事例紹介

ウィズコロナ/マイクロツーリズムの可能性を探る ~鳥取県の取り組み~

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、旅行・観光業界は大きな打撃を受け、流行前まで好調だったインバウンド需要も落ち込んでいます。6月19日にようやく県をまたぐ移動の自粛要請が解除されたことから、国内旅行の本格的な再開が期待されるところですが、感染への懸念から「3密」を避ける傾向が益々高まっている中、従来と同じ戦略では旅行客の心を捉え、消費を促すことは難しいだろうといった指摘もあります。では、ここから先、旅行・観光業界は、どのようなアプローチをすれば、国内需要を回復させることができるのでしょうか?そのために自治体は今、何をすべきなのでしょうか?

ここで注目を集めているのが今年5月に星野リゾートの星野佳路代表が提唱した、「マイクロツーリズム(遠方や海外への旅行に対し、3密を避けながら地元の方が近場で過ごす旅のスタイル)」という新たな旅のスタイル。今回は、国内需要喚起のため、様々な施策に取り組む鳥取県(観光戦略課、販路拡大・輸出促進課)を取材し、取り組みの事例を紹介するとともに、マイクロツーリズムの可能性やウィズコロナの観光戦略ついて考えてみたいと思います。

 

1. 鳥取県独自の事業で国内観光需要を喚起

 コロナ禍においては全国共通の話でもありますが、鳥取県内の宿泊業、飲食業などは国の緊急事態宣言等による外出自粛を受けて休業を余儀なくされるなど壊滅的打撃を受けました。宿泊・観光業は、大半の事業者が休業し、再開した6月以降も予約が入りづらい状況。飲食業は、接待をともなう飲食店だけでなく多くの飲食店が休業し、店により差はあるものの4、5月の売り上げが前年比50%~90%減少。また、インバウンドでは、今年4月の鳥取県内の外国人宿泊者数は1,180人と、対前年同月比92.4%減少。外国人観光客数の多かった鳥取県内の主要観光施設では、外国人入館者数が大きく減少し、98~99%減少しているそうです。このような状況を受け、鳥取県では以下のような事業をいち早く展開し、国内観光需要の喚起と県内事業者のサポートに取り組まれました。その事業効果はどうだったのでしょうか?

コロナ禍前の鳥取砂丘 ©鳥取県

■#WeLove鳥取キャンペーン(観光戦略課)

鳥取県民を対象に、県内の宿泊施設や観光施設、体験型観光メニューを利用する場合の経費を一部支援(補助率:2分の1(上限:3千円/人/回))。制度利用者には、任意ではあるが県内の観光地の魅力をSNS等を通じて発信していただく取り組み。制度利用可能施設には県内の237施設が登録し、約8万人(補助金交付額53,000千円)の方に利用いただいたとのことです。鳥取県の総人口は約55万人ですので、県民の15%の利用があったことになります。事業に参加した県内観光事業者、各施設からは、「キャンペーンの実施により、多くの県民の方に来訪いただいた。」「県民の方の反応が予想以上で、大変良い取組であった。」という意見が寄せられ、県内観光の需要回復に一定以上の効果が得られたようです。

                     #WeLove鳥取キャンペーン ©鳥取県

 

■クラウドファンディング みんなで応援「とっとり券」プロジェクト(販路拡大・輸出促進課)

コロナ禍で売上減に悩む店舗をクラウドファンディングの仕組みを使った即時入金で支援するとともに、20%のプレミアムを付けた「とっとり券」の利用(20%の上乗せ分は県が負担)で店や街の賑わいを取り戻す取り組み。一般的なクラウドファンディングは、何か達成したいプロジェクトに対して必要な経費を募集し、目標金額に達すればプロジェクトが実現できるという仕組みですが、今回の「とっとり券」プロジェクトはクラウドファンディングの仕組みを使って、前売券をネット販売する取り組み。全国的な自粛ムードもあり、すぐに需要を喚起することは難しいことから、この方式で実施。コロナ支援の補助金が多数組まれている中、県民との協働で応援することを重視したほか、本課は本来、食や民工芸品の販路拡大を担う部署で、飲食店や宿泊・観光施設などは担当外でしたが、企業支援部署や観光部署など他部署とも連携し、コロナで影響を受けた全業態を事業対象としてプロジェクトを進められたそうです。結果、事業効果としては、県内1,327店舗(飲食店約800店、宿泊施設約160施設のほか、観光施設、理容所・美容所など多岐にわたる店舗が参加)が参加。当初想定300店の4倍を超える参加があり、支援総額も247,060千円 (支援者数:9,347人)と支援総額も当初想定5千万円の約5倍と、予想以上の反響がありました。このプロジェクトに参加した店舗からは、「前払いなので、とにかく事前に入金してもらえるのがありがたい」、「プロジェクトへの参加でモチベーションが高まった」などの意見が寄せられ、県内事業者にとって大きな力となったようです。

                    “とっとり券”イメージ ©鳥取県

 

2. マイクロツーリズムの可能性

 マイクロツーリズムの可能性について、観光戦略課の担当者は、「県民限定の事業を実施し、県内の皆さんに県内観光地、宿泊施設をご利用いただいたことで、県内観光の魅力の再発見に繋がった。」と話します。そのほか、県内のある中学校では、従来、東京都内で2泊3日の修学旅行を実施していましたが、今年は、地元県央の三朝温泉(みささおんせん)に宿泊しながら鳥取県内の観光地等を巡りました。「地元の子どもでも地元の旅館に泊まることはほんどなく、地域の魅力や産業を知るとともに、地元を知り、地元を愛することで次代を担う人材育成にも繋がるものとして新たな可能性にも期待している。」とお話しいただきました。

 魅力ある観光地づくりにおいては、地域住民の理解や協力が不可欠だと思います。コロナ危機により、観光産業が大きな影響を受けたことは確かですが、これにより地域住民が地元や近隣地域についての理解を深めるとともに新たな魅力を発見し、また、観光産業の重要性に気付ける良いきっかけになっているのではないでしょうか。コロナ危機を乗り越えたとして、その先に元どおりの観光の姿があるかというとそうではないでしょう。マイクロツーリズムの推進等で得られた新たな価値感やコロナ禍で取り入れた新しい観光形態は未来の観光業の「あるべき姿」につながっていくのではないかと今回取材を行った中で感じました。

 

3.ウィズ・アフターコロナにおいて自治体に求められることとは

 前述の取り組みに加え、自治体には今後どのような対応が求められるのか、考えていくべきなのか、担当者に意見を伺いました。

■安心・安全な観光地づくりの推進

 鳥取県では、県内の実情に応じた感染拡大の予防と社会経済活動の両立を図るため、関係団体の意見や専門家の協力のもと、飲食店、宿泊施設等の15業種について、県版の感染拡大予防ガイドライン※を作成。また、5月からは、感染予防対策に自ら取り組む店舗を応援するため「新型コロナウイルス感染予防対策協賛店」制度を運用(協賛店ステッカーと感染予防対策の実施内容のチェックリストを店先に掲示/9月30日現在、2,888店舗が登録(全体の2割程度))しているほか、模範的な感染拡大予防対策を行っている店舗を県が認証する「新型コロナ対策認証事業所」制度も運用(9月30日現在、8事業所を認証)するなど、お客様に安心して利用していただける安全・安心な観光地づくりの推進が重要と考えています。

                  感染予防対策協賛店 第1号店登録時 ©鳥取県

 
■休暇の分散化と滞在型観光の促進

 新型コロナウイルス感染症を契機として、ゴールデンウイークやお盆休みといった大型連休に大人数が移動する従来型の観光では、三密を防ぐことが困難であり、転換を図っていく必要があると考えています。休暇の分散化が図られることにより交通機関や観光名所では混雑の緩和が期待できるほか、宿泊施設、観光施設においても、観光需要が平準化されることにより、生産性向上による経営の安定化や従業員の安定確保に繋がると考えています。

 

4.最後に ~取材を終えて~

 観光だけでなく、販売、物流・商流などの分野でも変革が起こり、従前のやり方では対応ができなくなってきていますし、今後も続いていくと思います。そうした社会変革にスピーディーに、臨機応変に対応していくことが自治体に求められるところではないかと、今回の取材を通じて感じました。鳥取県は、人口規模や面積などコンパクトであることの利点を最大限活かした機動的な取り組みや、新たな取り組みも試行的にチャレンジできるのが強みだと思います。今後も鳥取県の取り組みに注目するとともに、ウィズ・アフターコロナにおいても益々邁進されますことを期待しています。

 

 

※鳥取県版業種別予防対策例(ガイドライン)→ https://www.pref.tottori.lg.jp/291778.htm

 

                                          (経済交流課 田村)

 

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