島原市では外部からの人材を活かした新しい取り組みが始まっている。市内にある4つの観光関係団体を統合し、新たな株式会社が誕生し、社長には民間出身者を登用した。DMOの推進にも外部からの人材を採用。スタッフのモチベーションも変化し、新しい流れができつつある。
ポイント:
・株式会社化で売上向上へ意識の変化
・住民も株主として関わり、観光事業を後押し
■観光4団体が統合して株式会社化
2016年9月、長崎県島原市に『株式会社 島原観光ビューロー』がスタートした。これは市内の4つの観光団体である「島原温泉観光協会」、「一般財団法人島原城振興協会」、「島原温泉旅館組合」、「島原市観光土産品協会」を解散させ、新たに株式会社として統合させ設立したものである。
島原観光ビューローが立ち上がる前は、プロモーションを実施するにも各団体がそれぞれ別の動きをしていて一貫性がなく、他方で似たような業務が被っているところもあり、非効率な部分が散見された。元々、団体の併存は昔から長く続いており、地元からは改革に着手するような機運が少なかった。若手職員から統合する改革案が出たこともあったが、上層部の議論の結果、現状維持となっていた。
ところが、2015年に国土交通省からの出向者の塩野進 島原ふるさと創生本部長がその改革案を見つけ、「是非やるべきだ」と再検討の対象とした。そして塩野氏が推進役となり、組織改革に向けて市役所や各団体と意見交換を繰り返し、最終的に4つの団体が統合することとなった。
統合の狙いは、「島原市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の1つの取り組みとして、市内の観光施設を有効活用し、島原のブランドを一段階上に押し上げ、観光を推進する体制を一層強化することにある。そのために新たな観光組織を立ち上げようというのだ。
さらにその新団体を株式会社化し、利潤をあげることも目的として、これまでできなかったことへの新しい挑戦となった。
株式会社化するにあたり、設立資金は総額で6,000万円を想定し、4,000万円が島原市から、残りは一般市民から出資を募ることにした。
まずは市内の住民向けに広報紙を活用して参加を呼びかけ、説明会を2016年の6月に実施した。
説明会では、DMOとはどのようなものなのかを専門家に講演してもらい、その後、本部長から島原の観光の現状と島原観光ビューローの設立について、目的や意義についての説明があった。
本部長は、新しく誕生する島原観光ビューローは市役所だけが運営するものではないと話し、「観光関係者だけが運営するものでもなく、市民の皆さまが支え、ふるさと島原のために何ができるのかを考え、それが実行に移される組織にならなければなりません。」と訴えた。
賛同の意見が広がった結果、1,000株(一株あたり2万円)での募集に対し、目標を大きく上回る応募があり、市役所を含む224の株主が誕生することとなった。中には地元企業から多額の出資をしたいとの申し出があったほどで、地元の関心の高さがうかがえた。
■株式会社になったことで、売上に対して意識が向く
島原観光ビューローは、それまでの観光協会等に所属していた全スタッフが合流し、全部で37名の組織となった。その後2度の組織見直しを行い、現在は4つのセクションに分かれていて、DMO推進室、誘致営業推進部、商品企画販売部、総合企画支援部とある。
組織は外部からの人材を多数登用している。社長にはJTBからの出向者を迎え入れ、民間の考え方や旅行業界の情報・ノウハウ・人脈、お客様アンケート等からの意見を多く採り入れている。DMO推進室では、神奈川県からまちづくり関連で実績のある若手人材を採用した。
とはいえ、新しい組織体制が軌道に乗るまでは困難も色々とあったようで、最初の半年間はギクシャクする部分や責任の所在がはっきりしないこと等、調整することが多かったようだ。できること・できないこと、時間を要するもの等、着手に優先順を付けることを一つ一つ整理し、利害関係者とのギャップを埋める努力を続けた。
一方で、株式会社に変わったことのメリットもある。スタッフの意識が変わったことが大きいのだ。
意欲あるスタッフが売り上げを伸ばそうと工夫するようになり、土産物店では売上が株式会社化する前に比べて20~30%は上がったそうだ。
スタッフ自身が、いかにすれば売り上げが伸びるか考えるようになり、例えばレイアウトを変えたり、声のかけ方を工夫したり等、変化を見せるようになった。さらに各観光施設では、年中無休での営業を実施するなど、現場のシフトを工夫し営業体制を強化するようになったことが功を奏した。
また、会社が管理する観光施設の一つである島原城は、スペースマーケットへの掲載で一時期話題になった。スペースマーケットとは、場所貸しのマッチングサイトで、マンションの1室や古民家を有料で時間貸しする等、ユニークな物件を提供している。
島原城では、コスプレイベント、ケータリングカーイベント等への場所貸し等に取り組んでいる。加えて、夜の島原城天守閣に散らばる謎を解いて、最上階を目指す「謎解きゲーム!キャッスルモンスターを救え!」(毎月最終週の土曜日19時から開催)や、夜の島原城を懐中電灯で照らしながら散策する「島原城 夜の陣」(2018年2~9月の毎週金土・祝日前日開催)など、従来何も生んでいなかった夜の時間帯から売上を上げる取組みも開始した。
まだまだ大きな収益にはなっていないが、スタッフが新たなことに挑戦するスタンスに変化したことは収穫だと言えそうだ。
■インバウンドの取り組みは今後の課題
島原観光ビューローは、福岡空港等、九州各空港経由の東アジアからの外国人旅行者(FITと小グループ)をターゲットにしている。九州を巡る旅行で、長崎に立ち寄る旅行者を島原にも呼び込みたいと意気込んでいる。
島原の特徴は、城下町のたたずまいが残ることだ。近隣の都市との違いを明確に打ち出すため、パンフレットでは城下町を訴求ポイントにしている。
増加が見込まれる外国人旅行者をいかに取り込むかで、観光地の売上は左右される。多言語対応等の受入れ側の環境整備が今後の課題となるが、市民が期待する収益を生む観光地となれるのか、インバウンドを視野に入れた次のフェーズが待たれる。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/