「温泉に入浴するスレンダーな後ろ姿にドキドキするが…」という動画が、世界201か国、特にタイでは42万回以上視聴され、話題を集めている佐賀県。タイのフィルム誘致を次々と仕掛けるなど、観光の取組みは軌道に乗っている。一方で、2016年は「有田焼」の創業400年であり、次の100年に向けて新たな市場を開拓するべく、様々なプロジェクトを展開している。
<今回のポイント>
1:世界201か国で視聴された動画が観光アプリのダウンロードを促進
2:タイの映画、ドラマ誘致・支援でタイ人観光客をひきつける
3:2016年に創業400年を迎える「有田焼」を欧州でリブランディング
話題のCMは、佐賀県が2015年1月9日から始めた観光アプリケーション(以下、アプリ)と多言語コールセンターを組み合わせたサービス“SAGA TRAVEL SUPPORT(佐賀トラベルサポート)「DOGAN SHI★TA★TO(どがんしたと)?」”をプロモーションする目的で作成された。
http://saga-travelsupport.com/lp/
プロモーションCMはここで観ることができる
アプリは日本語・英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・タイ語の多言語でリリースし、県内の観光情報、宿泊・飲食・ショッピング・Wi-Fi情報などのコンテンツを提供。また、24時間365日無料で利用できる英語・中国語・韓国語・タイ語の4言語対応の多言語コールセンターも運用を開始している。
「アプリは4月末時点で1万件近くダウンロードされ、多言語コールセンター利用件数も着実に伸びてきています。宿泊施設や観光業者も気軽に利用でき、外国人旅行者とのコミュニケーションに活用されていて好評です。今後はさらに認知度をアップさせ、そして佐賀に宿泊して、滞在してもらえるよう仕掛けていきたい」と佐賀県 国際観光部 おもてなし課 堤係長。
また、外国人旅行者の増加、特にタイ人の伸びは佐賀県フィルムコミッションが仕掛けた映画、ドラマの誘致・支援が功を奏している。
タイでは2014年公開の映画「タイムライン」、2015年4月~公開のテレビドラマ「きもの秘伝」、そして盛んに視聴されているLINE TVでの「STAY」など、ヒット作のロケ地として知られるようになった。ロケ地巡りを特集する雑誌の取材なども相次ぎ、上記三作品の撮影が行われた「祐徳稲荷神社」にもタイ人旅行者が目立つようになった。
これら交流集客の動きに加え注目したいのが「有田焼創業400年事業」だ。
日本を代表する伝統工芸品として早くから海外に名を馳せていた有田焼だが、国内需要の減少などにより、売上高は全盛期の約6分の1という苦境にある。
佐賀県では「有田焼400年事業佐賀県プラン」を策定。1616年からこれまでの400年間を「EPISODE 1」と位置づけ、節目となる2016年の創業400年を機に、次の100年に向けた新たな発展の第一歩になるように、新しい有田焼の物語をるという次世代テーマとして「ARITA EPISODE 2」を掲げ、様々なプロジェクトを展開している。
プロジェクトは2013年度からスタートし、佐賀県が事務局となり、伊万里・有田焼産地の関係市町や佐賀県観光連盟等の関係団体が参画し、事業の実行組織として、「佐賀県有田焼創業400年事業実行委員会」を設立した。海外展開をはじめとした市場開拓、産業基盤整備及び情報発信の3本柱で事業が展開されている。
市場開拓については、まず欧州をターゲットに有田焼のリブランディング(再評価)を進めることで、国内外のアッパークラスの購買層に訴求し、世界規模で新たな市場を獲得するという計画となっている。
そのひとつは、海外国際見本市への出展だ。
2014年から深川製磁やARITA PORCELAIN LABなど8事業者がプロジェクトに参加してパリで開催される国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展。欧州国際見本市の出展経験を持つデザイナー奥山清行氏(注1)のプロデュースのもと、3年連続で参加し、欧州向けの新商品開発~販路開拓に取り組む。
また、今年は「食」をテーマに開催されるミラノ国際博覧会で、5月31日~6月2日「ARITA
PORCELAIN PARK in MILANO」として有田焼を中心に佐賀県プロモーションを行った。
日本館の和食レストランに有田焼食器を提供し、博覧会開催期間中(5月~10月)に器の魅力をPRしている。
(注1) 奥山清行氏
工業デザイナー。ゼネラルモーターズ社(米)チーフデザイナー、ポルシェ社(独)シニアデザイナーなどを歴任し、自動車やドゥカティなどのオートバイ、鉄道、船舶、建築、ロボット、テーマパーク等のデザインを手掛ける。KEN OKUYAMA DESIGN 代表として、デザインコンサルティングなどを行い、欧州国際見本市に出展経験を持つことからARITA400Projectのプロデューサーを務める。
「欧州」をターゲットにしているため、フランス・パリを拠点に日本の伝統美を紹介する店舗「NAKANIWA(なかにわ)」においてマーケットリサーチを行っている。現地スタッフが有田焼の魅力を正しく紹介しながら、フランスの人々が何に魅かれ、何を基準に価値判断しているのか、ユーザーの視点をアーカイブして、販路開拓とリブランディングに役立てることにしている。
産業基盤整備では、オランダとの連携によりプラットフォーム形成プロジェクトを展開している。2013年11月1日にオランダ王国大使館と締結した「クリエイティブ産業の交流に関する協定」をベースに、柳原照弘氏(注2)をクリエイティブ・ディレクターとして、オランダをはじめ世界で活躍するトップデザイナー16組と有田焼産地の事業者(16社)のコラボレーションによる新商品開発を行っている。商品開発のほか、世界のクリエイターが集う聖地としての交流も取組をはじめている。
(注2:柳原照弘氏)
プロダクト・空間デザイナー。「KARIMOKU」など国内外のクライアントを持ち、世界で活躍。佐賀県有田焼創業400 年事業「2016/project」のクリエイティブ・ディレクターを務める。
具体的な流れをみてみよう。
2014年7月~12月にかけて、オランダを中心とした国内外16組のデザイナーを伊万里・有田焼産地に招聘。デザイナーは有田焼産地に滞在し、窯元や商社と交流のうえ商品開発へのリサーチを重ねた。
2014年末には、コラボ先のデザイナーからデザインが提示され、現在は商品開発段階に入っており、昨年に引き続き2015年6月からデザイナーが来訪する。
完成した新しい有田焼ブランドは2016年4月に開催される、世界の最新インテリアが集まる見本市「ミラノサローネ」で発表。
このプロジェクトは国内外のデザイナーの関心も高く、雑誌「ELLE DÉCOR」でも紹介されている。
様々な取組みやプロジェクトは、「ARITA」を体現するようスタイリッシュなホームページで詳しく紹介。英語はもちろんフランス語にも対応している。
http://arita-episode2.jp/ja/index.html
伝統工芸品の市場開拓は多くの自治体の共通する課題である。有田焼創業400年事業や、これから派生して生まれる新たな産地の取組みが、世界に評価され、他の地域にとって手本となるのか、今後も佐賀県の動きに注目していきたい。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/