事例紹介

アフターコロナにおける中国人富裕層のインバウンド(その1)~旅の特徴やこれまでとの変化~

 

 新型コロナウイルスの世界的な流行により、観光業、特にインバウンド業界は大きな打撃を受け、全国の観光事業者や自治体は、今後のインバウンド施策を模索しています。

 アフターコロナにおける観光は、三密を防ぐ観点からも“量”から“質”への転換が加速すると考えられ、いかに富裕層に来てもらい、いかに消費してもらうかが焦点の一つとなってきます。

 そこで今回は、訪日外国人のうち最も大きな割合を占めていた中国人、中でも富裕層にスポットを当て、前編では彼らの旅の特徴やこれまでとの変化について探るとともに、後編ではコロナ禍の今、自治体は何をすべきかについて考えてみたいと思います。

 70万人以上の中国人FIT層(個人旅行を求める層)を中心としたコミュニティを運営し、その実績とノウハウをもとに、中国人富裕層のデータ分析や誘客戦略の策定等、インバウンド支援事業を展開している株式会社行楽ジャパンの袁静代表取締役社長にお話を伺いました。同社にはクレア・プロモーションアドバイザーにもご登録いただいています。

 

 株式会社行楽ジャパン 袁 静 代表取締役社長

 

 

Q.現在の中国人の訪日意欲は?

 行楽ジャパンが今年5月に実施したアンケート調査では、中国人がアフターコロナに旅行したい国の第1位は、「日本」でした。他社が実施したアンケートでも同様の結果です。以前から日本は人気の観光地ですが、昨今の政治情勢により、欧米諸国や香港、台湾を旅行先として避ける傾向が高まっていることも追い風になっています。元々日本が好きな中国人も、旅行ができない日々が続き、「また日本に行きたい」というフラストレーションが高まっています。

 

中国人向け大手旅行サービスプラットフォームの調査でも日本が第1位となっている

 

 

Q.今後の旅行スタイルは?

 これまでは「長期休暇は欧米へ、少し短めの休暇は日本へ」という中国人が多く、日本への滞在は、4~5日が平均的でした。しかしながら、今後、旅行先として欧米を避ける傾向により、これまでよりも長期間日本に滞在する方が増えると予想されます。

 一方で、週末に1泊2日程度で、より気軽に日本を訪れるような観光客も増えると考えています。訪日リピーターは、自身の経験から日本への地理的な近さやフライトの利便さを実感しています。そのため、これまでのように様々な観光地を巡るような目的ではなく、「美味しい料理を食べるためだけに」、「買い物をするためだけに」といった、特定の目的だけで日本を訪れる人が増えてくると考えられます。

 このように、短期から長期まで、多様な新しい旅のスタイルが現れてくるでしょう。

 

 

Q.今後の旅行トレンドは?

①コト消費

 「モノ消費からコト消費」というトレンドはこれまで通りです。着物等の日本の文化体験は引き続き人気となるでしょう。一方で、同じコト消費でも、歌舞伎や能といった伝統芸能は中国にも似た文化があるため、欧米人が感じるほどの新鮮味はなく、注目度は高くありません。

 また、解禁された中国国内旅行の動向を見ると、アフターコロナでは、ソーシャルディスタンスを確保しやすいアウトドアのほか、健康志向の高まりから、サイクリングも人気となっている傾向があります。訪日旅行の際にもこういったプランに注目が集まる可能性が高いと思います。

 

コト消費の事例として、生け花も中国人観光客に人気となっている

 

 

②日本料理

 日本料理への関心は、ますます高まっています。中国にも日本料理レストランはありますが、「本場で食べたい。日本でしか食べられないものが食べたい。」と思っている方が多いです。

 お店の選択肢としては、懐石料理や鉄板焼きといった高級料理店だけではなく、屋台や小さな居酒屋、ラーメン屋も日本の風情やライフスタイルが感じられるということで人気です。また、中国の富裕層は大変プライドが高く、自分達と生活水準が異なる層の観光客と一緒になることを嫌うため、団体観光客が入るような大きなレストランは避けます。

 食材の中では、和牛は非常に人気です。食べ方は、特にすき焼きが好まれます。中国人に親しみのある味付けであり、「和牛といえばすき焼き」というイメージを持っている方が多いです。例えば、ただ食事をするだけではなく、すき焼きの食べ方を教える講座をセットにしてプランにするのも面白いかもしれません。

 

 特定の飲食店が旅の目的となり、そのエリアに行く、ということは大いにありえます。各地にご当地グルメや食材はあると思うので、原点に返って、その点をアピールすることがシンプルであり、かつ効果的だと思います。

 

③宿泊施設

 5つ星ホテルは中国国内にも数多くあるため、中国人にとっては新鮮味がなく、必ずしも魅力的とは限りません。一方で、日本独自の旅館というスタイル、女将さんという存在は中国にはありませんので、とても人気があります。露天風呂のある旅館やオーシャンビューの温泉は特に好まれます。

 アフターコロナでは、日本人と同様、消毒や除菌が徹底されているか、部屋食が可能か、といった感染症対策が選ぶポイントになると思いますので、そういった情報をいかに発信していくか、BtoC向けの情報発信が重要となります。

 

 

                                      

今年5月に行楽ジャパンが実施したアンケート結果

 

④エリア

 新型コロナウイルス予防の観点から三密を避けることができ、また、前述の理由からも団体観光客が少ないところの人気がでてくるでしょう。現在の中国国内における旅行でも、これまで人気観光地として上位に挙がってこなかったような、地方のエリアが人気を集めています。二次交通が整っていないような地域では、団体観光客が訪れることが難しい一方で、富裕層は車をチャーターして移動することが多いため、交通不便を逆手に取ることができる可能性があります。

 

今年5月に行楽ジャパンが実施したアンケート結果

 

~取材担当者より~

 前編では、中国人富裕層の旅の特徴やこれまでとの変化について探りました。中国人富裕層の訪日意欲は大変高まっており、インバウンド回復期に向けて、今できることに取り組んでいくかどうかで、アフターコロナにおける誘客の結果に差が生まれるのかもしれません。

 そこで後編では、アフターコロナに向けて自治体は今何をすべきなのか、袁社長に引き続きお話を伺います。

 

 

後編に続く

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