事例紹介

インバウンド消費に沸く人口3,746人の野沢温泉村がすすめたキャッシュレス決済への対応と海外カード対応のATM導入

 長野県の北部にある下高井郡野沢温泉村は、日本で唯一、名前に「温泉」がつく村で、13か所の外湯(共同浴場)めぐりが人気となっている観光地です。その歴史ある温泉や情緒ある町並みに加えて、日本有数の大きさを持つ野沢温泉スキー場があり、近年、オーストラリア人やニュージーランド人を中心とした外国人観光客で賑わうようになりました。人口約3,700人の野沢温泉村に、2018年には13万8460人の外国人観光客が訪れました。

                                                                                                                                                          (※本記事は、2019年度に取材されたものです。)

 

                                  野沢温泉スキー場の雪質は上質だと、多くの外国人観光客が訪れる

 

 

外国人観光客が増加する中で浮かび上がった課題

 野沢温泉村に外国人観光客が増えたのは、2000年代に入ってからでした。上質なスノーパウダーを目玉にした積極的なPR活動が功を奏し、2000年代後半に一部の外国人観光客の目に留まると、同村に魅了された彼らの中に移住する人が現れました。そうした在日外国人がより多くの外国人観光客を呼んだこと、さらに2015年3月に開業された北陸新幹線・飯山駅によって交通アクセスが大きく改善されたことによって、同村を訪れる外国人観光客は右肩上がりに増加しました。

 

            初心者から上級者まで、あらゆるレベルの人々が楽しむことができる

 

 

 外国人観光客が増えることによって、いくつかの課題も浮かび上がってきました。その筆頭が「決済」です。クレジットカード決済を希望する外国人観光客が多いにもかかわらず、対応できる施設・事業者は少なく、また海外の銀行で発行されたカードに対応するATMも限られていたため、何かを買いたいと思った外国人観光客が、クレジットカードで支払ったり、現金を引き出すことができず、多くの“売り逃し”が発生している状態となっていたのです。

 

 野沢温泉商工会で経営指導員を務める羽入田昌明さんは次のように話します。

 「たとえば飲食店関係。欧米の方は、日本人観光客と比べて泊っている宿で食事しない“泊食分離”を好まれ町中のお店で食事をする人が多いにもかかわらず、5~6年前は商工会に登録している飲食店の1~2割ほどしかカード決済に対応していませんでした」

 

 

講習会を転機にキャッシュレス決済の売上が6,500万円に

 そんな中、2014年にターニングポイントを迎えました。長野県と野沢温泉商工会が中心となり開催したキャッシュレス決済導入のための講習会によって、潮目が変わったのです。

 

 「そのときにはキャッシュレス事業を展開するスクエアさんが講師として来村されました。実は、それまでも地元の金融機関さんから事業者に対して、個別にカード決済の提案はあったようなのですが、手数料が5~6%ということでした。しかも新たに機械を導入しないといけないとあって、現実的ではないというのが事業者のみなさんの意見だったのです」

 

                 外湯巡りは、外国人観光客にも人気が高い

 

 一方、このときスクエアが提示した手数料は3.24%でした。さらにスマートフォンさえあれば対応でき、導入コストが安いということで、「やってみよう」と考える事業者が出てきたと言います。

 

 「講習会に参加した約20事業者のうち半数が実際に導入したと記憶しています。機械や設備投資が不要でしたので、うまくいかなかったらやめればいいということで、踏ん切りがついたところもあったのだと思います」

 

 「スマートフォンの操作に慣れている事業者ばかりではなかったため、使い方に手間取ったり、キャンセル方法がわからないなどのトラブルが少なからず発生したものの、概ね好評でした」と羽入田さん。キャッシュレス決済での売上は前年までほぼゼロでしたが、2014年~2015年のシーズン期間にはエリア全体で6,500万円に上りました。

 

 その後、地域の金融機関からも、同程度の手数料でのカード決済サービス導入の提案がなされたこともあり、現在は6~7割の飲食店がキャッシュレス決済に対応しているそうです。羽入田氏はこう分析します。

 

 「こういう田舎では新しいことをしたがらないものです。接客スタッフは、地域のおばちゃんが担っていたりするからです。それでも、ここまで対応が進んだのは、できる事業者から始めてみたということが大きいと思います。できるところ、やりたい人が率先してやってみて、それが便利で使い勝手が悪くなく、実際に売上につながっている。それならば、『うちもやってみようかな』と広がっていったのでしょう」

 

             多くの外国人観光客が訪れることで、町の雰囲気も一変した

 

 

海外のカードに対応したATMの導入

 キャッシュレス決済への対応だけでなく、海外の銀行で発行されたカードに対応したATMの導入についても、野沢温泉村では街ぐるみで対応を進めました。キャッシュレス決済に前向きになれない事業者もいるためです。

 「たとえば1個数百円のキーホルダーは原価率がかなり高いので、土産物屋などは3%の手数料でも大きな負担になると感じているようです。そうしたところでは、現金決済で対応していきたいと考えていると聞きます」

 

                           海外カード対応のATMを導入することで、現金での支払いも増えた

 

 そうした理由から、引き続き現金決済も重要であると考えている野沢温泉村では、これまでにATMの営業時間拡大への要請と誘致を行ってきました。羽入田さんは次のように話します。

 

 「野沢温泉エリアには、現在2つの海外カードに対応したATMがあります。1つはゆうちょ銀行で、地域の飲食店からの強い要望があり、外国人観光客が増えるスノーシーズンは営業時間を延長してもらっています。もう1つはこのエリアの地銀である八十二銀行に要望を出して、設置してもらったものです。2016年に野沢温泉観光協会をリニューアルした際、施設内にセキュリティ面を考慮したスペースを確保したことで、ATMを誘致することができました。どちらも特に冬場は外国人が列を作っている様子を見かけます」

 

 

まとめ

 「これまでと同じやり方ではいけない」。これは地域が外国人観光客の恩恵を受けるために、必要不可欠な視点です。しかし、事業者が個々でキャッシュレス決済を導入することはハードルが高いでしょう。野沢温泉村が進めてきたように、自治体が主導となり、街ぐるみで新しい事業を始めることで、事業者同士で問題を共有することもできます。目まぐるしいインバウンドのニーズの変化に対応するには、こうした自治体のリーダーシップが必要となるのかもしれません。

 

 

           

 

 

 

                                         (やまとごころ編集部

 

 

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