみたところ 、「フィリピンも台風の被害が多いので、この施設を自分の目で実際に見たいと思った。 10 年以上前に当時の最先端技術で作られた大変価値ある施設だと感じた。」と話し、日本のインフラ技術に強い関心を寄せていました 。
 

 また、言語面に関しては 、「 外国語を話せるガイドがいなくても 多言語対応の音声ガイドアプリがあるので、不便は感じない」という意見もあり、限られた 「 ヒト・モノ・カネ 」 で多言語に対応するには、オンラインフォームによる申込み や 音声ガイドアプリ等の活用が 有効 かもしれません。
 

 インフラツーリズム全般については「興味がある人は多いと思うが、取り扱っているツアー商品が少なく、公式情報も日本語が多いので、探すのが難しい。」とのこと。旅行先の決定には Facebook や Instagram等の広告や口コミを参考にするという話もあり、訪日客を取り込むツールとして、やはり SNS は効果的と言えそうです。

 

広域連携を見据えて

 春日部市は、「クレヨンしんちゃん」の舞台としても有名です。 春日部駅近くには、観光情報などを発信している「ぷらっとかすかべ」があり、そこのクレヨンしんちゃんコーナー(原画の複製展示など)を目当てに、韓国・中国などアジア圏から多くのファンが来訪しています。

 

 このように「ぷらっとかすかべ」や「地下神殿」に国内外から多くの人が来ているものの、春日部市環境経済部観光振興課は、「いかに地域で周遊させる仕組みを作るかが課題」と話します。地下神殿に関しては、個人客・車での来訪が全体の6割であることから、市内にある道の駅「庄和」に誘客するため、見学会で配布される「防災地下神殿カード」を道の駅「庄和」で提示すると、食事の割引などを受けられるお得なサービスを実施しています。

 このように、春日部市内に立ち寄ってもらう工夫を行っている一方、電車を利用する人のことも考え、駅からも地下神殿へ来訪できるよう、路線バスのルート変更や増発など、市からバス会社に協力を依頼し、二次交通の問題を解消しました。

 

 更に、東武トップツアーズ株式会社と連携して、市内周遊観光プランの造成に取り組み始めました。既存の観光コンテンツ(藤の花、大凧あげ祭り等)に加え、東武鉄道沿線の強みを活かし、同じ沿線の「日光」「浅草」等の人気の観光地から訪日客をいかに呼び込んでいくのか。春日部市の挑戦は始まったばかりです。

 

 


               春日部市の花であるフジ。例年4月に春日部藤まつりが行われる。

 

 

      百畳分の大きさ、重さ800kgの大凧を舞いあげる大凧あげ祭り(5月)。毎年13万人以上の人が訪れる。

 

                        (現ロンドン事務所 所長補佐 新野(元経済交流課 主査))

 ※印刷用PDFはこちら

 

(※1)国土交通省「インフラツーリズム拡大の手引き―試行版―」 P6訪日外国人旅行客ヒアリング

    https://www.mlit.go.jp/common/001281756.pdf

(※2)2017 年 8~12 月と 2018 年 8~12 月の同期比

 

参考リンク

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