取材先:佐賀県太良町観光協会、太良町役場
はじめに
周遊型謎解きとは、ある場所を巡りヒントを見つけながら、用意された謎を解くアクティビティであり、国内のみならず海外においても人気を集めている。財務省関東財務局2025年の「周遊型謎解きを通した地域の活性化について(経済調査課)」レポートには地域活性化手段としても取り上げられている。調査レポートによると、2007年に初開催してから売上規模が年々拡大し、2024年には約94億円まで拡大した。国内旅行者向けに謎解きを活用している地域は少なくない一方、インバウンド市場に対応する多言語の謎解きイベントを実行している事例はさほどない。
そのような状況の中、佐賀国際空港・長崎空港から車で1時間ほどに位置する有明海沿いの太良町は、2024年夏にインバウンド観光客も楽しめられる「太良有明シークリングミステリー」を実施した。「太良有明シークリングミステリー」には、既存のレンタサイクル事業に謎解きを融合することで、観光客に能動的な観光体験を提供している。観光客は謎解きのため、大魚神社の海中鳥居のような太良町の有名な場所のほか、町役場あたり隠れ名所にも謎解きスポットを置いており、旅行者を引き寄せるようコースに入れることで、観光客に新しい魅力を発見するようにもしている。

潮が引いていく時の海中鳥居
体験開始には太良町観光協会で参加手続き及びレンタサイクルの手続きを済ませる必要があるが、さほど手間がかからないうえ、レンタサイクルの利用料1,000円を支払えば、参加手続料は無料となる。太良町観光協会はレンタサイクルの利用を推奨するが、使用しないことも選択可能であり、その場合、参加手続料500円を支払うだけである。なお、レンタサイクルを利用する観光客には、地元住民が作ったキーホルダーをプレゼントするほか、全問謎解きを制覇した場合、景品をプレゼントしている。
謎解きで回る先は、町の主だった観光地のみならず、隠れた名所も回れるようになっているうえ、開始時期、町を回る方法、謎解きのペースも自由、かつ、費用も抑えられた観光となっている。

(左)町で働く女性陣グループの手作りキーホルダー
(右)景品:町のマスコットキャラクターつきみんとガネッタのタオル
事業実施までの動き
公募での一歩
旅行者は食べ物・景勝地巡りのような観光スタイルから体験型観光へ移行する傾向が近年みられるものの、太良町および太良町観光協会には体験型観光事業を一から立ち上げるだけの知見がなかった。そのような中、若者向けアイディアコンテストを実施する株式会社FLASPO(以下、FLASPO)が2023年に新事業を公募する事業案を太良町観光協会に提案したことがこの事業の発端となった。
太良町観光協会は2023年に「若者旅行者をターゲット」とした体験型観光の公募をFLASPOの提案に沿って実施。第一段階では、50件以上の応募があり、上位5案件が選出された。選出された上位5案件については、太良町に招待され、現地を体験したうえで、案件の改善を行ったのちに再度審査。結果、レンタサイクル×謎解き案が選出された。その後1年ほどかけてブラッシュアップし、2024年夏に「太良有明シークリングミステリー」としてスタートした。
なお、選出基準は①地域を理解する分析力、②企画の実現性、③オリジナリティ、および④ポテンシャルであったが、できるだけ町に長く滞在してもらいたいこと、また、町外の人から見た太良町の魅力を引き出した案件であったことも評価され、この案件が選出された。

公募サイトより
イベントのブラッシュアップ
事業のブラッシュアップを実施していた時に考えていたのが、謎解きはあくまで自転車で町を回るための手段として位置付けていたことから、謎解きの難易度があまり高くならないようにしていた。また、外国人が日本語を理解できていなくても同じ謎解きができるように、日本語版と英語版に対応するように考えた。

イベントの英語ホームページに掲載した練習問題
当初は外国人向けを想定していなかったが、東京オリンピックや大阪・関西万博の開催など、インバウンド観光客が多数来日するイベントが多く開催されるようになり、必然的にインバウンド観光客への対応も必要と考えるようになった。
実際、佐賀国際空港と長崎空港には東アジアからの航空便が就航しており、東アジアのインバウンド観光客が来日している中、欧米豪のインバウンド観光客は数こそ少ないものの、2023年から2024年には倍に増加しており、英語バージョンにも対応する謎解きをつくるきっかけとなった。
役割分担
太良町役場は事業の予算確保、町長・職員が公募で集まった案件を審査すること、スケジュール調整、および経過確認を行うなどを担当。それを受け、太良町観光協会が中心となり、FLASPOに委託をし、事業を実施する体制となっている。太良町観光協会は、FLASPOや役場との調整、自転車の整備、事業の運営などを担当。また、太良町の地元住民を巻き込む取り組みにも携わった。
費用面については、アイディアコンテストの実施、謎製作、サーバー管理、広報など、主にFLASPOの業務委託で260万円程度。謎解きに活用されているスポットは既存の施設であり、通常の維持管理費にとどまる程度で。太良町役場としては、開催初年度からかなりの実績が出ており、妥当な投資とのこと。
事業効果と今後の展開
太良町観光協会によると、2024年の謎解きの参加者は80人ほどで、約9割は日本人、約1割は外国人[CEJ1.1]であった。日本人旅行者は謎解きを目的とした傾向がある一方、インバウンド観光客は太良町を観光しに行く目的で、ついでに謎解きに挑戦する傾向がある。なお、イベントの完成率は出身国問わず100%だった。
太良町の合計宿泊客数については、国内客が年間3万人程度で安定しているが、一方でインバウンド観光客は2024年に4千人弱と、2023年の倍以上となっている。宿泊客数と「太良有明シークリングミステリー」との関係性については、明確になってはいないものの、観光客が増加している。2024年にアンケートを実施したところ、謎解きを重視したい旅行者、またより短い距離を希望する旅行者がいたことから、2025年10月には難易度を上げたコースおよび短距離のコースを追加した。それらは現在、日本語のみの対応であるが、将来的には外国語にも対応することを検討している。

太良有明シークリングミステリーのコースその1,2,3
地域との関わりあいにおいては、太良町商工会女性部部員にコロナ禍のころに使われたアクリル板を再利用し、レンタサイクルのプレゼントや自転車につける絵を作成してもらっている。そのレンタサイクルで刊行者が町を巡るところを地元住民が見ることで、自分が事業に関与している実感を持たせ、地域の一体感を持たせる狙いである。また、自転車で巡り、休憩やご飯で途中のお店に立ち寄ることでも、一定の効果があるとみている。

レンタサイクルに地元住民が描いた絵が飾られている
今後はJR多良駅に観光案内所を追加し、観光客に見てもらえる機会を増やし、SNS等で拡散してもらい、参加者の拡大を見込んでいる。
終わりに
筆者が「太良有明シークリングミステリー」を実際に体験したが、謎解きは、人手不足、オーバーツーリズム、観光客の消費促進などに効果が高い体験観光だと実感した。
今回案内した周遊型謎解きには、主催側が見せたい場所を謎解きのキットで案内するので観光ガイドがいなくても観光客は地元の魅力を十分理解してもらえる。また、謎で足を止めさせ、滞在時間を延ばすことで、途中のお店での消費も促すことができる。さらに、イベントに時間制限がないため、観光客が時間が許す限りゆっくりとスポットを巡ることができ、分散効果もある。

謎解きスポットの近くにある海中道路
インバウンド観光客数が増えている中、太良町観光協会は公募を通じて、ノウハウのない体験型観光に挑戦し、既存の観光事業と謎解きが融合したアイディアを実現し、観光客に新しい能動的な体験を提供した。また、町の魅力の発信や地域の活性化にもプラスの影響を与えており、太良町に合った観光促進事業と考えられる。
自治体国際化協会
経済交流課 プログラム・コーディネーター チー エンジャ



