事例紹介

急速に回復する訪日客に対応するためのDX推進と旅ナカ&帰国後の越境EC整備

Rakuten USA Inc.

自治体国際化協会 プロモーションアドバイザー

大倉エリー

 

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はじめに


 今年6月から7月にかけて、活動拠点である米国から日本全国の都道府県庁を直接訪問し、インバウンドに関わる観光推進担当の方々、県産品輸出に関わる輸出推進担当の方々、国際交流やスタートアップ支援など、約110名の海外と接点のある職員の皆さまと直接対話が実現しました。

 新型コロナウイルス感染症収束後の外交回復が非常に早かった米国は、現在は既にコロナ禍前の日常を取り戻して1年以上が経過している一方、日本では、今年の5月にコロナの位置づけがインフルエンザと同じ「5類」に移行したことにより、制度だけでなく自治体側の精神的な余裕も含めてようやく受入体制が整いつつあります。そうした中で、急務である訪日観光客対応を行っている自治体も多く、多岐にわたる課題に直面していることを目の当たりにしました。

 訪日観光客の受け入れ再開がいよいよ本格化し、政府の目標である「訪日外国人観光客数6,000万人」と「訪日外国人旅行消費額15兆円」を達成するためには、急速な対応が多岐にわたる局面で求められていると考えます。今回は、訪日時に各自治体の皆さまから多く耳にした課題に対して、訪日時に経験した外国人目線での気づきや、海外での対応事例を簡単に紹介します。

 

 

観光産業人材不足に対応すべくDXの推進


 日本の各都道府県を巡り、特に深刻な問題として浮き彫りになったのは「観光産業の人材不足」です。ホテル・旅館業界では約9割が「人手不足」を抱えており、コロナ禍による一時的な離職からの回復が難しい状況が続いています1。多くのホテルで、利用可能な部屋数を50%に制限して販売しているという話を耳にしました。

 

(図:時事ドットコムニュース:【図解】ホテル・旅館業界の「人手不足企業」の割合)

 

 この問題への解決策として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用が考えられます。これによって、人の介入が本当に必要な部分とそうでない部分を選別し、業務の効率化を図ることが可能となります。

 米国でのホテル業界におけるDXの取り組み事例として、「Citizen M」というホテルをご紹介します。米国もまた、人材不足という問題に直面しておりますが、このホテルでは、「24時間セルフチェックイン・チェックアウト」という自己受付システムをはじめとするDXの取り組みを展開することで人材不足問題に対応し、効率的な経営を実現しています。またその他にも、多様化するホテルステイニーズに対応すべく、ホテル内にワークスペース(ラウンジ・会議室・Wifi/コンセント)を整備するなど、コロナ禍による社会情勢の変化に適切に対応しました。その結果、コロナ禍後もコロナ禍前と変わらず安定して高い人気を誇っています。海外では、この「セルフチェックイン・チェックアウト」というシステムは多くのホテルで採用されています。

 

 

 

 

(写真:Citizen M Los Angeles Webサイト)

 

 また、高齢化や人材流出により地方で深刻な人材不足が進行している中で、コロナの流行はタクシーやバスなどの二次交通機関における人材不足にも拍車をかけました。外国人観光客は荷物が多いことから、タクシーの需要が高いにもかかわらず、いまだ十分な供給ができておらず、私自身も訪日時に、必要なときにタクシーが利用できず不便に感じた経験を何度かしました。

 この問題においても、DX化が解決のカギになると考えます。私が住むカリフォルニアでは、「Uber」や「Lyft」などの一般のドライバーが自家用車を使って有償で乗客を送迎するライドシェアアプリが普及しており、日常的に利用されています。特に空港からの利用が多く、観光客にとって便利なサービスとなっているだけでなく、登録さえすれば誰でもドライバーを担えることで、人材不足にも一役買っています。

 日本国内では規制が厳しく、新たなライドシェアアプリの導入は難しい状況ですが、「GOタクシー」「DiDi」「S.RIDE」といった新しい配車サービスが登場しています。特に外国人にとって、言葉の壁がある中でも簡単に目的地に移動できる配車サービスはニーズが高いですが、ドライバーにとっても効率的に乗客を獲得できることから、ライドシェアアプリと同様にこのサービスも人材不足問題の解決策の一つと言えます。しかし、一部の地域ではまだ対応エリア圏外となっているため、今後は自治体としてもサービス拡充のための取り組みを模索する必要があると考えます。

 

 

訪日観光客向け物産品のPRと帰国後の越境EC販売


 訪日観光が回復しつつある中、全国各地で外国人観光客を見かける機会が増えてきています。特に近年の円安の影響もあり、多くの外国人が日本で積極的に消費しているようで、円安は外国人にとって、日本での旅行や買い物が魅力的になる一因と言えるでしょう。

 7月にリリースされた観光庁からの「【訪日外国人消費動向調査】2023年4-6月期の全国調査結果」からも、訪日観光客の消費額がコロナ以前の2019年に対しても大きく上回る消費を行っている結果が出ています。3

(引用:観光庁「【訪日外国人消費動向調査】2023年4-6月期の全国調査結果」)

 

 そうした中、各自治体の皆さまとの会話で聞かれたのは、たった一度の訪日だけでは終わらせないためにはどうしたらよいかという声でした。

 これについては、「日本ファン」の獲得がカギになると考えます。「日本ファン」となった訪日客は、今後何度も訪日してくれるリピーターとなり、長期的な観光収益が見込めるだけでなく、帰国後も日本を感じたい気持ちから、地域産品の購買にも繋がります。また、訪日するたびに帰国後の購買意欲が高まり、自国で日本の製品を手にするたびに訪日意欲が高まることから、訪日意欲と地域産品の購買意欲は相互に高め合う要素となります。

 そこで、来日した外国人観光客を「日本ファン」として取り込むため、訪日中に魅力を伝え、帰国後も継続的な関係を築く方法のひとつとして、以下のように観光部門と販路開拓部門が連携することを提案いたします。

 

 

◆訪日中:外国人に日本の魅力を伝えるための取り組み(観光部門)

 1.インタラクティブな体験:地域の文化や伝統を体験できるイベントやワークショップを提供し、

   参加者が直接関わることで深い印象を残す。

 2.ローカルガイド:現地のローカルガイドが、地域の魅力やストーリーを伝えるツアーや案内を提供し、

   親しみやすい雰囲気で情報を共有。

 3.グルメ体験:地元の食材や料理を楽しむフードツアーやイベントを通じて、地域の食文化を体験させる。

 

◆帰国後:継続的な関係を築くための取り組み(販路開拓部門)

 1.越境EC:訪日中に気に入った地域産品を海外でも購入できるオンラインショップを提供し、

   帰国後も購買体験を継続可能に。

 2.デジタルコンテンツ:訪日客が実際に体験している様子をSNSやウェブサイトでシェアすることで、

   フォロワーへのアピールを拡大。

 3.メールマーケティング:訪日客のメールリストを活用して、新商品やイベント情報を提供し、関心を維持。

 

 

 越境ECとは、海外のユーザー向けにインターネット通販サイトを通じて商品販売を行うことであり、外国人が気に入った地域産品を帰国後も購入できるこの越境ECの取り組みは、特に重要です。訪日客が体験した魅力的な商品にアクセスし続けることで、地域の魅力が長期的な関心と結びつき、ファンが続く可能性が高まります。このような事業施策は、現在の訪日観光ブームを活かし、地域経済の発展と国際的なコミュニケーションの促進に大いに貢献するでしょう。

 この訪日再開を機に、日本の地方都市に訪れた外国人の方が初めて気に入った日本酒に出会い、帰国後も継続して購入したいという要望もよく聞きます。

 このような際に、海外でも購入できるような越境ECの取り組みを進めておくことは、海外向けの地域産品の継続的な販売に極めて重要な役割になり、いまのこの訪日観光ブームだからこそダイレクトに繋がる重要な事業施策に1つになります。

 弊社では、この越境ECの取組として、楽天市場を活用した海外配送サービス「Rakuten Global Express」や、台湾・フランス・中国での越境EC販売も展開をしており、日本からの越境EC販売のサポートも実施しております。過去に、各国のプラットフォームを活用して、JETROや岐阜県庁、茨城県庁などとも地域産品のテスト販売を実施した実績もあります。

 また、現在、米国では弊社とストラテジックパートナーシップを締結している米国大手のWalmart社と、日本産品の越境EC販売を拡大する予定をしております。ご興味のある方は、是非お問合せください。

 

 

おわりに


 約1年ぶりに日本を訪問して、各観光地に人が戻り、そして各地域にも外国人の活気が戻ってきていることに非常に期待感を覚えました。多くの外国人にとって「日本は人生でいずれ行ってみたい国」として、非常に人気が高いです。また、コロナ明けの外国人観光客の訪日バブルに加え、約30年ぶりの超円安とも言われる状況による消費意欲の向上もあり、日本の観光業界には非常に明るい波が訪れています。このチャンスをしっかりと捉え、波を上手く掴むことができれば、消費額の向上や地域のファン作りを継続的に行うことができ、中長期的な日本ファン作りに繋がるでしょう。

 

※本文章は2023年8月中旬時点に書かれたものになり、記事掲出のタイミングでコロナ対策や記載されている時事状況が現状と異なる可能性があります。

 

 

 

 

 

 


Reference Data Source:

※1:Dive (ダイブ) 「宿泊施設、9割が「人手不足」を実感するも外国人の採用は半数以下」 (2023年7月18日)https://dive.design/news/4636/

※2:時事ドットコムニュース「宿泊業、7~8割で人手不足 民間調査で苦境浮き彫り―回復需要取りこぼしも」(2023年7月7日7時10分)https://www.jiji.com/jc/article?k=2023070600985&g=eco

※3:観光庁「【訪日外国人消費動向調査】2023年4-6月期の全国調査結果」(2023年7月19日)https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001619990.pdf

 


 

 

〈クレアからのお知らせ ~プロモーションアドバイザー事業のご紹介~〉

 クレアでは、海外プロモーションに精通した専門家(プロモーションアドバイザー)を自治体に派遣し、海外プロモーションの企画段階において、相談対応や専門的な助言・情報提供等を行うことで自治体の支援を行う事業を実施しています。本寄稿をいただきました、Rakuten USA Inc. 大倉エリー様もアドバイザーにご登録いただいております。

 セミナー講師としての派遣や、オンラインでの派遣も提供可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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