事例紹介

徳島県の限界集落の里へ古民家を目的に外国人がやってきた。

四国の山奥で、お年寄りたちが熱心に英語を勉強している。徳島県の三好市にある祖谷地区だ。限界集落といわれるこのエリア、半数近くが65歳以上という。ここの古民家に泊まることを目的に外国人が世界中からやってくる。もてなしたいと思ったお年寄りたちが、コミュニケーションを取りたいと英語を勉強しているのだ。

棚田が広がる

棚田が広がる

<今回のポイント>
1:外国人目線による観光資源の再定義で田舎が魅力に
2:古民家に泊まることがキラーコンテンツになる
3:地元のお年寄りを巻き込んで活性化を図る

三好市は、四国の山間部にある地域で、徳島県内でも特に過疎化による人口減少が進み、限界集落の数も多い。65歳以上人口の比率が約半数にもなるそんな三好市の祖谷地区では、外国人旅行者をもてなそうと、お年寄りが英語の勉強に励んでいるという。

三好市は、豊かな自然を目的に観光で訪れる人が多いが、通過型の観光地と云われ、特に奥祖谷地区は泊まる人が少ない。地元への経済効果も少なく、これまでの観光とは違うものを打ち出していきたいと考えていた。

この三好市の山間部は、山深いだけで、小さな集落に古民家がある程度だ。

ところが、そこの魅力を見出したのが、アレックス・カーさん。古民家ステイをプロデュースし、外国人旅行者が訪れるようになった。
彼は、東洋文化研究者で、所有の古民家「篪庵(ちいおり)」やその周辺の風景、文化、地元の方との交流などを綴った著書「美しき日本の残像」がある。観光庁認定のビジットジャパン大使でもあり、また京都の空き町屋を活用した、町屋ステイ施設のプロデュースなどで実績がある。
当初は、海外から視察に来るというのが目的で、宿泊施設としては稼働していなかった。

その後、平成20年度のこと、アレックス・カーさん、三好市と地域で活動している各種団体、地元NPO法人、観光振興団体、まちづくりコンサルティング企業等が結集して「三好市東祖谷平家落人伝説歴史観光まちづくり実行委員会」(※法人格を持たない任意団体)を設立した。
平成20・21年度の2カ年にわたり、内閣府所管の「地方の元気再生事業(提案型ソフト事業)」の支援を受け、地域資源を活かした歴史観光まちづくりに関する調査事業を実施した。

調査事業の当時は、地元の方々にとってこの景観は、ただの田舎の山間部でしかなかった。わざわざ海外から足を運ぶ場所とは思ってもなかったそうだ。
当り前の場所が世界に通用する観光コンテンツであると、この事業を通じて再発見した。

地元の目線と外部の目線を組み合わせることにより、化学反応が起き、空き家の再生プロジェクトが立ち上がったのだ。

平成23年度に最初の古民家改修を行い、平成24年には事業を開始した。三好市が古民家を再生して、建物を管理。そして民間事業者に運営を委託するというスキームだ。重要伝統的建造物群保存地区内に茅葺古民家の宿泊施設が8軒となった。同時にアレックス・カーさんの古民家も宿泊施設として、大々的にプロモーションを仕掛けていった。

祖谷の中でもさらに奥地の落合集落。急峻な斜面にへばりつくように民家と段々畑が連なるさまは、「日本のマチュピチュ」とも称される独特な景観だ。
ここで外国人旅行者が、古民家に連泊して、のんびり滞在する。近くを散策して、読書をするなどゆったり過ごす。

祖谷はエアーポケットのように古い文化が残り、民俗学的価値が高いとも言える。フローリングは西洋と思う人は多いのではないだろうか。しかし、平安時代は貴族の家は板の間だった。江戸時代に畳がある家は、武士や豪農ぐらいで、祖谷の古民家は板の間が残っている庶民の古民家だ。
当時の面影を尊重し、古民家の躯体はそのままだが、IHキッチン、水洗トイレ、インターネット接続など内装設備を現代風にして快適性を担保した。

この古民家プロジェクトには地元のお年寄りたちも携わっている。
古民家の掃除、宿泊者向けに近隣の街歩きツアー、ケータリングサービス、料理教室を実施。地域の住民も参加してもらい収益につながる仕組みになっている。
古民家は食事がつかないため、近隣の蕎麦屋さんから地元の食材を使った郷土料理をケータリングする。経済波及効果もあるのだ。

最初はどう受け入れてよいかわからなかった地元のお年寄りも、外国人との対応にだんだんと慣れてきた。もてなしたいという気持ちがあったのだ。
「英語で意思疎通を図りたい」との住民の声があがり、地域おこし協力隊の大西恵大朗さんが、住民向けの英会話教室を始めた。
「祖谷を訪れる外国人は住民との会話や交流を求めている」。一方で住民からも「英語であいさつしたい」「車の置き場所を案内できるようになりたい」との要望があったのだ。

教室は平成26年12月にスタートし、月2回開講。落合、名頃、菅生地区などから50~80代の男女約10人が参加している。大西さんが手作りの教材を用意した。
「メイアイヘルプユー?(何かお手伝いしましょうか)」など、3単語以内の簡単なフレーズに絞った。

習ったことを外国人のお客さんに実践してもらい、後日の講義でケーススタディーとして深めていく。
さらに滞在中の外国人旅行者をゲストとして講義に招いて、実践的会話を楽しむ。
大西さんも「地図や看板も大事だが、やはり人が話して案内するのが一番」と手応えを感じているようだ。

三好市内のホテルにも少なからずの波及効果があったと思われる。

平成26年に三好市の主要5ホテルで宿泊した外国人観光客は6186人で、過去最多だった平成25年の1.6倍に増えた。さらにその前年からは、1.7倍とここ数年で急増している。
香港では、大歩危や祖谷地区を紹介したガイド本が人気だという。古民家には泊まらないまでも、その景観が話題になり、市街地のホテルに泊まる人が増えたのだろう。一度訪れた観光客がフェイスブックで魅力を発信して祖谷の認知度が口コミで広まっている。

日本の田舎が観光資源に生まれ変わりつつある事例だ。

崖に建つ古民家を修復した

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囲炉裏のある古民家から全開にした窓の景観をのぞむ

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調度品を揃え、高級感のある内観

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取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中国・四国

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