事例紹介

墨田区は「ものづくり」と「観光」を融合した取り組みに挑戦中

東京スカイツリーのお膝元である墨田区はものづくりの町として長い伝統がある。しかし、ここ最近は、廃業が増えるなど斜陽化している。そこで、東京スカイツリーへの誘致をきっかけに「観光」と「ものづくり」を一体化させた施策が始まった。

東京スカイツリー(R)は墨田区の観光地の象徴

東京スカイツリー(R)は墨田区の観光地の象徴

ポイント:
・「ものづくり」という地域資源を観光にも展開する
・東京スカイツリーの誘致をきっかけに観光で活性化することに
・仕組みづくりなどソフトの部分に課題が残る

東京スカイツリーが建つ墨田区の押上(おしあげ)、業平(なりひら)地区は、平成24年度に国の海外観光客誘致の戦略拠点に選ばれた。外国人に向けた案内冊子が、中国語(繁体字、簡体字)、ハングル語(韓国語)、英語の4言語で制作された。そこには、墨田区らしい文化体験プログラムが多数掲載されている。その墨田区らしいというのは、下町の「ものづくり」の町を意味する。その特徴が生かされているのだ。

墨田区は、東京の下町にあり、もともと町工場が多いものづくりのエリアで、かつては葛飾北斎が活躍するなど、江戸時代からの伝統が息づく。戦後の高度経済成長期には、様々な製造業の町工場が軒を連ね、活気に溢れていた。
しかし、小規模経営のものづくりは、衰退産業になりつつあった。これを活性化させるために墨田区役所では頭を悩ませていた。

そこに東京スカイツリーの建設という話が持ち上がり、区としては、積極的に誘致活動に加わった。「ものづくり」=「観光」という新しい発想の転換があったからだ。

墨田区観光案内所がスカイツリー・タウンに入り、区内の工芸品の販売や実演コーナーも併設され、ものづくりの町・墨田区を知ってもらうための観光拠点になった。

誘致が決定した時期に前後して、「墨田区産業観光部観光課」が発足した。平成20年4
月のことだ。
産業観光部という名称は、観光による地元の町工場の活性化の狙いがあった。隣の産業観光部産業経済課とは連絡を密に取り合い、町工場などの情報を共有し合える環境だ。

また、この年、「墨田区観光振興プラン」(平成 20 年1月)が作成され、その方針の一つに、「産業と観光の融合」という目標が掲げられていた。
その中に「すみだ3M(スリーエム)運動」や「すみだ地域ブランド戦略」と連動した“ものづくり観光”の推進と明記されている。

この「すみだ3M(スリーエム)運動」とは、昭和60年にスタートした、墨田区の産業PRとイメージアップ、地域活性化を図る事業だ。
大きく3つのテーマがある。
1つ目は、区の産業や文化に関するコレクションを事業所や民家等で公開する「小さな博物館」(Museum)。
2つ目は、工房と店舗の機能を備えた、製造と販売が一体化した「工房ショップ」(Manufacturing shop)。
3つ目は、付加価値の高い製品を創る技術者である「マイスター」(Meister)。
この3つの頭文字をとって「3M(スリーエム)運動」と呼んでいる。

3つの運動を有機的につなぎ合わせ、ものづくりの素晴しさや大切さをアピールして、ガイドマップやwebサイトでもプロモーションを行っている。

開始当時は観光というテーマにはなっていなかったが、東京スカイツリーの誘致をきっかけに、大きく前進したという。
この発想の延長上にインバウンドの誘致があり、冒頭に明記した墨田区らしい文化体験プログラムが開発された。産業経済課が持っている町工場のデータベースを元に、インバウンド対応の声掛けが始まったのだ。情報の共有化がスムーズに進んでいる。

また一過性の盛り上がりで終わらないよう、墨田区観光振興プランという長期計画がある。その基本施策の1つが地域人材の育成だ。
プランでは、地域人材の育成について以下3つの方針を策定している。
・区民が観光資源や歴史・文化などについて楽しく学ぶ機会の充実。
・観光振興の担い手になることができるように、活動を支援する仕組みづくり。
・教育機関との連携も図りながら、次世代のすみだ観光の担い手の育成の推進。

さて、平成24年度にスタートした文化体験プログラムだが、商品化という目的は達したが、実際の販売となると苦戦している。
その中で、気を吐いているのが、「江戸文字体験」ができる「アトリエ創藝館」だ。

「以前、海外のテレビ番組や雑誌、フリーペーパーの取材を受けたことがあり、その情報がきっかけで探して来られたのだと思う。」と、オーナー。YouTubeにも体験の様子がアップされている。

旅行会社、観光タクシー、通訳案内士経由などいろいろなルートからやってくる。なかにはタクシーに乗って自力で来られた個人の方も。

ここでは、提灯や扇子に筆で江戸文字を描く体験をする。参加者は、主に海外の学校や会社関係者が多く、国籍を問わず、欧米、アジア、中東など幅広く、先日はドバイからの参加者もいた。
その中でも、やはり中華圏の反応が高い。漢字を知っているからだという。一方、欧米の人は漢字の知識がまったくないので、どちらが上か下かもわからないので、逆さまに書いてしまうこともあるそうだ。

書く体験の他に、江戸文字についても説明する。
なぜ太い書体なのか、なぜ右肩上がりなのかと。
そもそも相撲との関係性が高いというと、興味を持つそうだ。
太く書くのは、場所中の席を埋める願いもあって、なるべく余白がないようにするため。右肩上がりは、向上する、出世する意味もあり、縁起が良いと解説。

墨田区は、国技館があるなど、現代でも相撲の聖地。江戸時代から続くものづくりとの相性も良い。

今後はプロモーションが課題だ。特に販売チャネルなど、マーケティング戦略も必要だろう。
さらに外国語のサポートの問題、個人でも気軽に工房ショップを訪ねることのできる動線の問題、全体を統括する体制の問題など、山積みだ。
しかし、一過性に終わらせないためにも、一歩ずつ進めていくことを期待したい。

ものづくりのチラシでは、扇子づくりの解説を多言語で

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東京スカイツリー内にある産業観光プラザ すみだまち処

東京スカイツリー内にある産業観光プラザ すみだまち処

扇子ものづくり体験に挑戦する外国人観光客

扇子ものづくり体験に挑戦する外国人観光客


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

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