事例紹介

新たなPRの形~ライブコマースの活用について~

 

 コロナ禍において、インバウンドが落ち込む中、ライブコマースという新たなPR手法が注目され始めています。ライブコマースとはリアルタイムで商品の出品者・販売者に質問やコメントを投げかけることが出来るテレビショッピングのインターネット版であり、紹介する商品をより深く視聴者に理解してもらうことができる特徴があります。

 今回は、この新たな手法を活用して、Trip.comグループと連携し、中国向けに地域の魅力発信を実施された横浜市観光振興課担当係長の平岡史明さんと、山梨県観光振興課国際観光振興担当主任の竹井杏奈さんにお話を伺いました。

 

 

 ライブコマースPR画(山梨県)

 

 

ライブコマース実施のきっかけ

 ライブコマースという新たなPR手法は、日本ではまだ聞きなれないかもしれません。自治体として、いち早くこの手法を取り入れ、先進的な取組を実施された横浜市と山梨県、そのきっかけについて伺いました。

〇横浜市

 「横浜市は、観光客の更なる増加を図るため、Trip.comグループと2018年に連携協定を締結しました。今回の取組は、中国の観光客の海外渡航の見通しが立たない中であっても、動画配信が多くの方々に視聴され、予約販売という形でも日本を含めた海外のホテルの客室が多数販売されているということを教えていただいことで実施に至りました。」

〇山梨県

 「きっかけは、第1回日中観光代表者フォーラム(開催:山梨県北杜市)にTrip.comグループが参加していたことです。コロナ禍では、直接現地を訪問して誘客活動ができないことから、現地のFIT(海外個人旅行客)とオンラインで相互交流や意見交換のできるプロモーション方法を模索していたところ、中国で今一番注目を浴びているライブコマースをご提案いただいたことで実施に至りました。」


 

 

取組の成果と工夫

 中国では、ライブコマースが既に当たり前の存在となっており、インターネット人口の半数以上がライブコマースでの購入経験があると聞きます。その中でも、特に旅行に関心のある視聴者向けに発信された今回の取組、その成果はどうだったのでしょうか。また、海外の視聴者の趣味嗜好は我々の考えるところと違いもあるかと思いますが、配信するにあたり、視聴者を惹きつけられるよう、工夫されたことは何だったのでしょうか。

〇横浜市

 「客室販売数が目標値の4倍以上となる873室を達成し、特集ページ視聴者数120万人以上、ライブ放送視聴者数100万人以上と、それぞれが目標値を大きく上回る結果となりました。

 旅行に興味のある中国の視聴者に関心を持ってもらえるよう、横浜の魅力を中国で人気の作家に紹介していただき、また、新規オープンのホテル等の施設を取り入れるなど、今の横浜を知ってもらえるような発信に努めました。今までと異なった形式で市の魅力を伝えることができ、視聴者にも非常に面白く感じてもらえました。」

〇山梨県

 「約112万人が視聴し、約888万円(宿泊施設数352室)の売上を記録しました。また、視聴者からは約17万個の「いいね」と約4,800個のコメントをいただいたことで、情報がしっかり届いていると実感しました。

 工夫したことは、まず、中国人観光客の求める、「自然」、「美食」、「3密回避」、「30~40代の子供を持つファミリー層向け」等をキーワードに観光コンテンツの絞り込みを行ったことです。次に、特徴ある観光資源を中国で好まれる躍動感のある1分程度の縦動画で紹介したことです。更に、山梨県に精通しており、美食家として中国国内外でも有名なKOL(キーオピニオンリーダー)を起用したこと、山梨県の感染症対策についても紹介し、高評価を得たことも成功要因の1つでした。」

 

大変だった点、重視したポイント

 初めての取組かつ海外への直接の発信ということもあり、苦労された点も多いかと思いますが、主にどういった部分が大変だったのでしょうか。また、重視されていたことはあったのでしょうか。

〇横浜市

 「今年度は、当プロモーション実施に至るまで、新型コロナウイルス感染症の影響により、何度も実施案を練り直すなど、最終実施に至るまでのプロセスに時間を要し苦労しました。

 当プロモーションを実施する内容・時期等の決定に際して、中国の観光市場に精通されているTrip.comグループとの密な連携を大事にしました。」

〇山梨県

 「1時間という番組を視聴者が飽きずに見続けるための企画案を練ることが非常に大変でしたが、放送中に景品が当たるくじ引きイベントを盛り込み、視聴者参加型にすることでより楽しんでもらえるように企画しました。

 ライブコマース開催時期の見極めから、本番中の画像・スタジオ状況の確認に至るまで、Trip.comグループの中国現地スタッフと瞬時に連絡が取れるよう、連携を密にすることを重視しました。」

 

 

取組後に見えた難しさ、新たな気づき

 様々な苦労を乗り越え、工夫をしたことで両自治体とも大きな成果を達成しました。実際に取組を実施した後に見えてきたこともあるかと思います。実施後に感じた難しさや新しい気づきはあったのでしょうか。

〇横浜市

 「予約販売を行ったが、新型コロナウイルスの影響により、渡航制限解除等の見通しがたたないことから、実際の誘客へダイレクトに繋げることが困難でした。」

〇山梨県

 「ライブコマースはエンドユーザー(FIT)に向けて、映像によって山梨県の魅力をダイレクトに紹介するという、これまでの旅行会社等を通じて商品化する手法とは違うものでした。大勢の人に直接情報が届く一方で、対面形式ではないため、1人1人に合った旅行の提案ができない難しさがありました。ただし、視聴者コメントなどから視聴者の趣味・嗜好の傾向を割り出すことが出来、今後のライブコマース活用の参考となりました。

 ライブコマースはターゲットの絞り込みが難しい反面、KOLの選定とSNSでの普及により、これまでの誘客活動では出会えなかった人達にも新たに山梨県を知ってもらうきっかけを作ることが出来たと感じました。」

 

今後のPR手法として、ライブコマースをどのようにとらえていますか

〇横浜市

 「プロモーション手法は日々刷新されていますが、ライブコマース等動画を活用したプロモーションは、直接的に中国市場の旅行に興味を持っているユーザーにアプローチでき、誘客に繋がると共に、横浜の魅力を伝え、認知を高めることもできるため、現状では有効と考えています。

 渡航制限解除の見通しが立たない中でも、予想を超える方々に横浜のホテルの客室を予約していただけたことに加え、多くの旅行に興味のある中国人の皆さんに横浜市や、市内の新しい施設等を知ってもらえたことは今後の誘客につながる収穫だと思います。」

〇山梨県

 「ライブコマースを通じて、誘客手法の変革期に来ていると感じました。これまでは現地の旅行博等でPRブースを出展することが主流で、実際に旅行するFITと直接意見を交わす機会は少なかったのですが、ライブコマースの仕組みでは、出演しているKOLが視聴者のコメントを拾いあげることで実際の旅行者が求めているものをその場で知ることができます。これに加えて、誘客活動の結果が売上金額や視聴者数、コメント等によって直ぐに反映されるという点においても、OTA(Online Travel Agent)と連携したライブコマースでの一番の収穫だと思いました。

 今後もライブコマースを使用し、現地のFITの声を直接聞き、研究することで本県の観光の見せ方や売り出し方に活かしていくことができると考えております。」

 

今後の展望を教えてください

〇横浜市

 「新型コロナウイルス感染症の影響により、今後の観光市場はFITやオンライン手配の加速等の変化が予想されます。訪日旅行手配に利用されるOTA等でのプロモーションや情報発信は継続して実施していきたいと考えております。」

〇山梨県

 「ライブコマースに限らず日々進化するIT技術を駆使した新しい取組を実施していきたいと考えております。また、海外旅行再開の際には、ライブコマースを視聴していただいた山梨ファンに中国でリアルに会うといった連動事業も行っていきたく考えております。」

 

今後ライブコマースに取組んでみたいと考えている自治体へのアドバイス

〇横浜市

 「現地の顧客へダイレクトにアプローチするプロモーション手法の一つとして有効ではないかと考えられます。」

〇山梨県

 「相手国のニーズに合わせたコンテンツと仕様を絞り込むことでより効果的なPRが可能ですので、是非現地の方の意見を聞き、連携して実施していただきたいと思います。」

 

取材を終えて

 IT技術の革新により、インバウンドにかかるプロモーションの手法も日々変化してきています。情報へのアクセスが容易となる一方、膨大な情報量の中に自分の発信したい情報が瞬時に埋もれてしまうことにもなります。ターゲット層により響くプロモーションの手法は何か、自治体も新しいものをどんどん吸収し、柔軟に活用していくべき時代なのではないかと感じました。本記事が、新たなプロモーション手法を模索している自治体にとって、少しでも参考になれば幸いです。

 

 

(現北京事務所 所長補佐 福田(元経済交流課 主査))

 

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