長野県北部に位置する山ノ内町。近年は、同町の『スノーモンキー』が外国人観光客からの大きな注目を集めています。
本稿では、山ノ内町が取組んできたインバウンド施策、また、コロナ終息後に向けた取組等について観光商工課に取材した内容をご紹介していきたいと思います。
地獄谷野猿公苑
世界で唯一温泉に入るサル
山ノ内町が行ってきたインバウンドの取組
これまで、国・県や山ノ内町観光連盟など観光団体と連携し、ターゲットをしぼったプロモーション活動に加え、環境省などの補助事業を活用した受入環境整備の取組を行ってきました。主な取組について2つ紹介します。
①インバウンド誘客力の強化
山ノ内町には雄大な自然を楽しめる志賀高原があります。志賀高原は上信越高原国立公園の中心となるエリアであり、国立公園満喫プロジェクト展開事業の実施地域として採択を受け、国立公園全体のインバウンド誘客力の強化に向け、平成29年度から2か年で事業(外国人向けツアーの開発・市場及び顧客分析、旅行商品としての普及と定着・二次交通の開発)を実施しました。また、令和元年度から2か年で、前事業を推進する上で見えた課題の対応に取組んでいます。
志賀高原(大沼池) 志賀高原(スキー場)
コバルトブルーに輝く神秘の泉 自然の地形を生かした広大なゲレンデ
②インバウンド主力観光地を軸とした観光地づくり
全国的に増加傾向にある外国人観光客は、滞在期間が長く、消費額も大きく、地域経済の活性化のための重要なターゲットであることから、外国人観光客の受入環境整備の早急な対応が必要です。
外国人観光客は主に公共交通機関を利用し土地勘がない中で移動しており、比較的距離がある道のりでも徒歩で移動することが多いのが特徴でもあります。
本町でも、湯田中渋温泉郷は日本の温泉文化を体験できる格好のエリアですが、地獄谷野猿公苑を訪れる外国人の玄関口である長野電鉄湯田中駅から、スノーモンキーを見るだけで帰ってしまう外国人観光客が多く、スノーモンキーに訪れる外国人観光客の取り込みが課題です。
このため、国内外から数多く集まるスノーモンキーを目的とした観光客を、ストレスなく地獄谷野猿公苑へ導き、かつ、魅力ある周辺の観光地へも誘導することができる標識の整備と、バス路線における外国人観光客への対応を併せて行うことで、エリア全体の分かりやすさを向上させ観光地としての魅力を高めるとともに、エリア内の滞在時間の増加につなげることとしました。
具体的には、以下の3点を実施し、スノーモンキーをフックとした地域全体の魅力向上と、スノーモンキー+αによる、観光客の滞在時間の増加につなげることを目指しました。
・湯田中駅から地獄谷野猿公苑まで、温泉街を経由したルートを誘導標識で整備
・スノーモンキーの入口にあたる志賀高原ロマン美術館に周辺観光地の全体像を案内する標識を設置
・スノーモンキーを目指す観光客が利用する長電バス志賀高原線のナンバリングの実施と外国語表記のバス停への改修を実施
渋温泉郷(渋温泉街)
下駄の音を響かせながら石畳を歩く
コロナによる影響
インバウンドは例年12月~2月にかけてのウインターシーズンが最も多く、新型コロナウイルス感染症が広がり始めた本年2月と3月の宿泊キャンセルは8,500人泊ほどありました。令和元年外国人延べ宿泊者数は過去最高を更新したものの、今後は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で対前年比大幅減となる見込みです。また、日本国内のお客様では、学習旅行等を中心として10月までの宿泊キャンセルが15万人泊を超えている状況に加え、感染拡大に伴い冬の予約への影響が出始めています。
観光客の激減は、観光関連事業者のみならず、小売り、卸、飲食業をはじめとする商工事業者にも大きな影響を与えています。
コロナ禍において、観光促進に向けて行った取組
インバウンドの回復時期は不透明ですが、JNTOなど関係機関を通じた情報発信に取組んできました。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、町では昨年度末から町内事業者へ状況に応じた段階的な支援策を実施しています。
・第1段階:宿泊事業者をはじめとする感染症拡大の影響を受けた事業者の資金調達への支援
・第2段階:観光関連団体の組織維持と「新しい生活様式」を目的とした団体育成補助、観光客減少により雇用が難しくなった宿泊施設等の従業員を対象とした他業種とのマッチング、国・県などによる多様な支援策の相談窓口の設定
・第3段階:地区の保健福祉事務所や総合病院と山ノ内町観光連盟との連携による宿泊施設のための指針を作成
このほか、誘客の宿泊促進クーポン券事業や町内事業者の元気を取り戻すためのプレミアム付き商品券の発行や利用者激減に苦しんでいる飲食店を対象としたスタンプラリーを進めています。
未だ事態の収束が見えない中ではありますが、お客様を安全・安心にお迎えできるよう町内事業者への支援策に取組んでいます。
北志賀高原(SORA terrace)
眼下には圧倒的な雲海が広がる
コロナ終息後に向けたインバウンドへの取組
1つ目として、旅行環境のストレスをなくし、旅行の満足度を向上させるため、無料WiFiの整備を進めたいと考えています。町の玄関口である湯田中駅から地獄谷野猿公苑に至るまでの散策エリアにおける“まちあるき”を促し町内の観光地への周遊を図り滞在していただくことを目的としています。先に整備した、外国人にもわかりやすい案内標識付近に併せて無料WiFiを整備することにより、土地勘がない外国人観光客を道に迷うことなく魅力ある周辺の観光地へも誘導し、まちあるきの中で発見したスポットや美味しい飲食店などをFacebookやInstagramなどSNSにアップしていただきたいと思います。
また、外国人観光客は主にインターネットで情報を収集しますが、「通信手段は、主に無料WiFiを利用する」「旅行中に困ったことの上位にWiFi環境が挙げられる」といった傾向がありますので、環境を整えることで前述のような点を改善し満足度の向上を図りたいと考えています。
2つ目として、食文化によるインバウンド誘致を考えています。
本町は、栽培に適した立地や気候条件に加え、ユネスコエコパークに登録された志賀高原からの清流を生かし、リンゴを中心に「果樹」生産が発展しました。また、オヤマボクチ(山ごぼう)をつなぎに使った全国でも珍しい「須賀川そば」や、リンゴを飼料に加えた独特な飼育方法の「信州牛」は地域に伝わる食材です。この地域ならではの食を活かしたインバウンド誘致に取組みます。具体的な取組はこれから検討していきますが、観光地を訪れながら、地元の食事が楽しめることは外国人観光客にとって、その地を訪れる大きな動機づけになると考えています。
(経済交流課 大澤)