山梨県の甲府盆地東部は全国有数のブドウ産地であり、ワインの産地としても日本人には有名なエリアだ。しかし、訪日外国人にはまだあまり知られていない。そこで3つの市や県、民間が連携してワインを中心に地域資源を活用した観光振興を図ることとなった。それぞれの強みをつなぐことで、宿泊客を増やし、観光消費を増やすことも可能だ。その経緯と取り組み内容を追った。
ポイント:
・山梨市、笛吹市、甲州市の広域連携によりワインリゾートを目指す
・地域の強みを押し出し、富士山周辺からの周遊・滞在を図る
■ワインをテーマにした官民による協議会が発足
山梨県は、富士山という外国人旅行者に人気の観光コンテンツを抱えるものの、インバウンドに対する危機感を抱いている。それは、富士山が2013年に世界遺産に選ばれたこともあり、富士山周辺の河口湖や忍野八海等の定番コースは確かに外国人旅行者が増えたものの、その他のエリアが苦戦しているからだ。
富士山への外国人旅行者の行動パターンで一番多いのが東京からの日帰り、次いで箱根に抜けて温泉宿での宿泊だ。そこで、他のエリアのセールスポイントを打ち出し、足を延ばしてもらうための取り組みが始まった。それが、「富士の国やまなし 峡東(きょうとう)ワインリゾート構想」だ。
これは、甲府盆地の東部に位置する峡東地域の3市(山梨市、笛吹市、甲州市)のエリアを繋いでスタートしたプロジェクトで、2015年の夏にワインをテーマに3市を中心とした協議会の準備会を第一弾として発足させた。地域の関係団体にも呼びかけ、準備会には各市のワイナリー団体のほか、観光協会、JA、宿泊団体、二次交通事業者などが加わった。
そして2016年1月に、「峡東地域ワインリゾート推進協議会」を設立し、同年2月に「富士の国やまなし 峡東(きょうとう)ワインリゾート構想」が策定され、2019年度までを策定計画の期間として、年度ごとの取り組みが定められた。
ゆったりとワイン産地に滞在し、地域の自然を感じ、温泉で癒されながら自分達が見つけたお気に入りのワインと地域ならではの食を楽しむ・・・これが構想の目指すところだ。
■ワインに関する研修で地域全体の人材を育てる
峡東3市は、それまでも観光キャンペーンなどを共同で行うなどの取り組みは実施していたものの、別々にパンフレットを作り、各々のエリアのPRを行っていた。峡東地域には果樹やワインといった共通の資源があり、またそれぞれの市に違った強みがあることから、各市が連携して広域の観光振興を図ることによって相乗効果が期待できると協議会の担当者は言う。
山梨県には、国内に280ほどあると言われているワイナリーのうち約80のワイナリーが集まっていて、その中でもこの3市は約60ものワイナリーが集中する国内随一のエリアだ。さらに掘り下げると、甲州市には約30のワイナリーがあり、半数のシェアを占めている。
一方、笛吹市には県内最大の石和温泉郷があるため宿泊に強く、山梨市には人気の自然景観スポットがある。
それぞれの強みをつなぐことで、地域への滞在につなげ、経済効果を高められる。
県の調査によると、山梨県への観光客のうち、日帰り客が約7割を占めており、宿泊客を増やすことが課題となっている。地域の魅力を発信して、日本人、外国人のいずれにも宿泊してもらうことで、観光消費が増える。そのための有効な観光資源の一つが「ワイン」であると協議会の担当者は語った。
今回のプロジェクトでは、人材育成にも主眼が置かれている。同協議会が主催する研修会で、ワインの知識や3市の観光の知識を高めることを目的に、宿泊施設、飲食店、2次交通事業従事者など、観光客と第一線で接する業種を中心に、2016年度にまず、37名が「峡東ワインリゾートコンシェルジュ」として認定を受けた。認定者はコンシェルジュとして、例えば、料理に合うワインを紹介するなど宿泊客のおもてなしに当たっている。また、山梨中央銀行など県内の6つの金融機関も、ワインリゾート構想の普及に一役買おうと始動した。職員向けの勉強会開催や、顧客への県産ワインのアピールに取り組んでいる。
■ワインをテーマに自主的な取り組みも始まっている
同協議会では、各市で歩いてワイナリーを訪ねる広域ガイドマップを作成し、東京での物産展等で配布している。また、JR東日本と連携した「ワイン列車」を2017年2月に運行し、高い人気を博した。
また、峡東ワインリゾートのホームページでは、各ワイナリーの詳細な案内や宿泊施設のワインに合う料理を紹介するなど、テーマの統一を図っている。
ワイナリーでも独自の動きが始まった。甲州市にある創業127年の丸藤葡萄酒工業株式会社は、古民家を活用したゲストハウスを2017年の3月にオープンしている。ワインの歴史などを学びながら、じっくり試飲できる落ち着いた空間を提供しているのだ。
ワイナリーも観光客の受け入れ体制の充実を図り、地域を盛り上げようと取り組んでいる。
地元では、「ワインが売れれば、それと密接な関係のブドウ畑の手入れが行き届き、ブドウ畑の美しい景観も守られる」という声もあり、その結果として、さらに多くの観光客に来てもらえるといった好循環も期待できる。
地域共通の強みであるワインを核に、今後も次々と広がりが出てきそうだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/