事例紹介

「通過型観光から滞在型観光へ」、奈良県が富裕層マーケットへの新たな挑戦!

奈良県には、宿泊者数の低迷という課題がある。県の中部や南部にも魅力的なコンテンツはあるものの、ほとんどの旅行者は奈良公園付近を見学するだけだ。もっとゆっくりと県内を旅行してもらうため、ターゲットを絞ることに。富裕層に向けたプロモーションがスタートした。

秋で色づく奈良公園には鹿がいる

秋で色づく奈良公園には鹿がいる

<今回のポイント>
1:ターゲットを絞って魅力を深く理解してもらう
2:宿泊数の弱点をいかに補うかを導き出す
3:富裕層に向けて、まずは「奈良」という地名を知ってもらうことから始める

奈良は、日本人なら教科書で習う古代日本史の重要な場所。修学旅行で訪れる機会も多い。
大陸からの影響を受け、シルクロードの終着点として歴史的価値の高い建築や仏像が揃う。

しかし、国内有数の観光地でありながら大きな課題があった。

奈良県内での宿泊数が少ないことだ。
それは、訪日外国人にも言える。

都道府県別宿泊者数のデータ(観光庁)をみると、1位の東京都が突出して多く、次いで北海道、大阪府が続く。一方、奈良県は47位と最下位だ。

奈良県は観光誘客に力を入れているのだが、宿泊しないとなると、旅行者による消費額が少なくなり、投資の割には地元への還元率が低いという結果に。

では、なぜ宿泊者数が少ないのか。
宿が少ないのだ。需要が少ないから宿が少ないともいえる。さらに奈良でビルの建設工事中に地中から遺跡が発見され、工事が中断したという事例もあり、ホテル建設が進まないという事情もある。

宿が少ないため、結果、夜の楽しみである飲食店も少ないと地元の観光業者。
実際に、奈良の飲食店数は全国39位。居酒屋登録数ランキングでも、全国43位だ。

なぜ、宿泊需要が低いのか。その理由は、大阪、京都からのアクセスが非常に良いことが挙げられる。大阪、京都に宿泊し、バス又は電車で約40分の奈良公園を含む市内の名所を半日かけて回り、宿に帰ってしまう日帰り客が多いからだ。

しかし、実際は、奈良県の中部や南部には、観光コンテンツが豊富にある。室生寺、長谷寺、吉野の桜や金峯山寺、さらには洞川温泉という江戸時代から続く情緒ある宿泊施設もある。

奈良は平城京の遷都から1300年の歴史を持ち、大陸の影響を受けたオリエント風建築様式など、あらゆる角度からその価値を十分楽しむことができる。

そこで、奈良県では、「通過型観光」から「滞在型観光」へのテコ入れを始めることになった。ターゲットは、富裕層マーケットだ。

知的好奇心が旺盛な人に、もっとゆっくりと見てもらい、深く理解してもらったほうが、奈良の価値を見出してもらえるのではないだろうか。
そこから導き出したターゲットは、富裕層個人旅行者だった。特に欧米など文化意識が高い層だ。

富裕層旅行者は、世界中に幅広いネットワークと高い発信力があり、本物の価値を理解し、その訴求力は絶大なものと言われている。
金融資産100万ドル以上(約1億円)を保有する個人資産家で、その数は、2012年に1,200万世帯(出典:World Wealth Report 2013)と言われている。現在も拡大傾向にあるという。

奈良県ではこれまでの全方位型の観光戦略から、ターゲットをセグメントし、マスを狙うのではなく、ニッチだけれども影響力が高い層への戦略に変更した。
2014年夏に、その方向性が正式に打ち出された。

同年の12月にフランスカンヌで開催される旅行商談会、「ILTM(International Luxury Travel Market)カンヌ2014」に初出展することを決めた。
ILTMは全世界で年間計7回開催されていて、中でも「ILTMカンヌ」は最も歴史が古く最大規模だ。世界74カ国から参加旅行会社数約1,500社が集まる。

参加する旅行会社を通じて奈良の本物の価値を伝え、世界のプレミアムディスティネーションとしての認知を広げることを目的とした。

期間中、海外メディアや在仏日本人等の方々を招待し、春日大社の式年造替をPRする交流会も開催。

県の観光プロモーション課では、商談を進めるなかでわかってきたことがある。富裕層が求めているのは、高級な宿ばかりではなく、日本的で、プライベート空間であるかが重要で、決して豪華なことのみを求めているのではない。町屋を改装した空間も好まれるのだ。
そういった町屋は、奈良県内にいくつもあり、十分対応可能。
「施設の高級さでだけはなく、その地でしか見られない原風景」を訴求ポイントに誘致をはかっていきたいと県の担当者。

翌年の2015年3月に京都で開催されたILTM JAPANにも出展した。

メディア向けのプレゼンテーションタイムでは、奈良県観光局コーディネーターの濱地伊久代氏が、「奈良は訪日市場ではまだそれほど有名ではないが、たくさんの魅力的な素材がある」とアピール。
カンヌに続き、即売よりも富裕層を扱っている海外の旅行会社に知ってもらうかに重点を置いた。

これからは受け入れの充実を図るため、既に外国人富裕層を受けいれで成功している全国の旅館を視察することを検討している。
富裕層の満足度を高めるハード面、さらに「おもてなし人材」の育成もサポートしていきたいと考えているようだ。
奈良県の富裕層への取り組みは、まだ始まったばかりだ。いかにブランディングをしていくか注目したい。

ILTMカンヌに奈良県として初めて出展した

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ILTM京都での商談会の全体の様子

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ILTM京都で、奈良県の魅力を訴求する

ILTM京都で、奈良県の魅力を訴求する

歴史ある洞川温泉の街並みがレトロ

歴史ある洞川温泉の街並みがレトロ


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中部・近畿

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