今まで観光地としてさほど有名でない地域が、DMOなどを中心にインバウンドを含めた観光地作りに取り組み、結果を出しはじめている。熊本県南の八代はその代表例。2017年1月に「官民連携による国際クルーズ拠点」として全国6港のうちの1つに指定されたことを契機に、クルーズ客ほかのマーケティング、着地型観光を盛り上げる観光応援隊などでさらなる高みを目指している。
ポイント
・クルーズ船客+東アジアのFITを第一ターゲットにインバウンドに注力
・マーケティングデータに基づく明確なコンセプトをもった戦略を策定
■八代港の国際クルーズ拠点指定を契機に、高まるインバウンドへの機運
熊本県南部に位置し、12万9千人(2016年10月末統計)と熊本県第2位の人口を持つ八代(やつしろ)市。
インバウンドに目が向けられたのは、2016年に南九州の物流拠点港である八代港で16万トン級のクルーズ船の受入れをした頃からだ。それ以降、外国籍クルーズ船の寄港数は増加。2012年に2隻、2015年、2016年に10隻だったものが、2017年には66隻となった。
2017年1月に国土交通省が定める「官民連携による国際クルーズ拠点」(※1)の一つに選定され、国および米クルーズ船社ロイヤル・カリビアン社と連携した拠点形成に取り組んでいる。世界最大級の22万トン級の船が寄港できるよう整備し、将来的には年間200隻程度のクルーズ船を受け入れる予定だ。
※1 官民連携による国際クルーズ拠点:2017年1月に計画書を提出した6港湾を国土交通省が選定。八代港の他には、横浜港、清水港、佐世保港、本部港(沖縄県本島)、平良港(沖縄県宮古島)。旅客施設などへの投資を行うクルーズ船社に岸壁優先使用などを認め、ハード・ソフトの整備を進めていく。
■DMOのマーケティング機能の強化による戦略策定
八代港に寄港するクルーズ船は中国発が多く、中国人乗客(一隻3,000〜4,200人)のほとんどがツアーバスで免税店でのショッピングと観光に出かける。2016年3月に設立された「やつしろDMO」が、受け入れに貢献している。
業務としては、オペレーション(手配会社からの行程表、名簿、バスの情報などを集約、訪問先への連絡調整など)、クルーや個人旅行客対応の市街地へのシャトルバスの運行管理、岸壁においての観光案内所、両替所、通訳の手配、入港イベント開催時の対応などを行う。
このDMOは、稼ぐ力の強化、地域間連携、マーケティング、プロモーションの4本の柱を観光戦略に掲げ、特にマーケティングに注力している。
重要視するマーケティングの目的は、勘や経験、感覚ではなく、データを基にした施策・事業を行い、八代の各エリアへの動態調査などで地域を“見える化”し、客観的なデータで、地域の優位性を見つけていくためである。
具体的取組としては、まず、クルーズ船の乗客を対象に、㈱ワンストップ・イノベーションと連携。同社は、提携する中国の旅行会社がツアーの参加特典として提供しているWi-Fiから取得した情報を活用し、訪問先の月別調査を実施した。例えば2017年7月にはクルーズ船が10隻(総バス台数1,084台)が寄港したが、訪問先の1位は熊本城(熊本市)、八代城址がともに644台(59%)、3位の八代妙見宮が97台(9%)という結果であった。
同年4月の調査ではほとんど団体ツアーバスが立ち寄らなかった八代妙見宮の人気が急上昇していることがわかった。また、球泉洞など人吉市への訪問率が上昇し、コースが多様化していることも把握した。
またクルーズ船の乗客以外を対象として、2016年1月〜12月に㈱ドコモ・インサイトマーケティングとの連携で、モバイル空間統計(※2)を活用した訪日外国人動態統計調査も行った。この調査からは次の3点が把握できた。一つ目は八代に2時間以上滞在する外国人来訪者の国・地域。具体的には韓国がトップで、次にDMOが第一ターゲットとしている台湾、続いて、中国、香港、ベトナム、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、シンガポールと多様な国から訪問していることだ。二つ目は八代への来訪者は福岡空港からの出入が多いこと、三つ目は八代以外の訪問先では、福岡、大分の別府、湯布院など北部九州が多いこと、である。
この結果を踏まえて、次回のホームページ改修の際には、熊本に加え、福岡、大分の情報を厚くしていくなど、構成内容を決める参考にしていくとのことだ。
マーケティングの分析結果は具体的な戦略に直結し、さまざまな取組や展開につながっていく。
※2 モバイル空間統計:ドコモの携帯電話ネットワークのしくみを使用して作成される人口の統計情報
http://www.dcm-im.com/service/area_marketing/mobile_spatial_statistics/landing_page/
■地域住民による観光コンテンツの磨き上げと着地型観光で収益をアップ
八代でのおもてなし、着地型観光はやつしろDMOを中心に地域住民を巻き込み、盛り上がりを見せている。地域の住民から観光応援隊「きびっと隊」(※3)を結成し、やつしろDMOの臨時職員として時給1,000円で勤務している。臨時職員は現在40名、平均年齢は60歳だ。主に、観光用に始めたお堀舟巡りの船頭や人力車の車夫、クルーズ船寄港時の通訳業務や案内業務、着物着付けの業務などに従事。特に語学力がある方は、八代のような地方都市でスキルを活かせる場所ができたため、喜んで勤務されているという。
※3 「きびっと」とは、熊本の方言で結ぶ、結びつけるという意味。
また、八代市内6校の高校生が独自取材をして、多言語での飲食店案内のパンフレット「GYAN」を製作。「和食」、「ラーメン」、「焼肉」、「洋食」、「スイーツ」のカテゴリーで店舗を紹介している。
やつしろDMOでは、市内を6地域に分けて「観光座談会」を開催。コンテンツを発掘・整理するために観光カルテを作成し、更新している。観光スポットの情報だけでなく、イベントや特産物の旬などを盛り込むことで、改めてコンテンツがあることに気づくという。
着地型観光は「きびっとツアー」と銘打ち、まずは日本人・八代市民や八代近隣の九州内に向けて行っている。市民が観光地とは思っていなかった八代に、観光客が集まることで、市民が誇りを持ち、シビックプライドが醸成されることを当面の目的にしている。
人気は「五家荘の紅葉を愛でるバスツアー」。八代市内ながら車で2時間かかる山里へのバスツアーは、シニアの方に喜ばれた。
また、夏休みの自由研究として市内の小学生向けに始めた「日本料理店での寿司握り体験」は、東京の築地等ですでに外国人観光客にも好評なことから、クルーズ船のドイツ人客に提案したところ好評となり、近くアメリカの大学生の利用も予定されている。
他に八代湾内のイルカウォッチングツアー等、今後、インバウンド利用が期待できる商品も多く含まれている。
八代の観光地作りは始まったばかりだ。クルーズ船の乗務員向けシャトルバスの有料化、熊本県天草地方との定期航路の検討、熊本県や近隣地域の連携、特産品の海外販売、海外百貨店への出展による知名度の向上など、前述の取組に加えて「稼ぐ力」に着実につなげる動きが始まっている。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/