事例紹介

安芸太田町で「神楽の練習」が外国人には魅力のコンテンツ!

広島県の山間部にある安芸太田町。ここは地域の神楽が盛んで、その練習を見学に海外から観光客がやって来るという。安芸太田町が、里山の普段の生活こそが観光コンテンツになるという理念のもと、海外旅行会社にセールスしたところ、商品化されたのだ。

神楽の衣装をまとって記念撮影を楽しむ外国人

神楽の衣装をまとって記念撮影を楽しむ外国人

ポイント:

・ありのままの地域資源を磨き観光コンテンツ化した
・独自の営業開拓で外国人富裕層にウケる商品化に成功

 

■旅行のプロである「よそ者人材」が、新しい企画を推進!

島根県と境を接する山間部にある広島県安芸太田町は、中国地方で最も人口減少率が高い町だ。その打開策の一つとして、観光客を増やし、交流人口を増やすことが考えられる。
安芸太田町には、国の特別名勝に指定された峡谷「三段峡」などの景勝地があるが、日本人観光客は休日に集中する傾向があり、平日の集客が課題となっていた。しかも、実際に町を訪れる観光客は、町内の景勝地を散策するだけで日帰りしてしまうケースが多い。一方で、世界遺産の原爆ドームや厳島神社から車でわずか1時間ほどでアクセス可能な点は、外国人観光客の誘客にも繋がるアピールポイントだと考えた。

安芸太田を代表する観光スポット、三段峡の正面口

安芸太田を代表する観光スポット、三段峡の正面口

そこで目をつけたのが、パッケージツアーで忙しく回る旅行者ではなく、時間的に余裕のある外国人富裕層だ。旅行経験が豊富な彼らだからこそ、そこでしかできないオンリーワンな体験を好む。それを提供することで、興味を持ってもらえるのではないかと考えた。

このアイディアを打ち出したのは、安芸太田町観光協会の事務局長(当時)に2011年に就任した吉田秀政さんだ。

吉田さんは秋田県生まれで、大手旅行会社に勤めた経験を持つ。当時全国公募していた事務局長職に応募して採用され、縁もゆかりもない安芸太田町にやってきたのだった。

 

■地域の生活に根付いている「神楽」

さて、安芸太田町は「神楽」が盛んな地域だ。
これは、石見神楽(※1)の流れをくんでいるもので、秋祭りでは、各集落で朝まで舞い続けるのだ。

※1:石見神楽は、島根県の石見地方で盛んな神楽だ。荘重で清雅かつ古典的なその言葉は、里神楽には極めて稀で、方言的表現、素朴な民謡的詩情とともに独特である。

安芸太田町内には17の神楽団がある。普段の練習も熱心で、週に1回以上は各地域の神社などで練習をしている。
団員は、平均15名程度で、男性が多く年齢層が広い。幼少の頃から大人たちが舞う姿にあこがれて育ち、「地域の伝統芸能を受け継いでいきたい」と熱い想いを持った住民で構成された地域のコミュニティーである。

吉田さんが目を付けた「そこでしかできないオンリーワンな体験」とは、この地域で代々受け継がれている「神楽」の練習体験だった。
それは、地域の生活文化に根付いた住民にとっては当たり前の事が、地域の外の人には「特別な体験」として喜ばれる、という発想があるからだ。
何か新しい施設を作るのではなく、里山の日常生活こそが、魅力的な観光コンテンツとなり得る。実際の暮らしぶりを見せ体験してもらうことで、定番コースを回るだけでは物足りない観光客の心をつかむことができるのでは、と考えたのだ。

 

■神楽練習見学を中心とした旅行商品の開発

そして、吉田さんはこうした地域の生活文化や伝統芸能をコンテンツとした観光商品をPRするため、観光庁主催の商談会・トラベルマートに参加した。そこで知り合ったのが富裕層を対象とした米国旅行会社の担当者だった。

さっそく、その旅行会社の経営陣を安芸太田町に招聘し、日中は地域の伝統工芸品や加工技術を継承する工房の見学、夜には神楽の練習体験をしてもらった。三段峡を中心とした町内景勝地なども視察してもらい、2泊3日程の安芸太田町内での滞在行程を企画・提案した。その後、正式に旅行商品として採用され、個人旅行としては2014年には3組の申し込みを受け、以降、微増傾向にある。

外国人観光客には、神楽の練習を地域の神社で見学出来ることに加えて、団員との交流も人気だ。踊り方を習い、一緒に舞うこともできる。また、神楽の衣装を試着しての写真撮影も行う。

交流の際に話の受け渡しをするのは、地元の通訳サポーターたちだ。年齢層は30~60代と幅広く、外国人観光客が来る際に観光協会から協力依頼がある。

実際、神楽の練習体験に参加した外国人観光客の反応は良い。リズムが独特で面白い、和太鼓に挑戦できた、衣装が素晴らしい、団員と一緒に舞うことが出来た、といったような前向きな回答が多く、観光協会の担当者も手応えを感じている。

このような取り組みを進めた結果、海外からの修学旅行でホームステイプログラムという企画もできた。こちらも人気商品として定着してきたと同観光協会の担当者は語る。

アメリカからの修学旅行のプログラムで神楽を鑑賞

アメリカからの修学旅行のプログラムで神楽を鑑賞

■地域振興の成果があがりつつあるが、課題も残る

町内への経済波及効果は確実にあがっている。
通常、神楽の練習は夜に行われる為、町内宿泊施設の稼働率を促進することが出来る。また、町内の移動は全て、地域のタクシー会社に依頼する。こうした町内事業者との連携や、現地ガイドである住民の参加、体験工房などでのお土産品の購入など、地域への経済波及効果は大きい。

三段峡の黒淵付近では渡し船がある

三段峡の黒淵付近では渡し船がある

近年、広島県沿岸部を訪れる外国人観光客は増加している。そこからいかにして安芸太田町に足を運んでもらうかが重要だ。更なる誘客を促進するための情報発信にも工夫が必要である。また、生活文化体験や住民との交流など、町内滞在における観光客の満足度を維持し高めるためにも、受入態勢の充実化や、地域との連携強化を図っていくことも今後の課題である。

「一人でも多くのお客様に安芸太田町のファンとなってお帰りいただき、お客様に安芸太田町観光大使やリピーターになっていただきたい」と同観光協会の担当者は語る。
地域のありのままの姿をコンテンツとする安芸太田町の今後の展開に期待したい。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中国・四国

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