事例紹介

長野県はスノーモンキー人気を商機と捉え、新しい取り組みを促進

1998年に開催された長野冬季オリンピックを契機に海外で注目され始めた「スノーモンキー」。温泉に浸かる野生の猿たちのことだ。本物見たさに観光客が世界中から足を運ぶ。中でもオーストラリア人は白馬などからスキーの合間に訪ねてくる。長野県としても訪日外国人の取り込みに高い目標を掲げ、キラーコンテンツとして訴求している。

春の松本城

春の松本城

<今回のポイント>
1:自治体は東南アジアに力を入れて種を蒔く
2:積極的な事業者を後押しする
3:キラーコンテンツを県全体の資産に育てる

「スノーモンキー」は海外で人気である。長野県の山奥にいる猿たちのことだ。

志賀高原に近い山ノ内町にある「地獄谷野猿公苑」では、雪のなか、猿が温泉につかり、気持ち良さそうにのんびりする。そんな癒しの光景は、日本だけのものだろう。この「地獄谷野猿公苑」の光景が海外からも注目を集めているのだ。

海外メディアの報道、YouTube動画、実際に現地を訪れた外国人ブロガーたちの紹介により、認知度が高まった。「スノーモンキー」という名前で親しまれている。

なぜ、ここに猿たちが集うようになったのか?

50年ほど前、地獄谷の旅館の露天風呂に猿達が集まり浸かるようになった。しかし、猿達は気持ちよくなると風呂の中でフンをしてしまう。そのため、衛生面への配慮から、猿専用の温泉を作ることになった。人が猿との共存を大切にしようとする姿勢がルーツになっている。

スノーモンキーは、1990年代から海外のメディアで取り上げられるようになった。長野冬季オリンピックが契機だったそうだ。
アメリカの「ライフ」という雑誌で取り上げられ、またイギリスのBBCの教育チャンネルで継続的に取材を受けた。

ちょうどその頃の日本は、オーストラリアからスキー客が増え、北海道のニセコに次いで、長野の人気も上昇していた。

理由としては、日本の伝統的な文化も楽しめることだと、長野県観光部の職員。

オーストラリア人は、1週間前後と長期で滞在し、スキー三昧の合間に、近隣の観光も楽しむ。善光寺、松本城などの歴史的・文化的なもの、さらに「スノーモンキー」というユニークなコンテンツが喜ばれている。
今では外国人向けの現地発着のツアーも存在し、例えば白馬から地獄谷野猿公苑を巡り、ランチ、最後に善光寺を訪れるというデイツアーがある。
地元関係者の粘り強いプロモーションの成果もあって、いまでは多くのスキーヤーが世界中から長野に集まってくるのだ。

長野県としても、スノーモンキーは県全体のキラーコンテンツという認識だ。日本には、北海道や東北など、スキー場が多く、外国人にとっては、どこを選んでよいかわからない。その時「スノーモンキー」が、訴求ポイントになる。

隣接地域との連携も強化し、岐阜県、富山県と組んだ白川郷+立山黒部アルペンルート+スノーモンキーの3カ所を巡るコースが人気となっている。
まさに長野県のキラーコンテンツになりつつある。

県がインバウンドで積極的に取り組んでいることは、大きく2つある。
それはPRと観光事業者へのバックアップだ。

PRについては、東アジアの台湾、中国、香港、韓国、そして新市場である東南アジアのタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアで重点的に行っている。主に国際旅行フェアへの出展や広告がある。

一方、新興市場を中心に、観光事業者のネットワークづくりも積極的にバックアップしている。現地商談会の開催や共同セールスを通じて、現地旅行会社との人脈づくりをサポートしている。2014年には、インドネシアのジャカルタで、長野県から10団体、現地から25団体が参加し、初めて商談会を開催した。

長野県としては、2013年の外国人宿泊者数が約36万人泊のところを、2017年には50万人泊を目指している。
これを実現させるためには、成長著しい東南アジア市場の開拓に力を入れ、それと同時にインドネシアやマレーシアを念頭に置いた、ムスリム対策も必要だと考えている。
県では、観光関係事業者等を対象に、東南アジアの訪日旅行市場やムスリム対応の研修会を一昨年から開催している。

地獄谷野猿公苑の入り口にある「猿座カフェ」では、2014年の夏のリニューアルを機にメニューから豚肉をなくした。ムスリム対応として、「鶏白湯(ぱいたん)ラーメン」をメーンメニューに据えたのだ。

ところで、ここを運営するのは、シンガポールに本拠地を持つ「まちノベイト社」という会社だ。昨年2014年の冬、遊歩道の入り口に、外国人観光客をサポートする施設もオープンさせた。周辺の観光情報の提供と、土産物販売のほか、防寒具や雪道用長靴のレンタルもある。英国人スタッフが応対し、外国人に好評だ。

県では、交通事業者と共同で、外国人旅行者向けのフリーパスも企画している。冬季に、県北部の特定の路線でバス・電車が5千円で2日間何度でも乗れる乗車券を県内主要交通事業者と連携して企画・販売している。
例えば、白馬から地獄谷野猿公苑へ向かう場合、公共交通機関の通常料金は往復で6千円以上かかるが、「パス」にお得感を持たせている。また、外国人旅行者にとって煩雑な区間ごとの支払いの手間からも解放されることになる。

長野県では、スノーモンキーを訴求ポイントに置いたプロモーションや受け入れ整備が進んでいる。
地元の八十二銀行と長野県内の地域金融機関、政府系ファンドの「地域経済活性化支援機構」は共同で、観光産業の発展に向けた取り組みの支援を行う「ALL信州観光活性化ファンド」を設立した。最初のモデル地域として、スノーモンキーの山ノ内町を選定したのだ。

今後もスノーモンキーを軸にインバウンドの取り組みが発展しそうだ。

湯田中渋温泉(山ノ内町)

湯田中渋温泉(山ノ内町)

地獄谷野猿公苑

地獄谷野猿公苑


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

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