事例紹介

岐阜・石川・福井では、地域が連携して「杉原千畝」ゆかりの地にターゲットを絞る!

インバウンドが先進的な飛騨高山で2016年から新しい取り組みが始まった。高山市の近隣行政への声掛けがきっかけで、「杉原千畝ルート推進協議会」が設立されたのだ。イスラエルから杉原千畝ゆかりの地を訪ねる人が増えていて、このマーケットを育てていくという。同協議会の設立の経緯を追った。

高山市内散策用のぶらりマップにヘブライ語版が登場

高山市内散策用のぶらりマップにヘブライ語版が登場

ポイント:

・飛騨高山では、各国別宿泊情報を精査することで、新しいニーズを掘り起こした
・イスラエル人等、ユダヤ人に人気の地域資源に特化したプロモーション戦略を組む

■杉原千畝ルート推進協議会が2016年7月に設立!

皆さんは、杉原千畝をご存じだろうか。第二次世界大戦中、リトアニアの領事館に赴任していたが、ナチス・ドイツの迫害によりポーランド等欧州各地から逃れてきたユダヤ難民たちの窮状に、人道的支援をした人だ。外務省からの訓令に反し、大量のビザ(通過査証)を発給し、およそ6,000人にのぼる避難民を救ったのだ。戦後、イスラエルから勲章を与えられている。

最近、杉原千畝ゆかりの地に、毎年多くのイスラエル人がやって来るという。

その状況を受け、2016年7月、「杉原千畝ルート推進協議会」が設立された。
杉原千畝の生まれ故郷である岐阜県加茂郡八百津町と、ヨーロッパを逃れたユダヤ難民が日本で初めて降り立った地である福井県敦賀市を結ぶ「杉原千畝ルート」を世界に発信するのが目的だ。他に、両市町とルート上にある岐阜県の高山市、大野郡白川村、石川県金沢市とも連携した。またアドバイザーとして、岐阜県、福井県の関係機関、さらに国土交通省中部運輸局が加わった。
設立総会は高山市で開かれ、会長に就任した金子政則八百津町長は「さまざまなルートの回り方を練り上げ、成果を上げたい」とあいさつした。

杉原千畝ルート推進協議会の設立で連携を強める

杉原千畝ルート推進協議会の設立で連携を強める

■新しいマーケットの掘り起こしの鍵は宿泊統計にある

さて、「杉原千畝ルート推進協議会」の設立のきっかけを作ったのは、高山市だった。

高山市の2013年の宿泊統計では、中東からの観光客が突出しており、興味をおぼえた市の担当職員が実際に宿泊施設にヒアリングしたところ、イスラエル人が多いことが判明した。

高山市内でのイスラエル人の年間宿泊者数は、2013年が2,833人だった。この年までは中東方面というカウントだったが、ヒアリングによると9割以上がイスラエル人だったという。
翌年の2014年は5,636人で、さらに2015年は7,324人と順調に伸びている。

どこを旅行しているのか、イスラエル人にヒアリングしたところ、八百津町の杉原千畝記念館だった。実際に同館の学芸員にうかがうと、同館を訪れるイスラエル人のほぼ100%が次に観光目的で高山と白川郷にも立ち寄っているそうだ。

まさに、杉原千畝のゆかりの地と周辺の観光地を巡るイスラエル人の姿が浮かび上がったのだ。

 

■既にユダヤ人向けの杉原千畝ゆかりのコースを販売中?

ちょうどその頃、高山市がプロモーションでニューヨークに出向いた際に、現地の日系の旅行会社がユダヤ人向けのツアーを造成しているのを知った。それは杉原千畝の足跡を訪ねるコースがテーマで、大阪、京都、敦賀、高山、八百津を含んでいる。
ニューヨークには多くのユダヤ人がおり、特化したマーケットを狙った商品だ。

2016年2月に開催されたイスラエル国際旅行博に高山市が参加

2016年2月に開催されたイスラエル国際旅行博に高山市が参加

そのように、海外ではすでに杉原千畝のゆかりのルートが商品化されている状況を受け、高山市ではユダヤ人向けのプロモーションの必要性を感じた。そこで、ユダヤ人観光客の獲得を目指すため、高山市から八百津町、白川村、敦賀市、金沢市に協議会の設立を持ちかけることになったのだ。

 

■プロモーションを強化し、杉原千畝ルートの更なる認知度向上へ!

2015年は、イスラエル人の訪日が日本全体で約21,000人であり、高山市にはおおよそ3人に1人は来ていることになる。しかし、そのような状況に甘んじないで、プロモーションを強化していく予定だ。

千畝ルートの伸びしろは大きいと、高山市の担当者は言う。実際に、千畝ルートを知るイスラエル人は少数派なので、そこに訴求すれば、まだ伸びる可能性が十分にあるという。

自治体での受け入れ体制も整いつつある。
高山市では、「ぶらり散策マップ」をこれまでの9言語に加え、ヘブライ語版も作成した。一方、八百津町の杉原千畝記念館は、2015年3月にリニューアルオープンした際に、案内パンフレットをこれまでの英語版だけではなく、ヘブライ語版も整備した。

ユダヤ人旅行者が多く立ち寄る杉原千畝記念館

ユダヤ人旅行者が多く立ち寄る杉原千畝記念館

また、同協議会は、VJ(ビジット・ジャパン)事業(※1)として認定してもらい、予算を組んだ。今年度は590万円を予定していて、内訳は290万円が国、残り300万円が各自治体の負担となった。

※1:国土交通省が進める訪日外国人旅行者の増加を目的とした訪日プロモーション事業で、一部公募による提案事業もある。

その予算により、プロモーション活動が始まり、現在、5つのエリアをまとめたパンフレットを作成中だ。英語とヘブライ語で解説していて、2017年の早々には完成を予定している。
そのパンフレットを持ってイスラエルの旅行博やニューヨークでの日本を紹介するイベントに出展する予定だ。

現在、イスラエル大使館にも案内をして、杉原千畝ルートの認知度を向上させる活動もしている。
同協議会は、その活動期間を5年間と定め、その後については未定だ。しっかり、期間内に集中しようという前向きな姿勢を感じる。どのような成果が出るか楽しみだ。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中部・近畿

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