事例紹介

シンガポールへの販路開拓必勝法

ビンテージマネジメント株式会社 代表取締役社長

自治体国際化協会 プロモーションアドバイザー

安田 哲

 

 

日本商材の海外販路開拓には、再現性の高い必勝法が存在します。

この必勝法は、「見せ方」「売り方」「守り方」の三要素から成り立っており、これを整えることを私は「三方よし」と呼んでいます。残念ながら、この「三方よし」の状態を作る前に展示会に出ても成果は出ず、予算と時間の浪費で終わってしまいます。

 

本稿では、この「三方よし」の状態が重要である理由やその具体的な意味について解説し、これを実現するための自治体が企業に提供すべき「展示会前に行うべき支援策」に焦点を当てます。

 

まず、「見せ方」に関して言えば、①強みや特徴の明確化、②見やすいチラシの作成、③商品への反映という3ステップが求められます。

 

  1. 強みや特徴の明確化:

企業はまず、自社製品の国内での強みや特徴を徹底的に明確化する必要があります。製品の品質、デザイン、技術革新、価値提供など、他社との差別化要因を特定しましょう。実は多くの企業がこの明確化を行なっていません。海外展開というキッカケを活用し、自社の強みや特徴を明確化する作業をすることは、海外のみならず国内での販路開拓にも非常に役立ちます。

 

  1. 見やすいチラシの作成:

次に、強みや特徴を見やすい形でまとめたチラシを作成します。情報は簡潔で分かりやすく、グラフィックや写真を活用して視覚的に訴求力を持たせましょう。特に業者向けの商材の場合は、その商材を活用した完成品の写真(調味料を売るなら、その調味料を活用した料理とともに撮影したもの)を載せると効果的です(写真1)。また、同じカテゴリーの商品でも成分や味付けが異なる商品群の場合は、それが直感的にわかるように記載することが大切です(写真2)。なお、これらのチラシは高知県が2023年度に海外展開を企図する県内企業向けに取り組まれた「シンガポール市場販路開拓事業」の成果物です。

その結果、質の高い海外営業用のチラシと共に、東南アジアにおいて複数の新規販路開拓に成功したそうです。

 

写真1. ソースと共に提供イメージを載せたチラシの例

 

写真2.同カテゴリーで味や成分が異なる商品群を分かりやすく記載したチラシの例

 

  1. 商品への反映:

チラシでまとめた強みや特徴を、製品そのものに反映させます。これは製品のパッケージングやラベリング、広告などで行います。しかし最初からこの作業を行う必要はありません。まずは作成したチラシをもとに営業を行い、顧客の反応を見た後に修正しても問題ありません。

 

次に「売り方」については、①輸出入規制を事前に確認しておくこと、②商談前に海外現地にサンプルを送っておくこと、そして③現地パートナーと事前に相談し現地の卸値を決めることが肝要です。多くの企業がこれらの事前準備をせず海外商談会、展示会に参加しており、展示会参加者からサンプルを求められてもサンプルをすぐ送れなかったり、現地の卸値を聞かれても即答できないなど、商機を逸しています。

 

  1. 輸出入規制の確認と対応:

各国の輸出入規制は異なるため、事前に目的国の法規制や関連する輸出入規制を確認しましょう。これには製品に関する規格や証明書、税関手続きなどが含まれます。なお、シンガポールは輸出入規制が明確で、なおかつ他国に比べ輸出入規制が緩いので、世界でトップクラスに各種日本の商品を輸入しやすい国です。

 

  1. 海外へのサンプル送付の計画化:

商談前には海外へのサンプル送付計画を策定します。現地にサンプルがあることで、問い合わせがあった際に迅速にサンプルを見込み顧客に提供できます。せっかく商品に興味を持ってくれた見込み顧客の熱意を冷めさせない速度感が大切です。また、海外にサンプルを送ることにより、現地に日本の商品を送る際にどの程度コストがかかるかがわかり、現地の卸値設定が可能になります。

 

  1. 現地パートナーとの事前協議:

現地のビジネス文化や商慣習を理解し、卸値を設定する必要があります。また、値下げ交渉がほぼ100%の確率で発生しますので、ある程度幅を持たせた卸値の策定が大切になってきます。   

 

とても大切なポイントなので強調しておきますが、基本的に商品を海外に運んでくれる貿易/卸会社は営業をしてくれないと思った方が賢明です。既に販売している商品のルート営業だけで十分に事業は成り立っているためです。そのため、自社で導入先のレストランや小売店への販路開拓を行わないといけません。具体的には自社での営業、もしくは現地営業代行サービスを活用することで新規販路は開けます。

 

最後に「守り方」においては、ビジネスを持続可能なものにするための対策が重要です。具体的には、知財(商標や特許)戦略の立案、不平等にならない契約の締結、不用意に独占販売権を与えないなどがあります。

 

特にシンガポールには外国企業の権利(知財や契約)をしっかり守ってくれる仕組みがあるので、多くの日系企業がシンガポールに拠点を構えています。ベトナムやタイ、インドネシアは魅力的なマーケットである反面、この「守り」については外国企業にとって不利な状況になる場面が多いので注意が必要です。

 

これらの「三方よし」が揃って初めて、シンガポール市場のみならず、海外での販路開拓を行う準備整ったということができます。

しかし、これらの準備には海外販路を獲得したい各企業が積極的に学び、実践することが求められます。展示会や販路拡大の場で、「三方よし」を欠いた状態での参加は、無駄な投資となりかねません。形だけの参加ではなく、具体的かつ効果的な手法を身につけることが不可欠です。

 

そして、自治体には企業に対して「三方よし」の状態を作り出すためのサポートが求められます。やみくもに展示会出展を促す前に、自社の強みの発掘や海外商談用の魅力的なチラシ作り支援、そして知財戦略に関して学ぶ機会を提供するのも有効かと思います。

 

シンガポールは知日家の富裕層が多く在住していることから、富裕層向けマーケティングをすることにとても優れています。併せて、輸出が容易という点も魅力の一つです。

シンガポールのマーケットサイズは小さいですが、中流層でも十分な購買力があります。案外知られていませんが、シンガポールはもちろんのこと、アジア各国の中流階級の購買力は年々高くなっており、多くのアジアの中流階級が日本商品に手が届くようになってきております。

 

今後更に大きな市場を狙いに行く前提で販路開拓戦略を作ることが大切です。

 

総じて、シンガポールへの販路開拓においては「三方よし」の状態を追求することが不可欠です。見せ方、売り方、守り方の三要素が調和し、企業と自治体が連携して取り組むことで、成功の可能性が大きく広がります。

 

是非この機会に、「展示会出展の前にやるべき準備」にフォーカスした支援策を検討してみてください。

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