事例紹介

神奈川県の強みである産業観光により、インバウンドを推進

観光地だけが旅の目的地ではない。工場も目的地の一つになりつつある。神奈川県では産業観光という切り口で、産業関連のミュージアムや工場見学などの人気が高まっている。インバウンドに対応する施設も増えていて、県もそれを後押ししている。

カップヌードルミュージアムの外観はシンプルで個性的なデザインだ

カップヌードルミュージアムの外観はシンプルで個性的なデザインだ


ポイント:
・カップヌードルミュージアムなど、楽しめる施設が外国人にも人気
・神奈川県は産業観光を育てようと、情報発信を磨き上げ

 


■日本のモノづくりの歴史に外国人が感動する!

神奈川県は、湾岸沿いにある京浜臨海部工業地帯のほか、県内他地域でも工場の誘致が成功し、県全域がモノづくりの集積地になっている。

 

最近では工場での教育旅行の受入れや大人の社会科見学、工場夜景も人気となっており、産業観光として産業関連のミュージアムや工場見学などでは外国人観光客を含む受入れを幅広く進めている。

 

50年という歴史を持つ川崎市にある東芝未来科学館は、2014年にリニューアルオープンした。場所を川崎駅直結の場所に移し、海外からの事前予約の受付、英語や中国語対応ができるスタッフの常駐等、インバウンドへの対応を強化するようになった。

 

展示は大きく分けて、ヒストリーコーナーと未来コーナーがあるが、やはり日本は技術先進国というイメージが強いためか、その歴史に関心を示す外国人観光客が多い。「約90年前の洗濯機が展示してあり、実際に動かすと、皆さん驚かれる」と担当者は言う。

東芝未来館にある洗濯機の1号機、テレビの1号機など、当時は三種の神器と言われた

東芝未来館にある洗濯機の1号機、テレビの1号機など、当時は三種の神器と言われた

 

2017年には年間約30万人が来館したが、うち外国人は5~6%と推察されている。
海外からの来館者は学校関係者や学生が多く、他にJICA(独立行政法人国際協力機構)の紹介で訪れる団体もある。羽田空港に近いこともあり、離発着の前後で寄ってもらえるとのことだ。

 


■即席めんは世界の食文化を変えた。そのルーツを訪ねる!

最近のミュージアムは、体験プログラムに力を入れている。横浜市にあるカップヌードルミュージアムもその一つで、オリジナルのインスタントラーメンづくりができる点が魅力だ。
「外国人参加者からのアンケートでは、『言葉が分からなくても、見よう見まねで挑戦することができて楽しかった』という声が多くある」と同館の担当者は言う。

 

2011年の開館当初から年間の入場者数は全体で毎年100万人を超えている。開館当初は外国人の占める割合は3%程度だったが、徐々に伸びて現在は12%程度となっている。出身国で比較すると、インスタントラーメンの需要が高い中国や韓国などアジア系の観光客が欧米系よりも多い。
外国人観光客に対しては、パンフレットやWebサイトの多言語化(英語、繁体字、簡体字、ハングル)、館内音声ガイダンスの多言語(英語、中国語、韓国語)、さらに電話応対時の通訳サービス(3者間通話)で対応している。

 

カップヌードルミュージアム内のヒストリーキューブには、歴代の商品パッケージ

カップヌードルミュージアム内のヒストリーキューブには、歴代の商品パッケージ

 

正式な名称は安藤百福発明記念館で、インスタントラーメンの歴史や発明・発見の大切さを知ってもらうことを目的にスタートした施設だった。「特に子供達に知ってもらいたい」というインスタントラーメンの発明の父・安藤百福の意志を尊重し、遊んで楽しめる体験型の施設となっている。

 

ミュージアムは海外からの取材の受け入れにも積極的で、YCVB(横浜観光コンベンション・ビューロー)との連携もあり、年に数十件の取材依頼がある。特に最近ではベトナムやマレーシア等、東南アジアからの取材が増えている。
また、最近では、団体ツアー向けにランドオペレーターの旅行会社へのセールスを行っており、ますますインバウンドへ力を入れている。

 


■工場見学でもインバウンド対応が進みつつある

川崎市にある味の素㈱の工場では、工場見学コースを用意している。
Webサイトは日本語のみになっており、現在、外国人観光客はほとんどいないが、世界各国にある同社の海外法人・工場からの研修や留学生が訪れる際は英語可能なスタッフが対応している。11名以上での参加の場合、代表者が日本語で事前に予約してもらえれば、英語対応は可能だという。

 

「ほんだし®」コースでは製造工程見学やかつお節削り体験があり、日本の「だし・うま味」という食文化を実感できたという外国人見学者の声もあったそうだ。

 

味の素工場見学コースにある赤パンダショップ

味の素工場見学コースにある赤パンダショップ


また、南足柄市のアサヒビール神奈川工場でも工場見学コースがある。バス移動をする団体ツアーでは、東名高速道路からのアクセスが良いため、箱根から都内への移動の途中で訪れる観光客が多いという。工場が完成した2002年当初は外国人の見学者はいなかったが、今では年間約2,500名が来訪すると現場担当者は言う。


見学コースでは、3カ国語(英語、中国語、韓国語)対応の音声ガイドが用意されている。20分間ほど工場内を見学しながら製造工程についての説明を聞くのだが、該当箇所に番号表示があり、その番号を押して音声ガイドを聞く。そしてコースの最後に、できたてビールの試飲コーナーがあり、日本のビールは美味しいと盛り上がるそうだ。

 

神奈川工場では、全国のアサヒビールの他の工場見学担当者と連携して、ギフトショップの外国人観光客の売れ筋やポップの表示方法の情報を共有し、売り上げ増を狙う工夫も行っている。

 


■県が産業観光の磨き上げに一役買う!

神奈川県庁の観光部でも地元の資源である産業観光のバックアップをしている。
「Tokyo Day Trip -Kanagawa Travel Info-」という県が運用する多言語の観光情報Webサイトに産業観光のモデルコースを掲載して、外国人観光客への周知に取り組んでいる。東京に訪れた外国人観光客に足を伸ばしてもらう試みだ。

 

プロモーションだけではなく、県内の多彩な観光資源の発掘・磨き上げにも力を入れている。例えば、県内観光施設へ外国人留学生等が訪問し、施設の外国人観光客対応への課題をアドバイスするという“出前セミナー”を開催している。
2017年は、川崎市の株式会社クレハ環境にて出前セミナーを実施した。同社は羽田空港に近い産業廃棄物関連の企業で、環境に負荷をかけない処理技術を外国人にも見てもらいたいと考えていたが、この出前セミナーは、まず何をすべきか悩んでいた同社にとって、見学コースを考える良い機会となった。今後は外国人対応の見学コースの完成を目指すとのことだ。

 

県がバックアップし、産業観光の魅力を引き出す。インバウンド対応も加わり、神奈川県の取り組みがどう進化していくのか楽しみだ。

 

 

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | 関東・信越 | トピックス

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