事例紹介

埼玉県は産官学でハラール化粧品の開発に挑む

ハラルの化粧品市場の調査レポートを配布した

ハラルの化粧品市場の調査レポートを配布した

埼玉県は、化粧品の生産量が県別で国内トップクラスだ。しかし、ここ最近は、需要の低迷により売り上げが伸び悩んでいる。そこで海外への販路拡大につながる取り組みが始まった。イスラム教徒向けにハラール化粧品の開発だ。インバウンドにも重要な商品になりそうだ。

ポイント:
埼玉県は化粧品メーカーの集積地であり、その強みをインバウンドに活かす
ハラールについての知見を高める研修会や参考書の制作で県がバックアップ
地元大学の国際的な人脈が新しい挑戦への起爆剤に

日本百貨店協会によると、外国人観光客に人気のあった商品の順位は、化粧品が第1位で、婦人服飾雑貨、ハイエンドブランド、婦人服、食料品と続く。大手化粧品メーカーの担当者によると、昨年、平成26年10月の免税枠拡大にともなって、銀座の百貨店では、前年比800%の伸びだという。新しく化粧品が免税品に入ったのは、ショッピング業界にとっては大きなインパクトだった。特にメイドインジャパンの化粧品が外国人旅行者には人気なのだ。

ところで、国内の化粧品の生産額が平成24年、25年と全国で1位なのが埼玉県だ。化粧品メーカーがOEM生産を含めて250社もある。
その埼玉県において、ハラール(※1)化粧品の開発が進んでいる。

※注1:ハラールとは、イスラム教上許されることを意味する。例えば、お酒や豚肉は許されないが、鶏肉やお茶は許される。

埼玉県は、インバウンドはもちろん、海外にも化粧品の販路を拡大したいと考えている。地域の産業や雇用を創出する取り組みの一環だ。現在、化粧品の国内需要だけでは、売上高が減ってきている。そこで地元企業の海外展開を支えることがミッションとなっている。

具体的な取り組みとして、ハラール化粧品の開発がある。

原材料では、豚由来、アルコール由来は許されない。工場についても専用化しなければならないなど細かい規定がある。

ハラール化粧品の開発が始まったのは、わずか2年前のことだ。
提言をしたのが、城西大学の杉林堅次副学長だった。平成25年の秋のことだ。
同氏は、東南アジアへの出張経験が多く、マレーシアのハラール化粧品について、現地の大学の専門家との人脈もあり、化学成分についての情報交換をしていた。
そこで、埼玉県に対し、ハラール化粧品の開発を提言し、県内の「産学官」を結んだコンソーシアム案が浮上した。
平成26年4月に正式に委員会が設立された。
「埼玉県化粧品産業国際競争力強化委員会」という名称となった。

委員会の目的は、イスラム市場への参入を検討している埼玉県内の化粧品製造業者及び製造販売業者を支援することだ。
大きく分けると研修事業と調査事業の2つの事業があり、最終的にはハラール化粧品の製造を実現し、販路の獲得を目指す。

委員会では、その一環として、「ハラール化粧品GMPリファレンス」という参考資料を作成した。これには、ムスリムが使用できる化粧品に関する基本的事項、ハラール認証取得準備のためのノウハウなどが、1冊にまとめられている。
ハラール化粧品の製造管理・品質管理の参考書として作成した全国で初めてのものだ。
化粧品製造業者が遵守している製造管理・品質管理の基準(GMP)の管理項目に、政府機関として唯一ハラール認証を行っているマレーシアの認証基準を取り込んでいるのも画期的だ。さらにマレーシア政府機関や日本の認証機関から得た情報を補足として追記している。
杉林氏は、マレーシアのハラール認証団体の「JAKIM(ジャキム)」(※2)とコンタクトして、化粧品の成分や製法についての基準をヒアリングして、科学的観点からサポートした。

※2:ジャキムとは、マレーシア政府が管掌するハラール認証機関のことで、政府が関わっているのは、世界でもマレーシアのみ。一般には宗教団体が関わるケースが多い。

平成26年と平成27年に2回の研修会を実施した。ハラールとは何かを基礎から学ぶもので、200社が参加した。
実施した内容は、「海外におけるハラール認証取得事例」、「ハラール化粧品ビジネスの可能性について」。平成27年11月30日の4回目の研修会では、インドネシア、UAEにおける化粧品についての市場調査の結果報告、海外での認証を取得した化粧品企業の話などを網羅した。

この市場調査は、専門のコンサル会社に委託し、インドネシア、UAEで旅行者や在住者に聞き取りを行った。
わかってきたことは、例えば、すべての年代で、半数の女性が礼拝ごとに化粧を落とすということ。これは、化粧の回数が、一般の方よりも多くなり、肌へのケアが大切になると想像される。

そのため、購入時の選択の理由は、約80%が「使い心地と肌への優しさ」という回答であった。他よりも群を抜いて多い。

また、90%の人が、ハラール製品が増えることに期待しているという回答であった。

県は、ハラール化粧品を開発するコンソーシアムへの助成を行い、地元メーカーに取り組んでもらった。メーカー2社が、平成27年3月に各3品の商品を完成させた。基礎化粧品が中心だ。

今回、ハラール化粧品の開発に挑戦したメーカーのひとつ、株式会社コスメサイエンスは、もともと、スキンケアの自然化粧品を得意としているメーカーだ。ハラール化粧品は、肌に優しい自然化粧品を応用するのに向いているという。
イスラム教では、1日に5回ある礼拝ごとに、化粧品を落とし、お祈りをする。そのため、肌に刺激のない成分が求められる。もちろん、豚由来やアルコール由来はNGだ。今後は、OEM生産として、普及させたいと担当者。

平成27年11月に千葉県の幕張メッセでジャパンハラールエキスポ2015が開催され、そこに埼玉県ブースを出展した。また1月に東京ビッグサイトで開催された国際化粧品展にも出展するなど、販路拡大の取り組みが続く。

石田香粧のハラル化粧品

石田香粧のハラル化粧品

ハラルセミナー開催の様子

ハラルセミナー開催の様子


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

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