事例紹介

「NIKKO MaaS」官民連携で実現!エコでお得な旅の新しいツール 

はじめに

 日光といえば東照宮や華厳の滝など、言わずと知れた歴史、文化や自然の名所を有し、年間を通じて訪問者の絶えない地の一つです。また、その一部は国立公園に指定されており、自然環境の保護と利用を両立させなくてはならないエリアとも言えます。そんな日本有数の観光地、日光を抱える栃木県は“環境にやさしい観光”を掲げ様々な環境政策に取り組んできました。

 2021年10月にスタートした「NIKKO MaaS」もまた、国内では初めてとなる自然環境に配慮したMaaSです。訪問客の移動と観光をシームレスに繋ぐMaaSシステムの展開にあたっては、その分野でノウハウを持つ民間事業者たちとの協業が不可欠なものでした。その一方で、自然環境に配慮したサービスは一般的に収益性を確保しづらく、民間事業者が参入に二の足を踏むのも事実です。こうしたなか、自然環境の保護と観光の両立を目指しいち早くMaaSというソリューションに着目した栃木県は、どのように民間事業者を巻き込んでいったのでしょうか。サービス実現のために挑まれたことやNIKKO MaaSにかける想いについて、栃木県環境森林政策課の西田一之さんにお話をうかがいました。

 

 

 

「NIKKO MaaS」でもっとエコに、もっと便利に日光を旅しよう!

Q.2021年10月にサービスを開始した「NIKKO MaaS」ですが、どのようなサービスで、どのように運営されていますか?

―NIKKO MaaSは、日光までの移動手段である鉄道とバスがセットになったフリーパスをはじめ、日光地域で利用できるEV・PHVカーシェアリングやシェアサイクル、観光施設の利用チケット等すべての検索・予約・購入までを1つの画面上で行うことができるシステムです。

 NIKKO MaaSは、「環境にやさしい観光地」を目指す栃木県の呼びかけにより発足した官民連携のコンソーシアムにより共同で事業を運営しており、県のほか、モビリティや観光分野のサービスを展開する東武鉄道、JTB、JTBコミュニケーションデザイン、オリックス自動車とトヨタレンタリース栃木の民間企業5社で構成しております。

 

Q.コンソーシアムにおける各構成員の役割分担はどのようにされていますか?

―栃木県としてはまず、事業全体のビジョンの設定やきっかけづくりを行いました。「MaaSを取り入れて日光地域の脱炭素化を目指す」というビジョンを設定し、サービス導入の具体的な計画を策定しました。さらに各社に県から働きかけ、参入を検討してもらい事業がスタートしました。

 事業が走り出してからは、NIKKO MaaSの核となるシステム系のサービスは東武鉄道とJTBが担っています。県としてはEV・PHVカーシェアリングに必要な充電インフラの整備を行ったり、サービス普及のための広域プロモーションを行ったりしています。

 

 

EV普及実証実験での失敗がMaaS導入のきっかけに

Q.MaaSを導入しようとしたきっかけ、コンソーシアム結成の経緯を教えてください。

―日光は県内でも有数の観光地ですので、更なる魅了アップのために旧英国大使館別荘を整備するなど、観光客誘致のため様々な取り組みを行ってきました。一方、訪れる人の大半がマイカーを利用して来ており、排気ガスによる環境負荷が課題でした。さらに近年は外国からの観光客も加わり、市民生活に欠かせない道路の渋滞も常態化しており、住民からも改善を求める声が上がっていました。

 

 そうしたなか、県としては、環境と観光の両立を目指し、環境にやさしい移動手段としてEVの普及に着目しました。2017年度にEV普及のための実証実験を行ったのですが、残念ながらうまく機能しませんでした。当時は、日光地域内の宿泊施設に協力いただき、宿泊者が使えるEVカーシェアを宿泊施設内に設置してもらいました。日光に訪れる人向けに、日光地域内の周遊の「足」を整備すれば、マイカーで来る人を減らせるかなと。―しかし結果的にはEVをほとんど利用していただけませんでした。単に域内でEVを増やすだけでは、観光客に公共交通機関で来てもらうという行動変容には繋がりませんでした。

 

 このことがきっかけとなり、マイカーを使わずに来てもらうにはどうすべきか、本格的な検討が始まりました。実証実験後に開かれた検討会議のなかで、日光までは鉄道を使って来てもらい、日光に来てからの周遊はカーシェアリングを使ってもらえるようにするための「仕組みづくり」の重要性が見えてきました。その後も検討を重ね、様々なモビリティサービスを展開できるMaaSの導入という方向性が固まったのです。

 

 

民間事業者の参入には欠かせない“事業性のアピール”に苦労するも、協業のポテンシャルを持つ事業者の存在やタイミングが後押しに

Q.民間各社と共同で事業を進めていくにあたって、どんなことがチャレンジでしたか?

―いざMaaSシステムを作っていきましょうとなった時に、どのように民間事業者に参入してもらえるか、これが一番の課題でした。モビリティサービスは鉄道会社や交通系企業、システムベンダーが展開していますので、MaaSを作るとなった時に私たち県・行政だけでできることは1つもないんですよね。県がビジョンを描いてサービスを作ろうと企業へ呼びかけることは簡単ですが、いかにして事業性も含めた参入メリットをアピールしていくか、という点は苦労しました。実際に計画を作る時にはコンサルタント会社も含めて、こういった手法であれば民間事業者にもアピールできるだろうなどと喧々諤々と議論をしました。

 

 一方で、たまたま日光はMaaS事業で民間事業者と手を組みやすかった地域だったのかもしれません。もともと東武鉄道が交通事業を営んでいた地域ですし、JTBも日光の宿泊施設等でEV・PHV用充電インフラの整備を過去に進めていたことがありました。

 このように振り返ると、民間事業者の参入に関して事業性が大事なのはもちろんですが、そもそも手を組むポテンシャルのある事業者がいるかいないかは重要だったと感じます。ちなみに、中央省庁に足しげく通って支援を受けるというのも、民間事業者に事業性をアピールする上でも重要だったと感じます。

 

まずは先導モデルとして着実に成果を残し、将来的には他地域への展開も視野に

Q.サービス開始後の反響はどうでしたか?

―サービス開始以来、反響が大きく予想以上の好評をいただいています。NIKKO MaaSのウェブサイトは、サービス開始当初1日あたり1万ビューを超え、各種チケットの売れ行きは好調とお聞きしています。また、「うちの地域でも是非導入してもらいたい」といった嬉しいお声を頂いています。県は広域プロモーションとして、首都圏のメディアを中心にPR活動を行ってきましたが、これまでに250件以上もの記事にしていただきました。新聞やテレビ、WEBメディアでもかなり取り上げていただいており、総じてメディア受けが良かったと感じています。

 

Q.今後の展望について教えてください

ー今後は、NIKKO MaaSが観光客の基本ツールとしてより定着していくよう、認知度の向上と利用促進を主眼に取り組んでいきたいです。また、現段階ではインバウンド向けのサービスとはなっていませんが、インバウンドの回復状況やサービスの利用状況を見ながら、多言語化も進めていければと考えています。

引き続き、環境にやさしい観光地を目指して、環境配慮型・観光MaaSの先導モデルとなれるよう、まずはNIKKO MaaSの成功、将来的には他地域への拡充を目指して頑張ります。皆様も是非NIKKO MaaSを利用して日光へお越しください!

 

おわりに

 今回の取材を通じ、様々な点からMaaSの可能性を感じました。1点目は、旅のあらゆる場面のやり取りがMaaSにより非接触で行えるようになったこと。これはユーザーの利便性向上はもとより、ウィズコロナの時代においては感染リスクの軽減という観点からも、より安心安全な旅のツールとなり得ます。2点目は、MaaS導入により訪問客の移動や観光コンテンツの利用状況を数値化できること。今後の観光市場はインバウンドの回復状況も含め、今よりもさらに変化が激しく、きめ細かなニーズに応えていくことが求められると思います。MaaSによってリアルタイムで施策の検証や改善策の検討が行えるようになりますし、これまで各社が個々に提供していたサービスをシームレスに繋いだことで新たな課題が見えてくることもあるかと思います。

 特にコロナ禍の今、先の見通せない今だからこそ、MaaSはこうした時代の要請にうまく対応する1つの優れた解決策であると感じました。NIKKO MaaSの利用がますます進み、日光がこの先も多くの人々を魅了する地であり続けることに大いに貢献していくのでないかと期待しております。

 

(経済交流課 清水)

 

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