葛飾柴又といえば、ほとんどの日本人が知る寅さん映画の舞台だろう。ところが、外国人観光客が注目するのは、それとは異なり、歴史文化が残る町としての魅力だった。日本人目線と外国人目線の違いをレポートする。
ポイント:
・国内需要と海外需要を切り分けた観光戦略を立てることが必要
・日常生活と融合した歴史的なエリアは、日本人が想像するより外国人観光客には魅力的に映る
・日本庭園への関心が高い外国人観光客は多い
■柴又の価値はその景観にあり。庭園など魅力が揃っている
一般に日本人と外国人の観光ニーズは異なる。それは、葛飾柴又に関しても言えそうだ。
葛飾柴又は、寅さん“ゆかりの地”として、ロケ地観光のはしりだ。昨年完成した柴又駅前の「さくら像」効果によって、日本人観光客がさらに増加傾向だと葛飾区観光課の今井課長は言う。
さらに、今井課長は「柴又は寅さんだけではなく、外国人の方からみると歴史文化の町である。」と言う。葛飾区を訪れる外国人観光客はここ数年増えており、同区が3年ごとに実施している「葛飾区観光経済調査」でも、アジア圏を中心に訪日外国人の増加が見られる。「柴又は都心からやや離れた場所に位置しているが、江戸時代から明治時代へと続くユニークな景観を残していることから、寅さんを知らない外国人にもこの町は魅力的に映っているようだ」と今井課長は言う。
葛飾柴又が海外へ知られるきっかけになったのは、帝釈天の裏手にある「山本亭」だ。関東大震災後にこの地でカメラ部品を製造していた山本栄之助氏の自宅を葛飾区が取得し、1991年から一般公開している近代和風建築の邸宅で、日本庭園が海外で高く評価されている。
同亭の庭園の魅力を早くから指摘してきたのは、アメリカで発行されている日本庭園の専門誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』だ。
同誌は、日本庭園の造園技術や鯉、盆栽、和家具などに関する研究を行い、日本文化の理解と普及に貢献している。2003年から「日本国内の優れた日本庭園」をランキングする「しおさいプロジェクト」(The Shiosai Project)を実施しているが、山本亭は国内の数ある名園をおさえ、常に上位にランキングされている(2016年12月発表のランキングでは、1位足立美術館(島根県)、2位桂離宮(京都)に次ぐ3位)。
同誌の解説によると、山本亭の長所は「好感度の高さ」にある。「駅から柴又帝釈天の参道を通って山本亭に着くまでにもういい気分になれる街。おじいちゃんの家のきれいな庭の見える座敷でのんびり過ごすのと同じ体験が出来る和み空間。百円で一日中いても怒られない貴重な数寄屋建築。お座敷で喫茶軽食も。柴又の気さくで優しい人々とのふれあいも楽しい」(同サイトより)とのこと。
解説にもあるように、山本亭だけではなく、その参道周辺に対しても評価が広がっているのだ。
■海外が先に評価した柴又を今年、重要文化的景観に
今年2月、文化庁は、葛飾柴又界隈を「古来より伝統的な情緒や雰囲気を継承する地域」として、都内で初めて重要文化的景観に選定した。
都内には浅草や谷中等をはじめとした歴史文化的な景観は他にもあるが、その中から葛飾柴又が最初に選定された理由は「近世初期に開基された帝釈天題経寺と近代以降に発展したその門前を中心に、それらの基盤となった農村の様子を伝える旧家や寺社などの景観がその周囲を包んでいる。さらにその外側に19世紀以降の都市近郊の産業基盤や社会基盤の整備の歴史を伝える景観が広がり、水路の痕跡や道などもよく残っている」(葛飾区郷土と天文の博物館HP)からだ。
規模こそ大きくはないが、下町情緒が感じられる魅力的な参道。境内はこぢんまりとしているが、落ち着いたたたずまいがある柴又帝釈天。見どころは精巧な木彫りギャラリーや『邃渓園(すいけいえん)』と呼ばれる日本庭園。長い床を歩いて庭を四方から眺められる憩いのスポットだ。そして、帝釈天から閑静な住宅地を抜けると、江戸川の見渡しのいい河川敷にある矢切の渡しがある。
■日本人目線と外国人目線を切り分けて魅力を考える
日常の中に歴史を感じられる場所は、外国人観光客にとって特にエキゾチックに映るのだろう。外国人目線では、下町情緒は「好感度の高さ」につながる。日本人には「見慣れた」「古臭い」と思えるものが、まったく異なる視点で、魅力的スポットになる。
全国には日本人向けと外国人向けのプロモーションをうまく切り分けできずに、ただ日本語の情報を多言語化するだけで終わっている自治体もある。葛飾区のインバウンドへの取り組みはまだ始まったばかりで、外国からの評価やニーズを把握したうえで、日本人向けと外国人向けの各プロモーション戦略を検討中だ。やはり重要文化的景観の選定はいわば「風景の国宝」に選定されたようなもの。これを活かさない手はないだろう。
日本人向けと外国人向けのプロモーションをどう上手く切り分けるのか、今後の展開を見守りたい。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/