滋賀の「近江の茶」の歴史は古く、伝教大師最澄の時代にまで遡ります。平安初期の805年、最澄が唐の国より茶の種子を持ち帰り、比叡山の麓にまいたことが始まりとされ、これが日本の茶の歴史の始まりといわれています。また、近江の茶は、初めてアメリカへ輸出された日本茶でもあるといわれています。1853年に、アメリカのペリー提督が黒船で来日した際に飲んだことがきっかけとなり、しばらくの間、近江の茶がアメリカに輸出されることとなりました。
時代を超えて、近江の茶が再びアメリカへ渡るため、どのような取組がされているのか、滋賀県食のブランド推進課にお話を伺いました。
■アメリカへの販路拡大の取組が始まったきっかけは何ですか。
滋賀県では、昼夜の温度格差等の気候条件に恵まれていることから、香気、滋味(味のバランス・うまみ)とも最高水準の茶が代々栽培されてきました。しかし、国内での茶の需要は昭和50年をピークに減少の一途をたどり、人口減少等による国内市場の縮小等、課題が生じてきました。一方、海外では近年、抹茶ブームが起こっています。特に米国では若い世代を中心に日本由来のマインドフルネス(リラックス・集中力増強の方法)のブームもあり、緑茶が持つ従来の健康機能性だけでなく精神機能性にも注目が集まり始めていました。
このような背景のもと、平成29年から滋賀県茶業会議所では、輸出への取組が始められることになりました。同年には、JETRO滋賀が開設され、海外販路開拓の支援体制が充実しました。また、平成30年は、滋賀県とアメリカ・ミシガン州の姉妹提携50周年を迎える記念の年であったこともあり、一連の周年記念事業と連動したプロモーションを実施することとなりました。ミシガン州を「近江の茶」の海外展開のスタート地点として、滋賀県の農家、茶商、JA、JETRO、自治体等が一丸となった新たな販路拡大の取組が始まりました。
アメリカにおけるプロモーションの実施に取り組むにあたり、クレアのプロモーションアドバイザー派遣事業を活用しました。食品の輸出等に関する専門家である、米国カリフォルニア州登録特定非営利活動法人日本食文化振興協会に専門的な視点からいろいろとアドバイスをいただいたことが、効果的なプロモーションや商談の実施につながりました。
■これまでの取組で大変だったこと、気づいたことは何ですか。
当課だけで行う数回程のプロモーションだけでは、現地バイヤーとの関係強化や新たなバイヤーとの出会いは非常に困難でした。ミシガン州への販路開拓を始めて2年くらいは全く輸出につながらず限界を感じておりました。そんな時、ミシガン州に駐在する県駐在員が、既存バイヤーとの調整をはじめ、PRイベントの開催、現地広報誌への掲載等、積極的にPR活動を行ってくれました。特に新たなバイヤー探しでは、両県州の長きに渡る友好交流の中で絆を深めてきた関係者の方々にご協力いただいたことから、商談できるバイヤーが次々と現れ、輸出の可能性がどんどん広がっていきました。州都であるランシング市の市長にも、大手カフェのご紹介、商談へのご臨席等、非常に協力的にご支援をいただいています。
輸出面では、物流やマネーフローといった商流形成にも非常に苦労しました。県内事業者には、輸出事務を行う部門がないことから、米国の商習慣を理解し、英語によるスピーディーかつ適切な対応に課題があったことから、商談後の商流形成でつまずきました。当初、これらの対応をしてくださる商社等を探しましたが、なかなかうまく話が進まず、探し続けて2年経った頃、やっとミシガン州で輸入・卸業を担ってくださる方を見つけることができました。この事業者様には、輸入・卸業以外にも、県内事業者の輸出事務や英語での情報発信を含め、幅広くご支援いただいており、販路拡大がうまく進むようになりました。
ミシガン州でのPR及びバイヤーとの商談
■これまでの取組の成果や反響についてはどうでしょうか。
現在、ミシガン州でお茶を専門とする9バイヤーとの取引があり、中には、近江の茶を用いたオリジナルカクテルを提供しているレストランもあります。現地アメリカ人には、緑茶だけでなく、香りが特徴的なほうじ茶等も人気で、ミシガン州在住の日本人には、州内では高品質な日本茶が手に入りにくいことから、特上・上煎茶等の商品が人気です。
近江の茶の認知度に関しては、いろいろな関係機関や団体等の方々にご協力をいただいているおかげで、わずかながら向上してきているように感じます。また、州政府関係や団体、大学等のイベント開催時には、PRブース設置の依頼もいただくようになりました。
さらに、ミシガン州への販路拡大の取組を通して、近隣のシカゴやオハイオ州の関係事業者とのつながりもでき、今後、これらの州への展開も考えているところです。シカゴでは、まだ1社ですが、大手バイヤーとの取引が始まりました。
近江の茶を取り扱っていただいているミシガン州内のカフェ
■販路拡大の取組が順調に進んでいた中、新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。今までの活動について、どのような影響がありましたか。
外出自粛等の影響により国内外ともに生産・流通・販売関係の事業者は甚大な影響を受けています。今年の春には、ミシガン州のバイヤーらが来県し、茶園の取材等をしていただく予定をしていましたが、中止となりました。また、現地プロモーションの実施の見通しも立たない状態です。
■新型コロナウイルスの影響により、思うようにPRができない状況ですが、認知度の低下等の懸念はありますか。
バイヤーや現地輸入事業者を含め、今まで築いてきたネットワークの強いつながりがあるので、認知度低下については大きな心配はありません。現地輸入事業者の方がインスタグラムで世界中に情報発信をしてくださっているおかげで、色々な国や地域から注文やサンプルの問い合わせがきています。また、上述のように、現地でのプロモーションの目途が立たないなかでも、今年の7月頃からバイヤーからは近江の茶の追加注文をいただけています。シカゴのバイヤーとの取引は始まったばかりですが、こちらからも追加オーダーや新規商品の取り扱いについても提案をいただいています。
■感染状況が落ち着いた後は、どのような活動を考えていますか。
現地でのプロモーション活動ができるようになれば、取引のある店舗と販売促進活動を再開し、消費拡大や認知度向上につながる取組を再開していくことを検討しています。
■最後に、今後の展望について教えてください。
これまでミシガン州への輸出につながってきたのは、多方面の関係者のみなさまからご協力が頂けたことであり、ミシガン州と滋賀県とのこれまで50年余りの友好交流で培われてきた土壌があったことが重要なポイントです。また、ミシガン州で開催してきた様々なPRイベントを通じて、県内事業者の方々もミシガン州のことが大好きになってくださっています。今後もミシガン州との友好の絆を大切にしながら、関係機関や団体等と連携し、近江の茶をはじめとした滋賀の食材の魅力提供を引き続き支援したいと考えています。さらに、ミシガン州から近隣都市への販路開拓支援についても進めていきたいと思います。
(経済交流課 福田)