石垣島では、台湾からのクルーズ船による寄港が伸びている。地理的条件というアドバンテージに加えて、魅力的な観光地も人気の理由だ。個人旅行者・団体客に応じて受け入れ体制を整備すると共に、着岸できない大型船は、沖に停泊して、小型ボートに分散して観光客が上陸するという方法で対応している。成功のポイントや課題を探った。
ポイント
・魅力あるコンテンツによって欧米系のラグジュアリー船など多様化している
・個人での周遊も多く、タクシーやレンタサイクル、レンタカーとの連携が進む
・クルーズ誘致に必要な港湾整備を進めながらも、現在の設備で柔軟に対応している
■沖縄のインバウンドに貢献するクルーズ船の入港
2015年の入域外国人観光客数が150万人と、対前年比168%の順調な伸びを示す沖縄県。特にクルーズ市場が活況で、そのうちクルーズ船客の外国人は42万人にのぼり、寄港回数も219回に達した。さらに、2016年は、65万人 、400回超の寄港が見込まれている。
1997年からスタークルーズ社により台湾・基隆港発着の定期寄港が実施されていたが、2015年7月から中国本土・厦門港発着に延伸された。これは、中国からのニーズが高まっていたからだ。加えて中国からのチャータークルーズが増加している。また、米国のシルバー・シー社やクルーズ社、英国のキュナード社、仏国のポナン社など欧米系のラグジュアリー船も寄港している。
ここで注目したいのは、那覇港だけでなく、石垣港や宮古島への寄港もうなぎのぼりに増えていることだ。2015年の石垣港への寄港回数は84回、平良港(宮古島)は13回だが、2016年はそれぞれ100回強の寄港が見込まれている。この伸びは、地理的条件と魅力的な観光コンテンツが決め手になっているのだろう。
ちなみに、2015年の日本国内の外航受け入れ港として、石垣港は、2年連続6位の実績がある。(※1)
※1:▽1位=博多(259回)▽2位=長崎(131回)▽3位=横浜(125回)▽4位=那覇(115回)▽5位=神戸(97回)▽6位=石垣(84回)。
■増加するクルーズ船をいかにしてオペレーションするか?
2016年5月には、乗客定員3,100人を誇るゴールデンプリンセス号が入港した。10月22日までに28回の寄港が予定され、初回の5月は台湾人観光客を中心に約2,800人が上陸した。
同船の寄港を前に、石垣市観光文化課は4月に、ランドオペレーター、船舶会社やバス、タクシーなどの関係機関と同船の受け入れ態勢を確認し、当日に備えた。
増加傾向のクルーズ船対応について、市観光文化課の宮良さんは成功のポイントと課題について次のように語った。
まず、台湾からのクルーズ船は、個人旅行者が6割とその割合が高いのが特徴だという。
その個人旅行者向けには、タクシー協会が、観光スポットや飲食店、商店街やドラッグストア、家電店を一覧にした行先リストを提示し、それを選んでもらう形で進めているという。加えて、レンタカーやレンタサイクルの利用も増え、港から事業所への送迎を行っているそうだ。
その影響もあって、商店街や飲食店に訪れる観光客も着実に増えているのだが、最近は、中国語で会話をする白タク業者が出現しており、規制が課題となっているという。
また、港に臨時の観光案内所を設置し、石垣市が費用負担をして、英語や中国語のガイドスタッフを港に配置している。年に1回、地元の高校生がボランティアとしてガイドを努めているのもユニークだ。
一方で、団体客については、10台ほどのバスがJTBやHISなど国内のランドオペレーターによって手配される。川平湾クルーズや竹富島の遊覧、鍾乳洞や名藏ダムなど観光地巡り、そしてショッピングを組みあわせて楽しんでもらった。
大変スムーズなオペレーションが実現され、マリンスポーツや自然体験、伝統文化体験等、石垣島ならではの体験を満喫していたようだ。
■港湾整備は望まれるものの、豊富な観光資源がクルーズ船をひきつける!
とかくクルーズ船誘致の際には、港の拡張・整備をクルーズ船社が希望することが多く、全国の自治体では港湾機能の大規模投資に着手しているところも多い。
実際に、石垣島でもバース(※2)整備などがクルーズ船社から要望され、現在は利便性の高いターミナル建設を予定している。
※2:船舶が接岸、係留し、荷役などを行う場所
しかし、現状は石垣島や宮古島においては、港に着岸できない場合、テンダーボート(※3)で乗客が分散して訪れることができるようになっている。
※3:上陸用の小さな補助船のこと
一方で、日本へのアジア発クルーズ全体の概況をみると、2016年の後半は、円高などにより現地参加者の集客が思うように進まず、来航予約がキャンセルされるなど、決して安泰ではない。誘致の際の設備投資に見合うだけの寄港があるのかというリスクも抱えているのだ。
そのため、沖縄では、豊富な観光資源を武器に、ハード整備に無理をしすぎず、上陸してからの受入環境の整備を着実に解決しようとする姿勢がうかがわれる。
いずれにせよ、言語対応の整備や市民一体となった受入体制の充実が、世界のクルーズ客をひきつけ、リピートさせることにつながっていく。
豊富な観光資源をいかにスムーズに体験できるかなど、課題も少なくないが、クルーズディスティネーションとしての「沖縄の島」の人気はまだまだ続くだろう。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/