事例紹介

アフターコロナを見据えた「リピーターづくり」の先進事例! 佐渡市「さどまる倶楽部」と「だっちゃコイン」の取組

●はじめに

 コロナ禍で人々の旅行が制限される中で、今後のインバウンドにおいてはコンテンツの高付加価値化やリピーターづくりが重要であると言われています。

 日本ジオパークにも認定されている佐渡島は、豊かな森林や天然記念物にも指定された海岸、トキやたらい舟、豊富な海産物など魅力的な観光コンテンツを多く持ち、コロナ禍前は台湾やアメリカからのインバウンドも含め、多くの観光客が訪れていました。2022年2月には「佐渡島の金山」が世界文化遺産国内推薦にも選定され、さらに国内外から注目を集めています。

 現在は、新型コロナウイルス感染症の影響で観光客数は減少していますが、このような状況下でも、アフターコロナを見据えた佐渡市のリピーターづくり、DXを活用した観光客の利便性向上に積極的に取り組んでいます。

 今回はアフターコロナを見据えた「リピーターづくり」の取組の先進事例として、佐渡市及び(一社)佐渡観光交流機構(DMO)が連携して実施している画期的な取組について取材しました。

 

 

 

●「さどまる倶楽部」で佐渡のファンづくり

Q 佐渡市のファンづくりの取組について教えてください。

A 佐渡市では、佐渡出身者のみでなく、佐渡へ来たことのある人、佐渡を好きな人など、島民以外で佐渡市に関係・関心を持つ方が登録できる会員制度 「さどまる倶楽部」を2017年に立ち上げました。島外在住者ならだれでも登録ができ、会員になれば、佐渡への旅行中に利用する船やタクシー、レンタカーが割引になるほか、協賛店での割引やプレゼントなど、特別なサービスを受けることができます。

 

Q その「さどまる倶楽部」の取組が2019年に大きくステップアップしたと聞きました。

A 一度佐渡に来た人が帰った後も継続的に佐渡とつながれる環境を作ることで、佐渡のファン、佐渡旅行のリピーターを増やすことを目指し、2019年12月、「さどまる倶楽部」のアプリをリリースしました。会員にはこれまで会員カードを発行してきましたが、アプリ会員になればカードを持つ必要がなくなりました。2018年には1万人だった会員数が、現在はカード会員・アプリ会員合わせて4万人以上になっています。

 

Q 佐渡市の人数が5万5千人であることを考えると、大きな数字ですね。どうして数年でそんなに大きな増加につながったのでしょうか。

A アプリのリリースとともに、アプリ内観光地域通貨電子マネー「だっちゃコイン」の運用を開始したんです。その中で実施したキャンペーンをきっかけに、多くの方が登録するようになりました。

 

●「だっちゃコイン」のリリース

Q 「だっちゃコイン」についてもう少し詳しく教えていただけますか?

A 佐渡市内でのみ使える観光地域通貨電子マネーです。利用者は、現金やクレジットカードからアプリにマネーをチャージし、市内の宿泊施設、交通機 関、飲食・物販店など、対応の施設でキャッシュレス決済を行うことができます。 

 

Q 「だっちゃコイン」を開始したきっかけは何でしょうか。

A コロナ禍になる前は台湾からのインバウンド客が多く訪れていましたが、市内には銀行の数も少なく、外貨から日本円に両替できる手段が限られていたんです。また、島内の事業者の多くが中小の商店であり、通信環境や手数料の関係でクレジットカードや電子マネー等でのキャッシュレス決済が浸透していませんでした。そこで、電子マネーを導入することで外貨の両替と決済の両方を簡単にできるようにならないかと考えました。

 

Q なるほど。今ではアプリ内でクレジットカードからチャージできるし、余ったコインは新潟駅にある端末でSuicaに移せるのはとても手軽ですよね。でも、コロナ禍で当初想定していたインバウンド客がなかなか来ない状況だと思います。そんな中で登録者数が急増したのは、思いがけず日本人観光客からの反応が良かったということでしょうか。

A そのとおりです。今ではアプリ会員数は2万6千人を超えるほどになりました。増加のきっかけは、ポイントバックキャンペーンです。例えば、2021年は「宿泊5,000pt(最大7泊分/1施設)」を実施し、1泊あたり5,000円分のポイントを付与しました。7~10月の4か月間で約5,600名(約8,900泊分)が利用されました。ポイントは佐渡島内の買い物やアクティビティ、宿泊でも利用可能ですが、島内でしか使えないので、島内で消費が図れ、お金が循環する仕組みを作ることができました。ちなみにこの財源は国の交付金を活用しています。

 

Q アプリの運営はどのように行われていますか。

A これまで、佐渡観光交流機構がアプリ会社や決済システム運営会社と話し合いを重ね、試行錯誤しながら改良を重ねてきました。2022年1月にはアプリのリニューアルを行い、これまでの決済機能や店舗検索機能に加え、観光情報の閲覧や船の予約等もアプリ上でできるようにしました。また、これまでなかったクーポン機能も搭載され、プッシュ通知も近日中に搭載される予定です。

 

 

●「だっちゃコイン」を通じた市場分析

Q だっちゃコインを通して利用者のニーズや消費傾向を分析されていると聞きました。

A 当初から、だっちゃコインを通じてCRMの構築を目指していました。現金を通した消費活動では、観光で訪れた方々がどこでどれほどの消費を行っているかが全く見えないのですが、だっちゃコインを通じて買い物いただくことで、消費活動が見えるようになりました。

      例えば、2020年に実施したポイントバックキャンペーンでは15,000ポイントとポイントバックする金額が大きかったため、多くの場合、宿泊料の支払いにこのポイントが充てられていました。しかしながら、市としては幅広い事業者への消費を促したいとの思いがあり、5,000ポイントへポイントバックする額を下げたところ、飲食店や物販店など広くポイントが消費されるようになりました。

 

●事業者による「だっちゃコイン」導入のメリットとコスト

Q 域内消費の促進や市場分析への活用など、市としてコイン導入のメリッ トが大きいことがよくわかりました。導入する事業者の方々にとってはどんなメリットがあるのでしょうか。

A 1つめに、現金を扱わなくてよいことから、会計管理がしやすいことが挙げられます。また、コロナ禍において、非接触決済を取り入れることで感染のリスクを下げられることもメリットと考えます。加えて、一番のメリットは、やはりポイントバックキャンペーンの際に誘客につながることです。開始当初は「アプリはよくわからない」と導入を渋る店舗が多くみられましたが、キャンペーンを進めるにつれ、需要がある事実が広まり加盟店が増えていきました。宿泊施設では、キャンペーン時に対象施設となっていないことでのディスアドバンテージが見え始め、キャンペーン途中で加盟を希望する施設もありました。最近は、今まで観光客があまり足を運ばなかった小さな商店や地元のスーパー、喫茶店での利用も増えていまして、事業開始当時、約30店しかなかった加盟店は現在では約170店にまで増加しています。

 

Q 事業者が決済システムを導入するにあたり、初期費用、維持費用などはかかるのでしょうか。

A 初期費用は基本的にはかかりませんが、売り上げ状況管理のための媒体 が必要です。パソコンやタブレットを持っていない商店などは、スマートフォンからも確認できる仕組みになっています。購入者が店舗のQRコードを読み取ってアプリで支払うシステムになっているので、クレジットカードのように店舗に決済端末を置く必要もありません。また、決済毎の手数料もかかっていません。現状は、システムの維持に必要な費用は、佐渡観光交流機構が負担しているためです。今後、事業者から負担していただくかは、現在検討を進めているところです。

 

Q 導入コストがかからないと事業者は参入しやすいですね。新たに参入したい事業者やトラブル発生時のサポート体制はどうなっていますか。

A 参入時に使い方マニュアルをお渡ししています。また、キャンペーン開始前などには、説明会も行っています。決済トラブルなどが起こると、この事業を運営している佐渡観光交流機構の職員が赴いて対応することもあります。

 

●自治体として感じている「課題」

Q 自治体にも、利用者にも、事業者にもメリットの大きい取組であることがよくわかりましたが、自治体として感じている課題はありますか?

A 佐渡市としては、域内消費だけでなく、島への誘客も目的として各種キャンペーンを打ち出しているわけですが、キャンペーンをきっかけに佐渡市へ来るのではなく、旅行に来てみたらキャンペーンを実施していたので活用する、といったケースが多いことは課題だと思っています。対策として、来島前にキャンペーンに申請いただくようなエントリー制を取り入れることを検討しています。

 

Q ただ利用してもらえばよいのではなく、キャンペーンを来島のきっかけ にしたいということですね。他に、ご苦労されている点などはありますか?

A キャンペーンを利用された方へのポイントチャージは、実際に利用した方のみにチャージしなければならないため、あえて自動化せず、窓口で対応しています。2020年は佐渡観光交流機構の窓口でチャージを行いましたが、2021年からは宿泊施設でのチャージに切り替えました。宿泊施設でのアプリダウンロードやチャージ時に発生するエラー対応等の操作補助をホテルのフロントで対応いただくことについて、不満が聞こえてきています。コロナ禍が明け、以前のような観光客数に戻った場合の施設への負荷軽減をどうしていくかが課題になっています。

 

●インバウンドへの活用の見込み

Q インバウンド客を想定して開始した本事業も、開始直後にコロナ禍とな りこれまでインバウンド客への活用実績はあまりないと思いますが、今後の誘致に向けて準備されていることはありますか?

A もともと台湾やアメリカからの観光客数が多いので、アプリ自体は英語・繁体字にも対応できるように準備を進めています。アプリを通じてクレジットカードからチャージできるようになったので、両替の面で、外国人利用者の利便性の向上も期待できると考えています。

 

Q 日本人観光客と異なる課題などは想定していますか?

A 店舗でのエラー対応等について、外国語での対応は非常にハードルが高いと考えています。特に、現状の宿泊施設への負担は先ほど述べたとおりですので、外国語での対応となるとさらに負担が大きく、対策を検討しているところです。

 

●今後の「さどまる倶楽部」と「だっちゃコイン」

Q 「さどまる俱楽部」「だっちゃコイン」の取組は、これまでも大胆な改革を重ねられ、大きな反響を得てこられましたが、今後の展望はいかがですか?

A 現在、「だっちゃコイン」と関連づけたECサイトを制作中です。ECサイトを通して、旅行で余ったポイントやマネーを島外からでも使えるようにし、島外にいながら佐渡産品を購入できる仕組みづくりを目指しています。

 

Q 島外にいながらもより継続的に佐渡市とのつながりを深めることができる取組ですね。他にも新たに考えていることはありますか?

A アプリを通じて、まずは観光型MaaS、その先には島民も含めたユニバーサルMaaSの構築を目指しています。

 

Q 現在も、アプリから佐渡汽船の予約ができる仕組みになっていますが、こうした取り組みを広げていくということでしょうか。

A デジタル交通パスの購入だけではなく、レンタカー、レンタサイクル、シェアカーなども含めたモビリティサービスについて、検索・予約・決済を一元的にできるようにアプリの改良を行いたいと考えています。

 

Q アプリひとつでスマートに佐渡観光を楽しめるようになりそうですね。ユニバーサルMaaSとのことですが、島民も利用できるような仕組みづくりを検討されているということですか?

A そのとおりです。通学・通院・買い物に利用できるデマンド交通配車のシステムを確立するなど、島民を含めた地域全体で利用可能なMaaSに昇華したいと考えています。

 

 

 

●新たな島民アプリの開発

Q ユニバーサルMaaSのお話がありましたが、今後、「だっちゃコイン」の取組は観光客に限らず島民を対象に広げられるということでしょうか。

A 「だっちゃコイン」について島民の認知が深まるにつれ、決済手段として島民も利用したいという声が上がるようになりました。現在、佐渡市と本土を結ぶ交通手段は船舶のみとなっており、市民は乗船割引を受けるために必要な「佐渡市民サービスカード」を持っています。「さどまる倶楽部」のカード会員証をアプリ化したように、この「佐渡市民サービスカード」もアプリ化し、だっちゃコインをはじめ様々な機能を付与することを検討しています。

 

 

 当初はインバウンドを対象にしていたものの、大胆な事業展開を通じて日本人観光客の利便性や誘客に大きくつながった本事業は、大きな改革を重ね、観光客だけでなく島民の生活の質の向上につながろうとしています。

 また、全国で2万6千人を超える「さどまる倶楽部」アプリ会員は、今後、アプリ内の観光情報やECを通じた佐渡産品への関わりを通して、継続的に佐渡の魅力を再確認し、再訪意欲を刺激されることになるでしょう。

 コロナ禍で観光業が大きな打撃を受ける中、アフターコロナを見据えて着実に観光客対策を進めてこられたリピーターづくりの取組が、多くの自治体様の参考になれば幸いです。

 

                                                (経済交流課 柴田)

 

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