コト消費のニーズが高まるなかで、その地域ならではの体験を商品化する動きが日本各地で盛んになっていますが、一方で、「どのように地域の特性をインバウンド向け商品にしたらいいのかわからない…」と進め方に悩む声も聞こえてきます。
2016年よりスタートした自転車で巡るツアーsokoiko!(ソコイコ)
広島で訪日外国人観光客向けに、『sokoiko!(ソコイコ)』という自転車でめぐるツアーを、2016年より運営している株式会社mint(ミント)。同社は、「ピースツアー」(被ばく遺産を巡るツアー)や「ナイト・サイクリング」など地域の特性を活かしたツアーを造成し、これまでに1000人以上が参加しています。ゼロからこれらの事業を立ち上げ、日本各地で講演もされている代表取締役の石飛聡司(いしとびさとし)さんに、インバウンド事業の取り組み方や地域の特徴を活かした商品造成などについて、お話を伺いました。
日本各地で講演もされている株式会社mint代表取締役の石飛聡司氏
『ここにしかない』を活かした商品造成
アパレル業界でマーケティングや企画、販売マネジメント、社員教育などを担当していた石飛さんが郷里の広島で、まったく経験のない観光業に飛び込み『sokoiko!』のサービスを始めたのは2016年10月のこと。「原爆ドームと宮島以外の広島も知って欲しい」との思いでスタートさせた自転車で巡るツアーは、参加した訪日外国人観光客からも大変人気です。現在では広島県江田島市の行政からも声が掛かり、「島文化を自転車で巡るツアー」を造成。石飛さんの活動は広島県内に留まらず、東京都墨田区でもパートナー企業と連携し、行政のアドバイスも受けながら、自転車で行く「江戸の職人巡り」ツアーも展開させています。
そんな石飛さんに地域の特性を活かした商品造成をするコツを尋ねると、始めのステップとして以下の3点をあげてくれました。
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『ここにしかないもの』を、企画を通じ商品化すること
1,『ここ』に来る理由がないと訪問する選択肢に入らないことを理解する。
2,『ここ』にしかないものは何かを洗い出す。
3,『ここ』にしかないものを活かすロケーションやツールは何かを考える。
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訪日外国人観光客は“何をしに自分達の地域に来ているのか”。まだ来ていないのであれば、“何だったら響くのか”を“意識すること”が商品造成を実施するうえで大切だと言います。
そしてもう一つ、商品造成をする際の前提として認識する必要のあるのが、外国人観光客は、特定の地域に来ているのではなく“日本”に来ているということ。自分達の地域を目指して来日しているのだったら、その地域の中でとっておきの場所を探す作業からスタートすればいいのですが、彼らが目指してきているのは“日本”。そんな“日本”に観光に来た人達を自分達の地域に呼び込むには「何があれば来たいと思うか」「何を求めてなら来るのか」をしっかり考えながら、『ここ』にしかないものは何かを徹底的に洗い出していく。
洗い出した中から「その中から実際、何をしたいだろうか?」「それは『ここ』ならではのものとなっているか」「最大限に活かすには」というように順を追って考えを進めていくことが大切だと教えてくれました。
「ここにしかない」を明確にするのが商品造成の重要なポイント
47都道府県、すべての地域の持ち味を活かす
「これらのことを、47都道府県それぞれが意識でできると“日本”という店舗の中に、それぞれ特徴的で興味深い商品47本が陳列することとなり、訪れる観光客の方々もいろんな組み合わせを楽しめるようになります。すると、現在は2週間の休暇中、前半の1週間日本に滞在して、後半は違う国へ行っている人々が、2週間の休暇全部を丸っと日本に滞在してくれるようにしていきたいです」と、石飛さんは考えているそうです。
いつ、誰が、いくらでスタートさせるか
商品造成をする際には、5W2H:What、Where、When、Who、Whose、How、How muchが大切だとも言います。特に日本の観光は、商品を造成することが目標となってしまい、実行する主体“Who”が決まっていない場合があるそうです。また、値段のつけ方“How much”も低くつけすぎる傾向があります。
「本気でやるのであれば、“Who”誰が実行するかもスタート時からしっかり想定しておくことも重要です。また、あまり安売りするのは得策ではありません。1000円のパラグライダーがあっても怖くてしょうがないですよね。5000円ならありがたいけど、パラグライダー体験料金が1万円ならさらに安心感がある。“こんなに安いのにお客さん来ないんだったら高くして来るわけない”と皆さん言いますが逆なんです。値段に見合うだけの特別なことをしてあげればいいんです。選ぶのはお客様なので、5000円の商品も1万円の商品もバリエーションとして両方作ればいいのです」。
パンフレットは、ターゲットに合わせ英語での展開のみ
商品造成はゴールではない、実行することが大切
商品が完成したら、まずは販売をスタートさせる。商品を造っただけで棚に出さないと、それが売れるのかどうかも分かりません。お客様に選んでもらえるよう棚に出し、その反応を見ながら調整していけばよいそうです。
「大切なのはちゃんと店頭に並べてあげてお客様が選べる状況を作ってあげること。どんなにいい商品を造っても倉庫に置いているだけで棚・市場に出さなければ、商品がないのと同じ状態です。まずはスタートさせて、その後PDCAを回し、商品をブラッシュアップさせていきます」。
つなぐ役割がいることで、地域のインバウンド力が向上
今でこそトリップアドバイザーでエクセレンス認証をもらうまでになっている『sokoiko!』の自転車でめぐるツアーですが、はじめからスムーズにいった訳ではありません。
「ガイドブックにも載ってない、ゲストと作るオリジナルの旅」というコンセプトは始めから決まっていたものの、観光業界での経験はなく、自身がイメージするツアーに必要な英語も話せず、自転車のプロという訳でもない。企画書をもって広島県や市、企業などを廻ったものの、「経験があるのか?」「ノウハウはあるのか?」と冷ややかな反応ばかりで、話はなかなか進まなかったそうです。
参加者の笑顔が何よりものご褒美
気持ちが焦り始めた頃、市の担当者がシェアサイクル「ぴーすくる」を運営しているツアーズ広島とつないでくれたことで、ツアーを展開するうえで欠かせない自転車を手配することができたそうです。「こうやって事業をスタートできたのも、フラットに横のつながりのある行政の方ならではの動きのお陰です」と振り返ります。
「民間が集まる場に、顔を出している行政の担当者が、地域の観光を進める上でのキーパーソンとなると感じることがよくあります。役所や観光協会の皆さんはネットワークや信頼性を持っており、フラットにつなぐことのできる存在。地元の事業者が多く集まる勉強会などのイベントや交流会など地域の事業者とのつながりが持てる場に、誰とでもフラットにつながることができる行政の担当者がいることで、業者間の連携がうまれ裾野が広がっています」
行政担当者ならではの“つなぐ役割”が発揮されることで、地域がONE TEAMとなり、インバウンドの動きもさらに加速していくに違いありません。