事例紹介

千葉県の水郷・佐原の歴史的建築群を古民家宿にリノベーション

千葉県の佐原は江戸時代の風情が残る町並みとして人気の観光地だ。しかし、ほとんどが東京など首都圏からの日帰り観光客のため、一人あたりの消費額の低さが課題であった。そこで、古民家を宿にすることで、地域らしさを保ちつつ、消費単価もあげていく。外国人観光 客を視野に、官民ファンドや地元の金融機関を巻き込んだ新しいスキームの取り組みが始まっている。

江戸情緒が残る佐原の街には用水路が残っている

江戸情緒が残る佐原の街には用水路が残っている

ポイント:

・地域の素材である古民家を宿泊施設に
・地元の金融機関、民間の古民家宿運営ノウハウも加えた新しい体制


■古民家を宿にするプロジェクトに向け地域ファンドが立ち上がる!

香取市にある佐原は、伊能忠敬を輩出した地区で、江戸時代には河港商業都市として栄えていた。現在も当時を偲ぶ江戸時代の町並みが保存されている。重要伝統的建造物群保存地区として国に選定されており、近年は東京等の都心からの日帰り観光地としても有名になってきている。

国は「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」を組織して、地方に広く存在する古民家等を活用した魅力ある観光まちづくりを推進しようとしている。このタスクフォースの専門家会議の構成員にもなっている官民ファンドのREVIC(株式会社地域活性化支援機構)から香取市にもちかけがあり、古民家を宿にリノベーションして地域を活性化しようとする動きが始まった。

佐原地区では、古民家の維持や増加する空き家が課題となっていたが、古民家宿を作ることにより、旅行者一人当たりの消費額の増加、客単価の上昇、また、近隣への周遊による地域全体への波及効果も期待できる。2015年には、香取市、REVIC、佐原信用金庫、佐原商工会議所、香取市商工会議所の間で「千葉県香取市の観光活性化に関する包括的連携協定」が締結された。

同年9月には、香取市の観光促進のためのファンド「千葉・江戸優り佐原 観光活性化ファンド」が地元の京葉銀行、佐原信用金庫およびREVICの出資によって立ちあがった。ファンドの設立には地方創生を推進するため金融庁が地銀に対して地元の企業への貸出を進めるように勧めていることも追い風となった。

連携協定の締結式には市長をはじめ関係団体のトップが集まった

連携協定の締結式には市長をはじめ関係団体のトップが集まった

その後REVIC は1年以上かけて、古民家等を活用した魅力あるまちづくりを本格的に進めていくために活用可能な古民家の物件探しや宿の運営者選定の交渉を行った。2017年2月には「千葉県香取市の歴史的資源を活用した地域活性化に向けた連携協定」が香取市とREVIC、ファンドの出資元である京葉銀行および佐原信用金庫に、古民家再生のノウハウを持った民間事業者であるバリューマネジメント株式会社(※1)、一般社団法人ノオト(※2)を加えた6者の間で結ばれ、香取市が「観光振興を積極的に推進する」こと、「ファンドを活用し歴史的資源の活用や観光関連事業に積極的に取り組む事業者に対する投融資の判断・実行等を行い、地域経済の成長発展に貢献する」こと、相互に「必要に応じた連携協力体制を構築」することが確認された。
香取市役所で行われた締結式では、宇井成一市長が「宿泊施設を設け、香取市の魅力ある場所を周遊できるようにするのは悲願だった。」とコメントした。

また、新しく設立された株式会社NIPPONIA SAWARAと、その関連不動産会社(NIPPONIA SAWARA不動産)へのファンドからの投資も同時期に実行され、宿泊事業が本格的に始動することとなった。古民家の借上げ・リノベーションを関連不動産会社が行い、古民家宿泊物件の運営管理を株式会社NIPPONIA SAWARAが行う。また、運営は古民家再生ノウハウを有する前述のバリューマネジメント株式会社が請負い、株式会社NIPPONIA SAWARAにサブリース料を支払うという形をとっている。宿泊費がNIPPONIA SAWARAの収入となる。

図は、古民家の運用におけるスキーム図まとめたもの(出典:京葉銀行)

図は、古民家の運用におけるスキーム図まとめたもの(出典:京葉銀行)

社名についている「NIPPONIA」とは、様々な運営事業者が連携し、全国各地に点在して残されている古民家を、その歴史性を尊重しながら客室や飲食店、または店舗としてリノベーションを行い、その土地の文化や歴史を実感できる複合宿泊施設として再生していく取組だ。

※1, 2:REVIC(株式会社地域活性化支援機構)と共に前述の国が推進する「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」の専門家会議の構成員にもなっている。

■古民家宿の運営ノウハウをいかして利益をあげる!

株式会社NIPPONIA SAWARAに運営を委託されているバリューマネジメント株式会社の担当者は「古民家宿を継続していくためには、利益を出すことが重要だ」と言う。

バリューマネジメント株式会社は、婚礼の事業再生会社からスタートし、現在は歴史的建造物を利活用する事業再生会社として様々なタイプの歴史的建造物を利活用・運営している。同社ではNIPPONIAというブランドのプロジェクトで2015年から兵庫県の篠山で古民家宿も運営する。

バリューマネジメント株式会社の担当者は設計段階から関わり、施工会社に意見を伝えて、これまでのノウハウを活かし、客単価やターゲットを見据え、それに最適化した雰囲気づくりを依頼している。

現在進行中の第一次プロジェクトでは、2棟4室の古民家が宿泊施設になる。一つは「ほていや」だ。1棟をまるまる貸切るタイプで、母屋の収容人数は2~4名である。もう一つの宿は使われなくなった蔵を宿泊施設にリノベーションするもので、最大4名収容可能となっておりファミリー利用も想定している。

佐原は、成田空港へのアクセスが30分という好条件もあるため、バリューマネジメント株式会社は、利用者の7割ぐらいが外国人利用になればと期待している。

水郷佐原あやめパークは香取市内の人気スポットとして観光客も多い

水郷佐原あやめパークは香取市内の人気スポットとして観光客も多い

■宿泊施設ができることで、近隣の魅力も伝えられる!

今後の展望は近隣の農家体験につなげることだ、と市の担当者は言う。
これまで佐原での観光は、宿がないために半日観光が主だった。そのため佐原の周辺まで足を延ばす余裕がなかった。しかし、この古民家宿に2泊してもらえれば、1日は旧市街の散策、もう1日は農村部への訪問も可能になる。
ありのままの里山でも十分楽しんでもらえると市の担当者は意欲的だ。今までは、観光というと充実した施設が必要というイメージがあったが、ソフト面が大切だと考えが変わってきたそうだ。小さな地元の祭りや里山の景観など、外国人が求める素朴なものを提供したいと意気込む。

香取市は宿がないのが弱みだった。そこに宿をつくることで、消費単価が上がり、雇用にもつながると期待を寄せる。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 関東・信越

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