事例紹介

これからの地方誘客 “農泊”を核とした「グリーンツーリズム」 によるインバウンド誘致 ~大田原市の事例~

株式会社 大田原ツーリズム

代表取締役社長 藤井 大介

大田原の農泊の事業計画の策定

 大田原での農泊のベースであるグリーン・ツーリズムは、2011年の震災の年に計画づくりが始まり、その翌年の2012年に事業計画を策定し、その夏の7月には(株)大田原ツーリズムを設立したという1年間の計画ですべてを作り上げたスピード感のあるものです。同時に、グリーン・ツーリズムの理解促進と人材育成のために、協議会が2012年に同時に設立されています。その動きの背景には、民間が事業計画を策定し、市がGOサインをかけた官民共同事業でありました。2012年度には、大田原市が5,000万円を出資、また、民間からも1,500万円の資金調達をしております。その経緯を受けて、(株)大田原ツーリズムでは民間から代表を出し、組織運営を行っております。

自然豊かな栃木県大田原市

事業計画づくりとその計画を上回る実績

 大田原のグリーン・ツーリズムでは、まず事業安定化までの7年間の事業計画を策定し、活動を開始しました。その計画では、国内の学生と企業をターゲットとし、インバウンドはメインターゲットには置いておりませんでした。当初は旅行業としてのビジネスモデルが基本であり、特に地域の経済効果と事業の黒字化のために国内の団体旅行客を本ターゲットとしました。

 また、大田原市と(株)大田原ツーリズムでは、農業体験などの産業体験をする上で、体験施設等のハードは一切保有していなかったため、地域の文化や産業を活かした体験をメインとした、ソフトのコンテンツを提供することしかできませんでした。大型ホテルの存在もなく、通常のホテルもそう多くないため、農家民宿という、体験をより長く、そして、滞在型の観光をしていただくことを計画し、その受入れ整備を行いました。農家民宿と言いましても、大田原モデルは農家の一般のご家庭であり、むしろ、民宿などのように整ったものにはしないようにしております。一方、困ったことには、田舎の農家で受入れというイメージは、親族が夏休みに帰って来た時のように、お寿司や豪華な食事を振舞ったり、何もかももてなすというイメージが先行してしまうため、そうではなく、普段の生活や食事、安全管理など、多くのことを学んでいただき、リスクマネジメントをしたうえで、今あるものをいかに体験していただけるかを追及しました。

農家民宿・農業体験で大切なこと

 私達の顧客はだれかと申しますと、この地域に来る観光客ではなく、地域の農家や受入れ組織としており、その顧客とのコミュニケーションを大切にしております。なぜならば、もちろん、地域づくりのために始まった事業であることもありますが、農家民宿を受入れる農家の数が増えれば増えるほど、受入れられる人数も増えるからです。そのため、私達にとっては、農家民宿を行う農家が一番の顧客ですし、その農家さんらがいかに楽しんで受入れしてくださるか、また、どのようにすれば日頃から楽しんでいただけるかを大切にするようにしております。なので、受入れにおいてもできるだけ負担のなきよう、また、個々の受入れの方々が不満を抱かないようなコミュニケーションをとっていくことが大切だと考えております。そして、受入れ農家が満足いき、さらに、交流を楽しんでいただければ、自然にそこにきた体験者も満足感が得られ、観光客の満足度も高まることに繋がります。ちなみに、当地域では、農家の簡易宿所の手続きを終えているため、宿泊業では農家民宿の定義となりますが、民宿業と誤解を与えないためにも、「農家民泊」という言い方をしております。これは、近年の「民泊」とは言葉は似ていても全くの別物となります。

 

田植え体験の様子

インバウンドを受入れる目的

 一方、そのような「農家民泊」ですが、実のところ、日本国内の団体客のみで十分な受入れ実績を得られていたため、インバウンドの受入れは、実施する必要はありませんでした。しかしながら、私達の顧客の概念で先述したとおり、受入れ農家の数が増えて、「農家側が満足すること」が一番大事なことです。事業開始当初は、農家民泊の数は0軒から始まっており、そこから、1軒、1軒お願いしていき、今日の180軒という数に達しました。この軒数を増加させ、また、受入れ農家の満足度を高めるために、メインターゲットである日本人の閑散期を利用し、受入時期の平準化の面でも一役買う新たな試みとして、インバウンドの受入れを始めました。

 

農家民泊時の様子

地域の満足感を高める挑戦

 各受入れ農家においては、もともと日本人の受入れでも抵抗があり、さらに、外国人だとより抵抗感が当初はあったかと思います。それが今では、外国人しか受入れたくないという受入れ農家もあります。

 私達はどうすれば各受入れ農家の満足度を高められるかを考えた時に、日本文化や農業に興味を持つ外国人を受入れることで、改めて、自分達の日頃の生活や食事、地域、景観が素晴らしいかを理解していただくことができると考えました。そこで初めに受入れたのが親日的な台湾の高校生の方々でした。その結果、言葉は通じずとも、日本人以上に日本のことに興味を持ち、コミュニケーションを取ろうとする姿勢や、日ごろの生活、ましてや、普段の何気ない手作り料理に台湾の皆さんが美味しいと感動する姿に、自分達の日頃の生活や食事、環境自体の素晴らしさに気づいていきました。そこに、自分達の住んでいるこの地域や、食事に対して、プライドが生まれていきました。

 また、当地域では両親、その息子夫婦もしくは娘夫婦、そして、孫まで一緒に住んでいる3世代の受入れ農家も少なくありません。そのような受入れ農家において、外国人を受入れることで一番喜ぶのは実は孫になります。これは日本人の受入れ時と全く反対となり、孫は大抵、幼稚園ぐらいから高校生までの年代が一緒に住んでいることが多いですが、その世代にとっては異文化の若い世代が来ると交流したいという意識、それから、言葉の壁があることに興味が湧きます。その孫が喜んでいることを見て、親や祖父母等は積極的に受入れしてくださる傾向ができます。中には、その孫が大学生以降になって、留学や海外旅行に目覚めることにも繋がるケースも多くあり、この大田原の農村にも関わらず、国際色豊かな、そして、外国人に抵抗がない人材育成にも繋がっていくことになります。

オーバーツーリズム

 そもそも当地域における農泊の需要は当初から相当あり、現在においても供給を上回っている状況です。それは農泊という魅力、市場が大きいからですが、一方で、オーバーツーリズムは一切起きません。なぜならば、団体旅行は、完全に(株)大田原ツーリズムが管理しており、受入れ容量を超える場合は、お断りすることも、日程調整することもすべて可能であるからです。

今後の当地域の計画と日本の将来

 団体旅行の農泊で成功した当地域では、個人旅行の受入れも始めております。まず、第一段階として、2019年に東日本では初めて、有形文化財のリノベーションを行い、ホテルとした「有形文化財ホテル飯塚邸」の開業が挙げられます。古民家をお洒落に快適にしたホテルで、地域のブランディングに成功し、海外のお客様においては欧米豪を中心に約3割を占めております。日本人でもなかなか踏み入れない集落ともいえる場所にも関わらず、外国人の皆様にも喜んでいただいております。

 

有形文化財ホテル飯塚邸

 

 また、2023年から始めた日本版アグリツーリズモ、いわゆる「農家ホテル」については、2023年に6軒からスタートし、2026年春には9軒となる予定です。団体旅行でなくとも、農村に来て、農家の家にいつでも泊まることができる場所となっており、この宿泊施設は農家の敷地内の蔵や母屋を改装して、ホテルとして提供し、プライベート空間と農家のコミュニケーション、景観を楽しめる場所として人気を誇っております。この、宿泊体験から移住に繋がった報告もあります。

 

農家を改装して作られた「農家ホテル」の一室

 

 皆様も是非、有形文化財ホテル飯塚邸やアグリツーリズモ大田原(農家ホテル)で、農村の素晴らしさに触れてみてください。そして、この「農家ホテル」や農泊体験の事例が日本中に広がることで、新しい農村維持の手法に繋がることを願っております。

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