事例紹介

クルーズ船誘致によるインバウンドへの取り組み ~愛知県蒲郡市 大型豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の初寄港~

 近年、日本国内への外国船クルーズ寄港が増加しており、クルーズによる海外からの観光客の増加が期待されています。愛知県蒲郡市でも、2015年からクルーズ船誘致を開始し、2019年3月には同市初となる、大型豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」が寄港しました。寄港に際しては、クレアの「プロモーションアドバイザー事業」の活用等、さまざまな事前準備を行いました。

 今回は蒲郡市のダイヤモンド・プリンセス受入れのきっかけや、事前準備の取り組み、当日のクルーズ観光客へのおもてなしについて、蒲郡市観光商工課(現在は「観光まちづくり課」)に取材しました。

 

 

           蒲郡市の観光スポット(竹島)

 

 

クルーズ船誘致のきっかけを教えてください

 蒲郡市の臨海部は、もともと盛んな貿易港であり、近年の船舶大型化にも対応した国際物流ターミナルとして港を整備しています。その中で、2015年から-11m岸壁注1の一部が暫定供用開始となり、竹島やラグーナテンボス、蒲郡温泉郷などの観光地もあることから、それらの強みをさらに活かすために、クルーズ船の誘致を始めました。

 翌2016年には、国内クルーズ船「ぱしふぃっくびいなす」が初寄港。2019年3月には岸壁の延伸など、さらに港の整備が進み、より大型のクルーズ船の受入れが可能となったことから、大型豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の寄港が決定しました。

 

注1 -11m岸壁

船舶を横づけるために、港湾の埠頭に作った水深11mの岸壁

 

ダイヤモンド・プリンセスの寄港に向けて、どのような準備をしましたか?

~クレアの「プロモーションアドバイザー事業(クルーズマスター)」の活用~

 寄港に向けては、1年かけて準備を行いましたが、正直、これまでダイヤモンド・プリンセス規模の大型外国船クルーズが寄港したことはなかったため、初めは手探りの状態でした。

 そのため、クレアのプロモーションアドバイザー事業を活用して、クルーズマスターの清水克子氏を蒲郡市へ派遣してもらいました。清水アドバイザーには、当日のイベント会場となる市内の観光スポットを周っていただき、「テーマやストーリー性を持って見せたい場所と場所をつなげるのが効果的」等、当日の受入体制やおもてなしについて具体的なアドバイスをいただきました。また、ダイヤモンド・プリンセス寄港当日も蒲郡市へお越しいただいて、実際のおもてなしの様子から次回以降の寄港に向けてもアドバイスをいただきました。

 

蒲郡市にて助言を行う清水アドバイザー

 

プロモーションアドバイザー事業(蒲郡市への派遣事例)

愛知県蒲郡市派遣(平成30年11月)

当日はどのようなおもてなしを行いましたか?

~港でのおもてなし~

 当日は、港に多くの市民やゆるキャラが集まり、客船に手を振りながらクルーズ船のお出迎えをしました。下船後は、市民、学生による通訳ボランティアが観光スポットへの案内を行ったり、船の上からも見える特設ステージにて、小学生によるキッズダンスや中学生による吹奏楽演奏、空手演武等を行ったりして、蒲郡市で一体となってクルーズ観光客を歓迎しました。

 

ダイヤモンド・プリンセスを出迎える市民

 

~市内の観光スポットでのイベント開催~

 市内の観光スポットでは、各スポットの特色を活かしたイベントを開催し盛り上げました。とくに、クルーズ観光客のほとんどが海外の方ということで、日本ならではの魅力と蒲郡の魅力が味わえるよう、日本文化体験や桜のお花見、マグロ解体ショーなどのイベントを行いました。イベント会場にも市民、学生による通訳ボランティアの方々を配置し、歴史や文化について詳しく説明して、日本、蒲郡をより感じていただくことができたと思います。

 

 

   マグロ解体ショーの様子        日本文化体験の様子

 

 

 

~港でのお見送り~

 お見送りにも多くの市民が集まり、市長からクルーズ観光客への挨拶を行いました。クルーズ船からも非常に多くの方が外に出て手を振ってくれ、蒲郡市のホスピタリティを感じていただけたように感じました。当日お越しいただいた清水アドバイザーからも「蒲郡市の一体感を感じられるおもてなしで非常によかった。」というお言葉をいただきました。

 

手を振る乗船客の様子

 

ダイヤモンド・プリンセスを誘致した効果を教えてください

~クルーズ観光客の市内周遊による経済効果~

 クルーズ寄港のメリットの一つは、観光客に市内を周遊してもらうことによる経済効果です。そのため、オプショナルツアーを造成するツアー会社に事前にアプローチし、市内のコンテンツをツアーに組んでもらえるよう調整。ツアー会社へは、ツアーが造成される前にアプローチしなければならず、タイミングが難しかったのですが、常にアンテナを張り、船会社へ連絡を続けたおかげで、市内のコンテンツをツアーに組んでもらい、市内を周遊してもらうことができました。

 

~市民参加による国際交流への意識向上~

 他にもよかった点は、多くの市民がクルーズ観光客の方と交流できたことです。市民ボランティアはもちろん、港でのお出迎えや観光スポットのイベントにも多くの市民が参加し、一緒になって盛り上げることができました。それにより、市民の国際交流への理解や意識向上にも繋がったと感じています。

 

  

         ダイヤモンド・プリンセスを見送る様子

 

ダイヤモンド・プリンセス初寄港後、見えてきた課題を教えてください

~気象状況による影響~

 今回は特に季節物を旬のタイミングに合わせる難しさを感じました。三河湾の海が一望でき、満開の桜も見られる観光スポットをさくら祭り会場として用意しましたが、当日桜が咲いておらず、訪れた方が桜を見ることができませんでした。開花情報を事前に入手し、観光客が現地に訪れる前にアナウンスするなど工夫すべきだったと課題認識しています。日本の桜はとても魅力的なコンテンツであり、今後も観光スポットとして紹介していきたいため、観光客が現地に訪れる前に開花情報をアナウンスし、訪問するかどうかを選択してもらえるようにしたいです。

 

~日帰り温泉への誘客~

 蒲郡市には三河湾の景色を望むことができる蒲郡温泉郷があり、観光客にとても人気があります。クルーズ観光客も日帰り温泉へ誘客したかったのですが、結果的にあまり利用してもらえませんでした。原因として考えられるのは、事前説明や告知が足りておらず、温泉に入る準備ができていなかったことが考えられます。今後はPRの仕方を工夫し、温泉地へも誘客できるようにしていきたいです。

 

今後の展望を教えてください

 初寄港当時はダイヤモンド・プリンセスをはじめ、いくつかのクルーズ船寄港の予定が決まっていましたが、コロナの影響ですべての予定がキャンセルとなりました。今から、という時であったので残念ですが、今後、コロナの影響が少なくなった時の事を想定し、継続してクルーズ誘致ができるよう取り組んでいきたいです。

 また、さらなる観光コンテンツの発掘をしていきたいと考えています。近年の観光需要はモノ消費からコト消費にシフトしていますが、現在市内にある体験型のプログラムは、季節限定、かつ日本人向けの商品のみとなっています。今後は、年間を通じて、海外の顧客にも訴求できるような着地型商品の造成を目指すとともに、広域的に連携することで、市内だけでは限られる観光コンテンツを補完強化し、新たな地域の魅力創出を目指していきたいです。

 

 

取材先:蒲郡市 産業環境部観光商工課 係長 羽田野 裕昭 様

 

おわりに

 今回、蒲郡市に取材をして、ダイヤモンド・プリンセスの初寄港について、事前準備の段階から手探りながらも全力で駆け抜けてきた様子が伝わってきました。その結果、今後のクルーズ船受入れにも繋がる大きな一歩になったのではないでしょうか。

 蒲郡市でも活用されたクレアのプロモーションアドバイザー事業では、海外プロモーションの専門家たちから、専門的な助言・情報提供を受けられます。セミナー講師としてのアドバイザー派遣も行っていますので、インバウンドや海外販路開拓についてお悩みの自治体は、ぜひともお気軽にご相談ください。

 

プロモーションアドバイザー事業

https://economy.clair.or.jp/activity/dispatch/

 

(経済交流課 尾崎)

取材:令和2年1月

編集:令和4年12月

 

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