一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事 ハラルビジネスプロデューサー
兼 自治体国際化協会 プロモーションアドバイザー
佐久間朋宏
前編に引き続き、後編では、「輸出・インバウンド(訪日客)について基礎知識と自治体が取り組むべきポイント」を解説します。
■輸出について基礎知識と自治体が取り組むべきポイント
イスラム市場を狙った輸出拡大のステップ
輸出を行っている事業者が少ないのが地方の現状です。まずは輸出に興味を持ってもらう、そして担当者を決めてコツコツ行うことがとても大事です。日本貿易振興機構(JETRO)などの専門セミナーに参加し、輸出に意欲を持つ活動が大事になります。日本らしい商品は売れますが、中国、韓国、台湾などがすでに製造輸出していることもあり、工夫・戦略が必要です。
イスラム市場に参入するメリットは3つです。1つ目はイスラム教の国々は世界200カ国中の約50カ国あり、親日の国が多いこと。2つ目は、政治リスクが少ない。東南アジア、南西アジア、中東・アラブなどは日本から少し離れ有望な国が多いこと。そして3つ目は、ハラルで差別化できることです。差別化することで商談件数などが劇的に増えます。特に食品・健康食品・化粧品・生活用品の原材料メーカーには東南アジアではオペレーティングシステム(OS)的またはパスポート的に、ハラル対応を視座に置くことが必要な時代に入りました。
人気商品
やはり日本で流行っているものはイスラム教徒の彼ら・彼女らも食べたい、使いたいのです。その目線と、コスト感などが鍛えられると輸出効果が出てくると思います。常温即食系(そのまま、お湯を入れて、電子レンジ、湯せんですぐ食べられるモノ)で賞味期限が180日以上、希望は365日。お菓子、インスタントヌードル、レンチン食品などが該当します。またB級グルメ的な食べ物、わかりやすいモノがいいです。乳酸菌飲料や日焼け止め、美白クリーム、痩身、糖尿病対策サプリなども人気です。
輸出国選定の重要性
47都道府県が同じ国を狙う必要はありません。輸出は国単位ですから、インバウンド(訪日客)で強化国を決めているのと同じで、輸出もイスラム市場の国決めが大事です。そのために、ハラル対応のセミナーやバイヤー商談などを実施し、事業者への意識啓蒙をします。また10年の間にハラル認証事情も変化しています。大手企業もいまハラルビジネスのリマインド、再度学習の機会ととらえています。ハラルビジネスに関するアップデートが必要となります。
ハラル認証の罠
ハラル認証を取れば必ず売れるものではなく、相乗効果を何で狙うか?また付加価値がつけられるか?を考える必要があります。輸出想定国が決まり、売り先が決まり、ハラル認証取得が条件であれば、リスク少なくハラル認証を取得できます。基本的には売り先が決まってから相手が求めるハラル認証を取得するのが良いです。ハラル認証は自社のマーケティングで選択しますので、時には切り替え(取り直し)をすることもあり、自治体が補助できる体制があると良いと考えます。
図:国内で作るもの、海外で作るもの仕分け
■インバウンド(訪日客)について基礎知識と自治体が取り組むべきポイント
国内のインバウンド(訪日客)は大きく2つで考える
ムスリムインバウンド(訪日客)は遊びに来る観光ムスリムと、働き・学びに来る在日ムスリムの2つにわけて対応することが大事です。インバウンド(訪日客)は一過性ですが、外貨獲得効果もありますので、食事、礼拝、観光地、おみやげなどエリア全体で理解する必要があります。夏季・冬季オリンピックや各種ワールドカップ、また学会や国際会議などのマイス(MICE)をきっかけに変化する自治体もありますので、チャンスです。エリア全体で、セミナーやムスリム試食会、インフルエンサーなどの活用で活性化することが大事です。2つ目は就労者と留学生は大事にしてください。中長期に滞在し、日本のファンになる、また労働力といった観点でも重要です。観光分野だけでなく、就労、まちおこしなどを含めイスラム教の正しい理解が必要です。
ハラルと言わないムスリム対応から実践、ムスリムインバウンド(訪日客)対応は難しくない・やれることからコツコツが可能
ハラルと言わないムスリム対応が、とくに地方では必要です。日本はイスラム教の国ではないので完全なハラル対応、ハラル認証店舗は非常に困難です。そこを理解してスタートすれば、案外簡単に導入できる場合があります。まずはホテル・旅館、飲食・レストラン、施設・おみやげ事業者の偏見をなくすきっかけを作ることがとても大事です。国内のムスリムインバウンド(訪日客)対応は、今あるメニューの棚卸で対応可能です。原材料成分の由来を確認して、動物性不使用・畜肉フリー原材料で「ノーポーク・ノーアルコール」や「ノーアニマル・ノーアルコール」「ヴィーガン(ベジタリアン)」メニューとわかれば人気になります。今あるメニューを少し改良すれば良いです。ハラル料理ではなく、いまある和洋中のムスリム対応を目指しませんか?などをレクチャーするアドバイザー派遣制度は自治体のとても良い取り組みです。
図:ムスリムインバウンド(訪日客)対応の流れ
あとはハラルビジネス基礎研修2時間×1回、メニュー決め、ムスリムポリシー作り2時間×1回、HPやSNSなどでの発信方法を学ぶレクチャー2時間×1回の合計3日合計最低6時間でムスリム対応デビューができます!!アドバイザー派遣制度のプログラムでも、全国の地方自治体で実施しました。
食べたいものをムスリム対応に
イスラム教徒(ムスリム)にとって、食べたい食事は観光地にもあります。そして彼らが食べたい料理はB級グルメであり、ラーメンやうどん、焼肉・牛丼・天丼、から揚げ、ハンバーグ、コロッケなど単品が多いです。それをハラル対応(ムスリム対応)するかしないか?宣伝するかしないか?が自治体の勝負になります。どこの自治体でもハラルの名物は作ることができます。自治体には少し長い目で予算組みを検討していただけると良いと考えます。需要と供給が増えるイスラムマーケットに自治体、エリア単位で一度参入しませんか?
図:HAVOのすすめ
■まとめ
自治体は新しいハラルビジネス・外貨稼ぎを学ぶ、輸出とインバウンド(訪日客)の両輪
未来のマーケットに対応するため、インバウンド(訪日客:観光客・就労者)、アウトバウンド(輸出・進出)でセミナーなど定期的に行うことをおすすめします。そして、ハラルだけでなく、ベジタリアン(ビーガン)など食の多様性と、お祈りなど基本的な接遇全般を理解することが、非イスラム教の日本では大事です。輸出とインバウンド(訪日客)・人材は両輪で行うと相乗効果が出やすいです。
エリアビジョンが重要
輸出は東南アジア、中東アラブなどの対象エリアの深掘りのニッチトップ戦略でハラルをうまく活用します。インバウンド(訪日客)は全世界からの食の多様性を考え、ハラル、ベジタリアンなどトータルで学び、エリアの特徴ある食材やB級グルメにより、重点をハラルかビーガンなど特化するのが良さそうです。これから増えそうなインド、インドネシア、サウジアラビアなどのエリアは注目です。
地域と重要国の結びつけを強くすることが、結果的に輸出・進出、インバンド・外国人人材などトータルで連携できれば、地域活性化の切り札になるかもしれない。未来志向で、輸出やインバウンド(訪日客)に力点を置けるか?エリア内の官民協力体制つくりもポイントです。
イスラム諸国と経済姉妹都市まで目指すか!?
イスラム諸国の中には発展途上国もあるのが実態です。従来の姉妹都市型から、民間レベル、経済的なつながりを少しメインに出して、ローコストで姉妹都市が運営できる仕組みを作ることが重要です。そして、そのスタートエンジンをかけるところが、まさに地方自治体の役割です。
ハラル・ジャパン協会の活動内容
「イスラム諸国と日本・地域を結び双方の経済の活性化のために」を協会理念として13年活動してきました。具体的にはホテル・レストラン・お土産などのインバウンド(訪日客)関連事業者様にはハラル、イスラム教、ハラル認証等を学んで頂く、食品・健康食品などの製造事業者様には輸出・進出、インバウンド(訪日客)対応、外国人人材対応に活路を見出す支援などをしています。
セミナー・社員研修は業界最大数の実績です。またムスリム試食評価会、アドバイザー派遣、ムスリムモニターツアー、ファムツアー、インフルエンサー招聘などの事業も多数行い、自治体・外郭団体含め累計200以上の自治体との事業実績があります。※再委託も一部含む
事前にサンプルを送付した上でのオンラインバイヤー商談会も数多く実施し、輸出アシストを行っています。
インバウンド(訪日客)や輸出に対するハラルビジネスの基礎研修を実施します。インバウンド(訪日客)ではムスリム試食評価会、ムスリムモニターツアー、ムスリムポリシー、SNSインスタグラムの運用に関するアドバイスを提供します。また、輸出では商品開発、ムスリム試食評価会、バイヤー商談、展示会共同出展についての支援を行います。