事例紹介

外国人観光客に向けたマナー啓発 ~京都市 持続可能な観光を目指して~ 

 言わずと知れた人気観光地である京都市。コロナウイルスの影響を受ける前の2019年には1年間に886万人もの外国人観光客が訪れました。

 今回は、インバウンド回復期を見据えた受け入れ環境整備の参考として、外国人観光客へのマナー啓発の必要性について、取り上げます。

 観光客のマナー問題は、観光客数の大小に関わらず、どの地域でも起こりうる課題です。もちろん、マナー違反は、日本人か外国人かに関係なく発生するものですが、外国人に対するマナー啓発は、言葉の壁や文化の違い等、様々な課題があります。外国人観光客も多く訪れていた京都市では、どのように取り組んできたのでしょうか。京都市 産業観光局 観光MICE推進室の渡辺英人さん、瀬川裕さん、中窪千裕さんにお話を伺いました。

 

 

コロナ以前の状況~問題の顕在化~

 京都市では、LCCの拡充やビザ発給要件の緩和により外国人観光客が急増した2014年頃から、観光客のマナー問題が顕在化しました。ごみのポイ捨てやトイレの使い方、路上マナー(道に広がって歩く、路上喫煙)、芸妓さん・舞妓さんの無断撮影、土足で畳に上がる、帽子やサングラスをしたまま参拝する等、様々な行為が問題となっていました。観光関連の事業者のみならず、地域住民からもこうした行為を問題視する声や改善を求める声が高まりました。

 また、2019年に京都市が実施した観光客満足度調査によると、日本人観光客の44.7%が「残念に感じることがあった」と回答。その理由として、「人が多い、混雑」が1位、そして「観光客のマナーの悪さ」が2位に続きます。

 京都市では、この状況を改善すべく、公益社団法人京都市観光協会と連携し、様々な対策に取り組んできました。

 

 

京都の代表的な観光地である嵐山の「竹林の小径」 

               (c)京都市メディア支援センター

 

 

リーフレットやステッカーの作成

 世界最大の旅行情報サイトを運営するトリップアドバイザー株式会社と連携し、リーフレット「AKIMAHEN」を英語及び中国語で作成。イラストを使用しながら、京都で守ってほしい習慣やマナーを分かりやすく伝えています。リーフレットは、観光案内所や空港、宿泊施設、観光施設等で配布するとともに、訪日前からマナーを知ってもらえるよう、京都市の海外情報拠点注)や外国人観光客向け公式サイト「Kyoto City Official Travel Guide」等にも掲載し、広く周知しています。

 

注)京都市海外情報拠点・・・海外における京都観光のPR活動、現地の旅行業界動向等の情報収集、海外有力メディアとの関係構築等を行うため、海外12都市に設置している(ニューヨーク、台北、上海、香港、シドニー、パリ、フランクフルト、ロンドン、クアラルンプール、マドリード、トリノ/ローマ、ロサンゼルス(令和3年2月現在))。

 

 

 

 

 また、「撮影禁止」「立入禁止」「飲食禁止」等、14項目の注意事項をピクトグラム(情報を伝えるために使用する絵文字や記号)で分かりやすく伝えるステッカーを作成。一方的に注意喚起するだけでなく、京都の文化、景観、住民の暮らし等を理解し、尊重しつつ京都を楽しんでもらいたいという想いから、イタリアのベネチアやフィレンツェでも先行事例のある「ENJOY RESPECT」のキャッチコピーを使用しています。

 

 

 

 

 

 この他にも、トイレの適切な使用方法を理解してもらえるよう、イラスト中心の啓発ステッカー(英語、中国語、韓国語を併記)を作成し、公衆トイレ等に掲示しています。

 

 

 

 

 いずれのリーフレット、ステッカーも、事業者等が自由に活用できるよう、無料で配布しているほか、ホームページからもダウンロードすることが可能です。

 文章のみで注意書き等を作成する場合、何か国語を掲載するかの問題が発生したり、正しい翻訳がされておらず、きちんと内容が伝わっていないケースも少なくありません。その点、イラストやピクトグラムは、言語の制約を受けず、文章よりも直感的に内容を伝えることができることから、効果的な啓発ツールであると言えます。

 

 

文化や習慣の違いをきちんと伝える

 お話を伺った京都市の瀬川さんは次のように話します。

 「同じマナー違反でも、日本人とは異なり、外国人の場合、文化や習慣の違いが要因であることが多く、悪意があるとは限りません。まずはきちんと日本の文化や習慣を伝えて、知ってもらうことが大事だと思います。」

 例えば、中国では下水道管が細く詰まりやすい等の理由から、使用後のトイレットペーパーをごみ箱に捨てることが正しい習慣です。自国の習慣にならって行動した結果、日本ではマナー違反と見られてしまいます。受け入れ側がきちんと知らせれば、未然に防ぐことのできる問題も少なくありません。

 

 

 

祇園のまち並み

                (c)京都市メディア支援センター

 

 

 昨年3月、京都市では、外国人観光客向け公式サイト「Kyoto City Official Travel Guide」(https://kyoto.travel/en/index.html)のリニューアルを実施しました。コロナ禍においても、HP上で京都の魅力を海外へ発信し続けるほか、今後更に市民生活と観光との調和を図っていくため、これまでのように禁止事項を伝えるだけの一方的なマナー啓発ではなく、京都の歴史的な背景や文化、京都の暮らし、習慣の理解促進につながる情報を充実させ、なぜこれらのマナーを守らなければならないのかを理解していただけるように工夫して発信しています。

 

 サイト内では、これまでの「AKIMAHEN」や「Enjoy RESPECT Kyoto」等の注意・啓発を発信するだけではなく、各観光地の事情に合わせたマナー情報を、記事コンテンツ形式等で紹介するほか(「Insider Tips for a Respectful Visit to Kyoto」、「Kyoto’s Local Rules」等)、伝統工芸をはじめとした職人の紹介(カテゴリー「People」)や住民が語る地域の魅力(カテゴリー「Street」)など、様々な情報を発信しています。

 

 

京都観光を楽しみながら、まちに敬意を表することを呼びかける。

 

 

今後求められる「持続可能な観光」

 これまでの日本のインバウンド政策と同様に、京都市でも、観光客の「数」を目標にしていた時期がありました。しかし、追求するものは、「観光客の数」→「観光の質(消費額の増加等)」→「市民生活と観光との調和」という過程を経て変化してきたそうです。

 「観光施策に取り組む段階から、地域との両立を考え、持続可能な在り方を見据えながら施策を進めるとよいと思います。」と渡辺さんは話してくれました。

 

 2019年12月、国連世界観光機関とユネスコ主催で「第4回 観光と文化をテーマとした国際会議」が京都市で開催されました。この会議で、門川大作京都市長が発表した観光と文化の「京都モデル」は、「『観光』は『文化』と『地域コミュニティ』の継承・発展に向けて、三者の間に好循環を生み出す『プロモーター』となるべきであり、この好循環を生み出すために、行政は観光課題の解決や、担い手の育成等の下支えを行うことが必要である」としています。この「京都モデル」は世界各国からも高く評価され、会議の成果として取りまとめられた「観光・文化京都宣言」にも「京都モデル」の活用を推進すべきことが明記されました。

 

 

京都モデルの概念図

 

 

 また、本会議の内容を踏まえ、昨年11月、京都市は、「京都観光行動基準(京都観光モラル)」を策定しました。持続可能な観光を進めていくため、観光事業者・従事者等、観光客、市民が、お互いを尊重しながら、それぞれに大切にしていただきたい行動をまとめたものです。この「京都観光行動基準(京都観光モラル)」は、今後、翻訳の上、海外へも発信していくそうです。

 

 

さいごに

 コロナ禍を契機に、これまでの観光のあり方が世界的に見直され、「持続可能な観光」に注目が集まっています。まずは一刻も早い観光の回復が望まれますが、アフターコロナでは、コロナ以前の観光のあり方にそのまま戻すことを目指すのではなく、地域住民と観光客の両者が気持ちよく過ごすことのできる、持続可能な姿が求められています。インバウンドが止まっている今この時を、受け入れ環境整備等に取り組めるチャンスとして捉え、行動していくことが大事なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

    (経済交流課 佐藤)

 

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