事例紹介

中国発大型クルーズ船の誘致に成功、マーケティングを重視する宮崎県の日南市

「中国人旅行者の爆買」報道とともに注目を浴びる中国発大型クルーズ船。
港を有する各自治体がこぞって誘致をすすめる中、人口約5万人の宮崎県日南市・油津港に4800人乗りの大型クルーズ船が今夏寄港し、その後日本船、海外船を含めて続々と寄港が予定されている。成功の要因とともに、今後の方向性を見据える日南市の動向を探ってみた。

着岸直後に歓迎のセレモニーを太鼓で開催

着岸直後に歓迎のセレモニーを太鼓で開催

ポイント:
・市長、職員一体となって熱心な誘致活動を行ってきた
・16万t級のクルーズ船が寄港できるよう油津(あぶらつ)港を整備
・観光分野でニーズ調査などマーケティングを重視

平成26年は、外国クルーズ船が九州の3港(博多港、長崎港、鹿児島港)に233隻寄港し、過去最高を記録した。これは、上海および天津を出発する中国クルーズ船が、韓国と日本をめぐる4泊5日もしくは5泊6日のショートクルーズ商品を組みやすいことに起因している。

平成21年ころから、コスタ・クルーズ社、ロイヤル・カリビアン社という世界に名だたるクルーズ船社が上海に拠点を置き、マーケティング・販売を始めた。リーズナブルに豪華客船で海外へ行くことができる「クルーズ旅行」は中国人にとって新しい旅行の形として人気を博した。今や中国企業がクルーズ船を運航、4,000人乗りの大型船も登場するなど活況を呈している。

クルーズ客船の寄港に際しては経済効果、PR効果などが見込まれる。
福岡市では、1人あたりの平均購買額を3万7千円と算出(平成24年の調査より)。ツアーの購入などをあわせて平成24年一年の経済波及効果を59.4億円としている。

それゆえ港を持つ日本各地の自治体は、積極的に誘致を進めている。

宮崎県の南部に位置する日南市もその一つ。小京都を思わせる「飫肥(おび)」や日南海岸など風光明媚な日南市は、人口約5万人。平成25年に就任した﨑田恭平市長も自ら中国のクルーズ船社を訪問し、クルーズ船誘致を行った。

しかし、大型クルーズ船が寄港するには、岸壁の状態、港の水深などのハード面の条件が高く、受け入れ可能な港が少ないのが現実だ。
「日本には大型船が寄港できる港が少なすぎる。」と、クルーズ船社の幹部からよく聞かれる言葉でもある。

油津港も当初はそれらの条件を満たしていなかった。このため港湾管理者である宮崎県は、油津港に16万トン級の大型船を受け入れようと、平成26年4月から平成27年3月に1億2千万円をかけて油津港を改修。船の接岸時に船体を守るための防舷材や係留ロープを巻き付ける係船柱を設置し、受け入れ態勢を整えてきた。
日南市は誘致活動をさらに強化。平成27年3月には同市を中心に国土交通省、県や串間市、宮崎市などの10自治体と民間企業などで「県南部広域観光協議会(会長:﨑田日南市長)」を立ち上げ、数千人の受入に相互連携して対応できる体制を整えた。

大型船が寄港可能になると、クルーズ船社の対応も大きく変わったと日南市の担当者。続々とクルーズ船の寄港が決定した。     

平成27年6月29日には「コスタ・ビクトリア」(乗客定員2,394名)が初入港。
1,773名の乗客のうち1,725名が中国人旅行者で、飫肥城やサンメッセ日南など日南市内や、鵜戸神宮、宮崎市内など5コースに分かれて寄港地ツアーを楽しんだ。

日南市は、通常各港が用意している歓迎イベント(式典)、お見送りセレモニー、クルーや個人旅行者向けの市街地と港を結ぶフリーシャトルバス、出港時の花火などを実施。
さらに、他港とは違う下記の取組を行った。
①宮崎県南部広域観光協議会による港での合同物産展(15店舗 うち免税店2店)
②観光地の飲食店や土産店で使えるクーポン券付き周遊MAPの販売(日南市立ち寄りツアーの旅行会社買い取りにより乗客に配布)

その後も、平成27年7月には、ロイヤル・カリビアン社の「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」が、8月16日には、同社が6月末に運航を始めたばかりの大型船「クアンタム・オブ・ザ・シーズ」が寄港。特に「クアンタム~」はアジア最大の16万t級、4,800人定員の大型船だ。定員いっぱいの乗客のほとんどが中国人で、ツアーバスは122台、4,000人強が寄港地ツアーに参加した。

油津港は、大型バスが下船後すぐに乗れるよう横づけできるのも便利なところ。
また一般の市民も近くまで入ることができ、多くの人がクルーズ船を見学とあわせて歓迎した。この雰囲気は大都市にはない魅力だと思われる。

8月16日の寄港時にも合同物産展と飲食屋台を実施した。

地元・山形屋デパートによる電化製品や化粧品などの免税店の他、焼酎や海産物、茶、ジャム、漬物、包丁、そして飫肥杉を使ったバッグなどの地域の産品も販売された。

日南市担当者は前回積極的な接客を行った海産物店の事例や、わかりやすい表示例などを出展者に情報共有した。そのためか、積極的な試飲や試食の実施、英語や中国語の表記、まとめ買いをすると割安になるセット販売などが増加した。

自由に移動できる個人旅行者やクルー向けには、英語を付記した地図を配って、商店街や他地域への回遊も促した。実際に地元の寿司店に足を運ぶクルーの団体や、コーヒーショップを訪れる家族やグループの姿があった。

「経済効果は大型船だと2,000万円程度と見込まれる。今後、合同物産展を継続するには費用もかかるので、商店街に客を引き込んで回遊させたい」と日南市担当者。

クルーズ船社に足を運び、信頼関係を築いてきた﨑田市長は、誘致の成功をふまえて次の課題について語った。
「中国人旅行者の本当のニーズを正確に把握したい。どんな観光地が好まれるのか、どんな物を買いたいのか。人気のある電化製品や化粧品などが売れるのはわかるが、できれば日南の地元の産品を売りたい。そのためにもニーズ調査を行いたい。」

『現状把握を行う』→『目標設定』の流れは、インバウンドにおいて必須なのだが、自治体の事業では抜けがちである。

9月10日に九州運輸局から日南市における「ようこそ日南へ!外国クルーズ船寄港を生かした地域活性化事業」の公募が出され、本格的なマーケット調査が行われる予定であった。しかし、調査にかかる11月に予定されていたクルーズ船寄港がなくなったため、いったんは保留になっている。

﨑田市長は起業・創業、リブランディング、地方創生など多くの事業に民間から登用した「マーケティング専門官」を関わらせて、功を奏している。観光分野でのマーケティングはこれからとなるが、人口約5万人の市の可能性を見せてくれるに違いない。

街中のアーケードには、歓迎ののぼりが並ぶ

街中のアーケードには、歓迎ののぼりが並ぶ

着物姿での歓迎、写真を一緒に撮る観光客

着物姿での歓迎、写真を一緒に撮る観光客

港に隣接した物産コーナーでショッピングを楽しむ

港に隣接した物産コーナーでショッピングを楽しむ

日南市の﨑田恭平市長が、中国へのトップセールス

日南市の﨑田恭平市長が、中国へのトップセールス

飫肥城で弓矢を楽しむ中国人旅行者

飫肥城で弓矢を楽しむ中国人旅行者


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | 九州・沖縄 | トピックス

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