事例紹介

インバウンドも視野に、「ものづくり」の燕三条が新しいフェーズに!

インバウンドとは関係ないと思われていた金属加工の現場。新潟県の燕三条に、外国人観光客が、工場見学を目的に訪ねてくるようになった。これまで閉ざされていた世界が、門戸を開くようになったのだ。そこには、江戸時代から続く伝統を時代のニーズに合わせて変化させてきた歴史があり、「ものづくり」を理解してもらうための一手となる。

カトラリーの持ち手の部分にカーブをつける機械

カトラリーの持ち手の部分にカーブをつける機械

ポイント:

・伝統の技術を継承させ、時代に応じたものへアレンジする
・工場を体験してもらうことで、外への情報発信を強化

 ■変化を続ける「ものづくり」の街、燕三条

燕三条地域(三条市・燕市)は新潟県のほぼ中央、信濃川沿いに位置する。江戸時代から続く金属加工の生産地だ。日本で一番社長が多い街と呼ばれ、家族経営や数人程度の小規模な企業が、刃物や金属洋食器などの金属製品を中心に点在している。

江戸時代初期、この地域では、和釘づくりが盛んだった。その後、江戸時代中期には、鎚起銅器(ついきどうき)(※1)や利器工匠具(※2)の作成といった道を切り拓いたのだ。

※1:銅を鎚(つち)で打ち起こす、金属工芸の技術の一つ
※2:包丁などの刃物など

時代のニーズに合わせて変化をしてきたから、今日の燕三条がある。

そして、現代では、燕市は金属洋食器や金属ハウスウェア、三条市は作業工具や理美容器具の生産地へと発展した。さらに測定器具、木工製品、アウトドア用品、冷暖房機器など、世界有数の高度な技術集積地にもなっている。

このように、燕三条地域は、金属による「ものづくり」をテーマに進化をしているのだ。変化こそが、この地域の活力といっても過言ではない。

 

■オープン・ファクトリーとMG NETの取組

最近では、オープン・ファクトリーというこれまでになかった取り組みも加わった。

それを象徴するのが、2013年から開催している「燕三条 工場の祭典」だ。
燕三条地域の名だたる工場が、開催期間中、一斉に工場を開放し、訪れた方々は工場でのものづくりを体感できるというものだ。
4回目となる2016年は、10月6日(木)~9日(日)に開催予定だ。

工場の祭典のロゴ

工場の祭典のロゴ

東京からもツアーが組まれるほどに人気となっていて、日本の調理器具等への関心の高まりもあって、外国人の観光客もやって来るという。

それに加えて、最近では通年で工場を見学できるようになった。燕三条地場産業振興センターの燕三条ブランド推進室が19の工房の受け入れ案内をしている。
http://www.tsubamesanjo.jp/kanko/kengaku

また見学だけでなくワークショップも開催しているのが、株式会社MG NET(マグネット)だ。昨年までは、ワークショップの開催日は固定されていたが、今年から事前に予約をすれば、いつでも参加できる体制になった。30分から1時間程度のプランで、すでに外国人旅行者の受け入れを始めている。

「基本、通訳を伴った外国人の方のみ受け入れをしています。やはり通訳がいないと、作業の進み具合が遅く、理解が深まらないですから。」とMG NET代表の武田修美氏は言う。
このワークショップは、触って感じることをテーマに、ものづくりを体験してもらうのが狙いだ。工場の匂いや素材の手触わり等を直接感じることによって、より理解が深まるのだ。

ワークショップの最初に講師からの説明

ワークショップの最初に講師からの説明

金属のしおりづくりのワークショップ

金属のしおりづくりのワークショップ

武田氏によると、こういった取り組みを始めたきっかけは、金属加工の生産減少への危機感があったという。

MG NETは、2011年に株式会社武田金型製作所の商品開発と販売を担当していた部門が独立する形で設立された。
“ものづくり”だけではなく、それを支える環境の整備も業務として取り組む。自社・他社を問わず、例えば、企画、開発、販売、広報といった分野をサポートするのだ。

そして、時代の変化に対し、先人も変化を遂げてきたように、新しい取り組みへの挑戦が望まれていたこともあり、2014年には「FACTORY FRONT Presented by MGNET」を設立した。その施設には、オープン・ファクトリー(工場の一般公開)、ショップ、事務所の3つの機能が同居している。
現在では、自社商品の他にも、様々な業種の企業と一緒に製品をつくっている。近隣の製造業の方から企画の相談を受けたり、プロモーション活動を手伝ったりもする。
また、地域のつながりを大切にして、彼らのバックアップを目指す。その一環がオープン・ファクトリーなのだ。そこでは、毎回、様々な工場の職人に来てもらいプログラムが変わる。まさに地域の工場のフロント案内係のようで、施設の名前もその想いで命名したという。

そして、参加者の体験によって理解が深まれば、SNSなどの情報発信にもつながる可能性がある。

このように民間が中心につながっていくことが大切だ、と武田氏は言う。

 

■行政の支援のあり方

一方、行政も金属加工の地域資源強化への取り組みをしている。

三条市の國定勇人市長は、「燕三条 工場の祭典」の来場者数が増えることに、手放しでは喜べないという。それは、プロモーションだけではなく、地元を強くすること・技術を継承する仕組みづくりが大切だからだ。

そのような考えの下で、三条市では、ものづくりをバックアップする体制を立ち上げ、予算と仕組みを構築した。
例えば、自社製品の独自の価値や魅力を伝えるための工場、展示室及び販売所の整備・改築等の支援や、ものづくり産業の基盤強化を目的とした、市内企業への波及効果が高い中核企業や金物卸の支援などが挙げられる。
さらに人材面でもバックアップしている。
新規鍛冶人材育成事業として、鍛冶職人志望者の雇用に係る人件費等を支援することで熟練の鍛冶職人の指導の下、現場での伝統技術の習得を図っている。

このように、民間の取り組み、そして行政の支援が両輪として機能して、地域ブランディングの向上につなげていく。結果として、インバウンドの促進にもつながりそうだ。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

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