事例紹介

工芸のまち金沢 コロナ禍をとおして  ~金沢市の取り組みとこれから~

 藩政時代から工芸を受け継ぐまち、金沢。まちから世界へと工芸が発信され、世界市場における金沢の工芸の価値を高めるべく、国内外において事業を展開しています。

 そうした中、今年は新型コロナウイルス感染が拡大したことにより、経済活動は深刻な打撃を受け、金沢の工芸品産業も大きな影響を受けました。今、金沢市は、どのように取り組み、将来へと向かっていくのでしょうか。今回、クラフト政策推進課に話を伺いました。

 

近年、海外へ向けてはどのような販路開拓の取り組みを行っていますか。 

 これまでも金沢の文化を嗜好する地域やユネスコ創造都市ネットワーク(※)の登録地域(金沢はクラフト&フォークアート部門に登録)との交流を積極的に進めてきました。様々な事業を展開していますが、昨年の新しい試みとしては、日本の伝統文化に関心の高いフランスにおいて、クレアパリ事務所主催「伝統と先端と~日本の地方の底力~」展に初めて参加したことがあげられます。金箔を使った商品の展示販売に合わせ、金箔の職人を派遣し、その魅力を紹介しました。フランスにも金箔があることから、「違いは何か」、「一人前の職人になるには、どれくらいかかるのか」など来場者の伝統工芸への関心の高さは、職人を驚かせていました。金沢から出展した事業者全てに売上があり、欧州市場での金箔製品の販売に手ごたえを感じるとともに、職人の実演後には立て続けに商品が買い求められたことから、工芸品のプロモーションには、ものづくりの背景を直に伝えることが大変効果的だと実感しました。

 今、世界では、工芸品をアートとして高く評価する潮流が年々高まってきていることにも注目しています。巨匠作家の海外でのコネクションを活かして、共に若手工芸作家を派遣し、欧米の美術関係者に向けた発信も始めました。昨年度は、アメリカ(金工)やハンガリー(陶芸・漆芸)へ派遣を行い、美術館関係者や大学を訪問し、工芸品の魅力を発信するとともに、市場調査や新規販路の開拓を行っています。

 そのほかにも、インバウンド需要を取り込むため、普段は訪問できない作家の工房を訪れる富裕層向け体験プログラムの実施や、宿泊施設に工芸品をレンタル展示し、購入希望があればマッチングする仕組みをモデル実施するなど、多様な手法で新しい販路開拓に取り組んでいます。

 

高い関心を集めた金箔職人の実演。製品販売へも手ごたえ。                        (パリ)

大樋焼の巨匠が漆芸の若手作家とワークショップ (ハンガリー)

                                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ユネスコ創造都市ネットワーク:

 文学、映画、音楽、芸術などの分野において、都市間でパートナーシップを結び相互に経験・知識の共有を図り、またその国際的なネットワークを活用して国内・国際市場における文化的産物の普及を促進し、文化産業の強化による都市の活性化及び文化多様性への理解増進を図ることを目的とする。世界遺産等とは異なり、条約に基づくものではなく、ユネスコが主体として実施する一事業。世界の246都市が認定を受けている。(令和元年10月31日現在)

 

 

■今年は新型コロナウイルスの感染が拡大しました。金沢の工芸分野においては、どのような影響がありましたか。

 本市を訪れる国内外からの観光客が徐々に減少し、さらに緊急事態宣言が発出されてからは、石川県の要請により、店舗や百貨店の休業や美術館等が休館となり、販売や発表の場を失うことになりました。こうしたことは、創作の機会の減少につながり、技術の継承・向上にも影響を及ぼすのではないかと懸念されました。また、景気が急激に悪化していく極めて厳しい状況では、安価な製品が求められ、工芸品を購入される方が減少するのではないかと心配する声がありました。

 

 

工芸の販売や発表の機会自体が失われるという厳しい状況を受けて、市としては、どのような取り組みを始めましたか。

 このような状況の中、工芸品の販売店や作家の皆さんがオンラインショップを始めたり、web陶器市を開催するなど、様々な取組が全国各地で行われています。

 金沢市では、作り手の作品発表の場を設け、創作活動を支援することを目的に「金沢市デジタル工芸展」を開催しています。直接販売はしませんが、取扱店舗や個展、催事の情報を掲載することで、販路が拡大するほか、技法の解説や作品への想いなどを動画で配信することにより、作り手自らがプロデュースし、発信する試みとなることも期待しています。一方で、素材や重みなど実際に手に取っていただいて伝わることや作り手とお会いして感じるものづくりの心など、これまで金沢市が大切にしてきた「四季折々、ほんものを五感で感じること」を基本としながら、細部まで見られる、どこでも、いつでも見られるなどデジタルの強みを連動させ、いかに相乗効果を発揮していくかが、今後の課題と考えています。

 

 

              

                                              5月にスタートした「金沢市デジタル工芸展」 

 

 

■アフターコロナにもつながる、これまでの取り組みや強みはどのような点だと思いますか。

 これまでも本市では、工芸品をパリの「メゾン・エ・オブジェ」に出展するなど、海外への販路開拓を試みてきました。

 また、近年は、日本に関心のある外国人観光客の訪日が増加してきたことから、欧州での旅行博への出展や、市長のトップセールスによる誘客プロモーションに合わせ工芸作家が実演するなど、海外の販路拡大を見据えた魅力発信を行ってきました。

 海外への販路開拓は、日本と現地からの双方向での国際展開が必要だと考えています。

 特に、国外へ赴いての販路開拓では、クレアパリ事務所等に派遣してきた、本市職員の現地でのサポートが大きく貢献しています。

 工芸品は、技術、品質や価格といった価値だけで売れるものではないため、本市工芸の持つ歴史的背景や文化的側面を理解した上での情報発信や現地での反応のフィードバックは大変効果的だと感じています。

 また、金沢では、職人が量産するものや少量生産で普段の暮らしの中で使われるものから、芸術的な表現を目指すものまで、極めて多様なジャンルの工芸品が生み出されています。

 観光プロモーションや巨匠作家のコネクションなど、それぞれの工芸品のジャンルに応じた、国内外の販路開拓ネットワークの形成や、国際見本市出展や商談会開催補助制度により、工芸品の海外販路の拡大を支援しています。

 こうした独自の強みを活かした取り組みは、引き続き工芸の販促活動を確実に支え、今後の展開につなげていくことができると思っています。

 一方で、新型コロナウイルス感染症の影響により、工芸品の電子商取引も活発になっています。電子商取引においても、海外のお客様に工芸品の魅力を伝え、販路を開拓していかなければならないと考えています。

 

            誘客セミナーにて、加賀友禅作家による手書き彩色の実演と体験

                                    (イタリア)

 

最後に ~東京国立近代美術館工芸館の移転を控えて

 今年は、日本海側初の国立美術館が金沢市に誕生します。東京国立近代美術館工芸館(国立工芸館)は、日本で唯一の国立で工芸を専門とする美術館で、工芸振興の拠点として、日本の工芸の歴史を語るうえで欠かせない美術工芸品約1,900点以上が東京から移転します。

 伝統工芸は、金沢を象徴する伝統文化であり、伝統産業であり、また、個性でもあり、大切にして継承・発展させなければならないものとしてきました。これからも藩政時代から受け継がれる歴史の重みを大切にしながら、時代を超えて人々に感動を与える工芸が生まれる、「世界の工芸都市 金沢」を目指していきます。

 

              開館を控える東京国立近代美術館工芸館(国立工芸館)

 

 

【参考リンク】

 〇「伝統と先端と~日本の地方の底力~」展(クレアパリ事務所主催)

 〇「金沢市デジタル工芸展」 

 

                                            (経済交流課 岩田)

 

 

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