はじめに
今後、人口減少や高齢化により国内の食市場が量的に縮小する傾向にある一方で、海外においては人口増加・所得水準の向上により、農林水産物・食品の市場が2015年の890兆円から2030年には1.5倍の1,360兆円へ拡大すると見込まれており、政府では「食料・農業・農村基本計画(2020年3月)」において、2019年に9,121億円であった農林水産物・食品の輸出額を2025年で2兆円、2030年で5兆円の目標を設定した。
このような中、恵まれた自然環境を活かした農水産業が盛んな和歌山県は、農水産業者の所得水準の向上を図り、農水産業及び食品産業の持続的発展に向け、同県が優位性を有する品目についてターゲット国・地域を定め、戦略的な輸出拡大を進めたことで、ここ3年間の輸出額は約2倍(和歌山県水産物・加工食品輸出促進協議会調べ)に増加した。これは同期間の全国の農林水産物・食品の輸出額の伸び率が約1.37倍(2018年:9,068億円、2021年:1兆2,382億円)(財務省「貿易統計」を基に農林⽔産省が作成)であったことを踏まえると、高い成果と言える。
そこで、和歌山県 農林水産部 食品流通課及び県内で積極的に海外輸出を行う「紀南農業協同組合」「合名会社 丸正酢醸造元」の2社を取材した。
和歌山県の取組
(和歌山県 農林水産部 食品流通課 課長補佐 鷲岡 恵子様)
1.デジタルを活用した販路開拓、販売促進
和歌山の食の総合ポータルサイトである「おいしく食べて和歌山モール」を開設し、BtoCとBtoBの両面で販路開拓・販売促進を同時に実施。
「おいしく食べて和歌山モール」(消費者向け)
・県内事業者が生産した商品がすぐに購入できるポータルサイトを開設し、生産現場の魅力情報も併せて発信することで、販売を促進。
・2021年度実績:登録事業者数100社、登録商品数566商品。
「おいしく食べて和歌山モール -FOR BUSINESS-」(バイヤー向け)
・県産品・中間加工品の事業者、バイヤー双方が「売りたい」「買いたい」等の情報を登録することができ、双方で合意すれば即座にチャット機能で商談が開始できる機能を備えているため、商談までオンラインで進めることが可能。
・各事業者適宜、商品情報をアップデートしており、バイヤーは商品カテゴリ、産地、事業者別に検索ができるため、アップデートされた情報をスムーズに得ることが可能。
・コロナ禍で海外へのアプローチが難しい中、海外バイヤーへの提案力を高めるため、海外向け商品提案ページを新たに開設。輸送温度帯や賞味期限でバイヤーが検索できるため、ミスマッチの少ないマッチングを可能にしている。また、提案力を高めるため、商品情報は、多言語化(英語・中国語)して掲載している。
・2021年度実績:登録事業者数129社、登録商品数630社、登録バイヤー数137名。
2.非対面販売のチャネル多様化
近年拡大が続く「ECサイト」、「通販カタログ」、「テレビ番組」等の通販市場を通じた、販路開拓を行い、県産品の認知度、売上アップを図っている。
「郵便局カタログ」「フェリシモカタログ」「タカシマヤオンライン」「虎ノ門市場」
・コロナ禍による対面販売が制限を受ける中、非対面での販売を促進しているが、チャネルの多様化を行っている。
・2021年度実績:延べ163事業者、374商品を紹介。
3.商談会の充実
従来から実施している商談会について、コロナ禍に即して、オンライン方式の商談会を新たに取り入れ、国内・国外バイヤーから現地のニーズや輸入規制等の情報を積極的に収集するよう努めている。
・2021年度実績:海外展示商談会参加延べ事業者数16社、国内輸出商社との商談会延べ参加事業者22社、Web商談会等実施合計数168件。
4.PPIHとの連携協定を活用した「和歌山フェア」の拡大
これまでも、アジア、米国のスーパーや百貨店で食品展や店頭販売を行っていた和歌山県
は、2021年3月に「株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)」との間で、県産品の輸出拡大に向けた連携協定を締結し、傘下グループ会社が運営する海外店舗で加工食品や青果を販売するフェアを開催し、県産品のPRと新たな販路拡大を目指している。
「ロサンゼルス和歌山フェア」「和歌山フェアin香港DON DON DONKI」等
・アジア、米国におけるPPIHの運営店で県産品を販売する「和歌山フェア」を開催。
・加工品が中心であるが、柿、みかんなどの青果品も販売。
・2021年実績:香港DON DON DONKI全7店舗で和歌山県産梅酒等41商品が定番商品化、香港DON DON DONKI3店舗で196商品出品の和歌山フェアを開催、台湾のDON DON DONKIで県内事業者の加工食品の販売拡大。
「紀南農業協同組合」
(常務理事 笠松 英之様、販売部 特販課 課長代理 山田 嘉宣様、同 下岡 三穂様)
紀南農業協同組合では、平成21年からうめ加工品(梅干し、梅肉、梅酒)やドライフルーツ、みかんなどを香港、シンガポール、マレーシア、台湾、オーストラリア、アメリカ、スイス、タイ、ベルギー、モナコ、マカオ、ベトナムの日本人・日系人等が利用する小売店、レストランに向けて輸出している。海外向け売り上げは、全体の0.5%に過ぎないが、コロナの影響で減少した年を除いて、徐々に上昇している。
(奥左から 山田様、下岡様、笠松様)
和歌山県ほか自治体、関係機関の支援について
・県やJETRO和歌山、大阪から年間で15回程度の商談会をセッティングしてもらっている。
・県が主催する海外での和歌山フェアにはよく出展しており、フェア翌年度にレギュラー商品化された商品あり。
・また、田辺市等と設立した「紀州田辺うめ振興協議会」、「田辺市柑橘振興協議会」では、うめや柑橘の消費拡大、生産者の生産意欲の向上等を目的として、海外で開催される「和歌山フェア」に直接生産者が参加し、販売員となって自身が生産した商品を販売する取組を行っており、海外消費者の生の反応を得られる機会は参加者の多くから好評を得ている。
「合名会社 丸正酢醸造元」
(代表社員 小坂 和子様)
1879年(明治12年)に創業された合名会社 丸正酢醸造元では、マクロビオティックの世界的権威である久司道夫氏の依頼を受け、それまで酢作りに不向きとされていたもち米の玄米で醸造にチャレンジし、見事成功。1980年代からアメリカを中心に海外輸出を開始した。続く2007年からは、フランスパリの日本食品セレクトショップISSEにて商品販売したことを皮切りにフランス、ベルギー、イタリアほかヨーロッパで本格的な販売が始まった。海外輸出を始めた頃は全体の1%に過ぎなかった売り上げは、国内販売が減少する中にあって、順調に売り上げを伸ばし、現在では30%を占めるようになった。
和歌山県ほか自治体、関係機関の支援について
・県やJETRO大阪、和歌山から商談会、展示会を定期的に紹介してもらっている。
・県が主催する海外での和歌山フェアには毎回出展しており、コロナの影響で直接このようなイベントに行く機会はないが、特に一部経費を負担してもらえるのは助かっている。
・その他県からの直接・間接的な支援について、ほかの自治体に所在する異業種の方と話をするとその支援の多さや数に驚かれることがあった。
おわりに
ここでは取り上げていない和歌山県の取組(以下<他和歌山県の取組>参照)の他、同県では「和歌山県農産物加工食品の販売促進戦略(全27ページ)」を毎年更新するなど、農水産物・加工品の販売促進の分野のみで、ここまで多面的で広範囲な支援を行う自治体は全国でも珍しいと思われる。
和歌山県では、県下の事業者がなるべく数多くの販路開拓の機会を得られるように、バイヤーとのコネクションを職員が作り、より多くのマッチング機会を作ることに力を入れていたことが特徴的であった。なによりもこれらを通じ、この領域に関して同県及びその職員の並々ならぬ意気込みと熱意を感じることができた。
さらに、インタビューを引き受けて頂いた2社の事業者ともに、県ほか自治体、関係機関の支援等を上手く活用しながら、海外への売上げを増加させており、自治体と事業者が車の両輪となって海外市場の販路拡大が進んでいることが見てとれた。
<他和歌山県の取組>
・「eコマース導入に向けた支援」
・「Web用販売促進ツール等の作成への補助」
・「販売スキル向上セミナーの開催」
・「売れる商品の開発・改良等に向けた専門家派遣」
・「HACCP高度化推進講習の開催」
・「ライブコマースを活用した販売促進」
・「GI和歌山梅酒プロモーションの推進」
・「食品輸出セミナー等の開催」
・「農産物の生産体制等の強化(県関係課室・研究機関等が連携)」
・「輸出用ロゴマークの活用及び商標監視」
・「輸出証明書の発行」 など
(経済交流課 光永主査(大分市派遣))
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