琵琶湖を自転車で一周することを意味する「ビワイチ」がサイクリストの聖地になりつつある。滋賀県では今後、自転車大国の台湾をはじめ、海外へもプロモーションをしてサイクリストを呼び込むことを考えており、そのための視察ツアー、社会実験、ショップの誘致など様々な取り組みが行われている。果たして成功に導けるのか、その過程を追った。
ポイント:
・琵琶湖サイクリングの魅力を伝えるため、台湾から自転車のメーカーや、観光業界の重鎮などを招聘
・サイクリング環境の向上のため、今後の取組の可能性や課題を顕在化
・幅広い観光客層を取り込むため、手軽に体験できるルートの充実にも取り組む
■琵琶湖は自転車のメッカ!?
琵琶湖を一周するルートがサイクリストに人気だ。自然と文化が融合した景観の豊かさが魅力だが、湖沿いのフラットな道が走りやすいということも魅力の1つだ。起伏が緩やかであるため、初心者や子供でも楽しむことができる。
このコースは、国内の自転車愛好家の間で「ビワイチ」と呼ばれており、1周が約200kmで、上級者は1日で走破する。一般的には、2日以上かけて、その達成感を楽しむ。
■「ビワイチ」を台湾に売り込む!
最近は、新しい動きが加わってきたという。この「ビワイチ」を、まずは自転車文化が盛んな台湾向けにプロモーションをして、インバウンドで盛り上げようと、地元では動いているのだ。
そこで、まずは2015年10月、台湾の大学からの視察を受け入れた。
そして、この視察でつながった元台湾観光局局長で中華大学観光学院の蘇成田(スー・チャンテン)学院長及び、張藩文(チョー・ハンモン)教授は、「ビワイチ」に大きな可能性を見出し、翌年の2016年4月に、モニターとして、大学の観光コースで学ぶ学生や行政関係者、事業者等を連れてやってきたのだ。
その際、蘇学院長ら一行は、琵琶湖大橋から高島市の白髭神社までの琵琶湖半周に挑戦した。田んぼや山々など変化に富んだ景色に「台湾でも絶対ポピュラーになる。ぜひPRしてほしい」とお墨付きを出すとともに、道路などの走行環境の改善についても提言をした。
また、同行した学生さんの意見も、好評だった。自然の豊かさはもちろん、彦根城や点在する仏像などの歴史文化、さらにグルメが楽しめたという感想だった。
■「ビワイチ」拠点を目指す守山市の取組とは
滋賀県内でビワイチに特に力を入れているのが守山市だ。同市は、琵琶湖大橋の東岸に位置し、「ビワイチ」の拠点化を目指している。
同市の宮本和宏市長は、東京大学運動会自転車部に所属していた熱心なサイクリストだ。2016年3月には、台湾の自転車メーカー「ジャイアント」のストアが同市に開設された際にも、その誘致に尽力した。
このストアは、森ビルが経営する湖畔の宿にあり、自転車の修理、販売、さらにサイクリストへのサポートも行っている。具体的には、コースの説明、立ち寄り観光地の案内、回り方のアドバイスなどをスタッフがするという。今後は、多言語のパンフレットを置き、外国人にも使いやすいようにしたいと考えている。
ちなみに、2016年5月20日には、ジャイアントの会長も守山市にやってきて、約20kmを走った。台湾サイドも協力を惜しまないと約束を取り付けたそうだ。
また、自転車を軸とした観光振興のために守山市が国に申請していた地方創生の交付金について、ほぼ満額の7,900万円が交付されることが決まった。サイクリストの多い湖岸道路に自転車専用レーンを設けたりするよう関係機関に働きかけるという。
さらに、湖上から琵琶湖を楽しみながら、ビワイチのコースをショートカットできる便利なルート開発を進めている。それが、守山市が社会実験として運航する「漁船タクシー」だ。琵琶湖東岸の長命寺港から、「沖島」や「白髭神社」などの名所を楽しみながら、西岸の大溝港まで、自転車ごと漁船で渡ることができるのだ。
このように湖を横切るコースを設けることができれば、走行距離を約50kmに縮めることが可能となり、1日で琵琶湖観光もサイクリングも楽しみたい人や、脚力に自信のないビギナーにとって力強い味方になることだろう。
くわえて、守山市では、京都と滋賀を結ぶシャトルバスの準備を進めている。「琵琶湖は京都に近い!」という強みを活かすのだ。
琵琶湖周辺の自然や文化を、サイクリングという体験を通して感動してもらいたい、と守山市の担当者は抱負を語った。
■「ビワイチ」の更なる魅力発信に向けた滋賀県の取組
一方、滋賀県では、自転車のメッカに向けたインフラ整備も進めている。
昨年度、サイクルサポートステーションの社会実験を行った。ここでいうサイクルサポートステーションとは、食事、水分補給、トイレ利用が可能で、駐輪スペースがある拠点のことである。実験では47か所を設置したところ、おおむね好評で、各施設においても継続の意向が示された。
2016年の秋には、こうしたサイクルサポートステーションを100ヵ所設置することを目指し、環境整備に向けた取組が加速している。
さらに、一周約200kmは長過ぎるという人のために、守山市の漁船のショートカットコースの他、スポーツバイクの乗り捨てシステムの構築などにも取り組んでいる。
また、ビワイチは、いくつもの市町村をまたぐため、これまで統一したブランディングを固めきれずにきたと言う。ビワイチのロゴ一つとっても、各エリアでいくつも乱立している。今後は官民連携により、推奨版をつくりたいという。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/