事例紹介

新型コロナウィルスの影響で高まるEコマース利用需要とEC活用によるインバウンド回復期までの準備

 

 

                                                                                                         楽天株式会社 大倉エリ

 

 

1:はじめに

突然の「新型コロナウィルス」によるパンデミックにより、私たちの生活は様々なところで影響が及びました。

その中でも、世界中の人々の生活に大きく影響した一つが「外出制限」だったのではないでしょうか。

 

外出制限厳格レベルは、国によって大きく異なり、日本では自粛規制はあるものの、普段の生活に大きく影響を及ぼす程の厳格な制限はされなかったと思われます。欧州諸国では「外出禁止」など私権制限を伴うロックダウン(都市封鎖)という、厳格な制限がなされたところも多く、普段の生活に大きく支障が出ている地域も非常に多く見受けられました。外出を基本的には禁止し、違反者には罰金と言った厳格な罰則があるところもあり、対象地域の市民には生活に大きな影響が続いているところも多いようです。

 

 

2:新型コロナウィルスの影響で高まるEコマース利用需要

米国商務省の速報(11月19日付)によると、2020年第3四半期(7~9月)の米国の電子商取引(EC)売上高(季節調整値)は前年同期比36.7%増の2,095億ドルで、小売売上高に占めるECの比率は14.3%となりました。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による外出禁止令や小売店舗閉鎖の広がりから、消費者の購買行動がオンラインへ移行する急速な動きが見られたそうです。※0

 

このコロナ禍において、外出をせずに人との接触を無くして、生活必需品や食品をインターネットを介して購入し、自宅の玄関先まで届けてもらう「Eコマース(EC)」※1の利用者が世界的に底上げされていると言われています。※2

 

 

コロナの影響から今までECで買い物をしたことが無かった層もECで買い物をし始めており、EC利用者のうち約50~60%が新規と、ECの利用者の幅も大きく広がりを見せているようです。※3

 

 

世界でのEC売上規模第1位の国では、コロナによる「巣篭もり消費」により、ECの利用者は前年比率で約137%増になったと、中国最大ECサイトの「天猫」は、3月5日~8日、国際女性デーのイベント「クイーンフェスティバル(女王節)」の売上データから発表をしています。※4

中国でのコロナ禍の巣篭もり需要において、ECの売上として、人気を上げている商材は、日本と同様に自宅で利用できる日用品、生活用品、おもちゃ、ゲーム、食品(家庭内料理関連)、化粧品、家電、家具などがあげられます。

 

楽天株式会社2020年12月期第1四半期決算説明会資料より

 

 

海外でもコロナ禍における販売傾向としては、国ごとに大きな差はなく、同じような傾向が出ていると、各国のEC担当者からも聞いています。

 

世界でのEC売上規模第2位の米国は、プラス42% (8月の昨年同年同月比)の増加を記録しています。特に、売上を伸ばしていた商材としては、手指消毒剤、手袋、マスク、抗菌スプレーなどで通常の807%という数字を出しており、日本と異なり、普段からドラッグストアやスーパーなどで、予防衛生の商材は販売しているところが少なく、手に入りにくいことから、ECで購入する人が非常に多かったと考えられます。※5特に、このような商材を多く扱う中国から出店者の多い米国Amazonでは、中国での新型コロナウィルスの影響が落ち着き始めた頃に、米国における新型コロナウィルスの感染者数が増加し始めたことから、米国からの需要と中国からの供給が大きくマッチしたようにも見受けられます。国内でのEC利用はもちろんですが、海外から必要なものをECを介して購入する傾向もあるので、日本からの海外販売も視野に入れていくのは、チャンスを逃さない為にいまが絶好のチャンスと言えるようにも感じます。

ただ、コロナウイルスの影響により、国際郵便配送にも影響が大きく出ており、国を跨ぐ国際郵便物の一時引受停止国も多い為、越境で商品を販売するには、配送手段・配送日数などにも配慮をして販売を実施しないと、いざ販売後に「商品が送れない」という事態も想定されるので注意が必要です。※6

 

新型コロナウィルスの影響で、EC市場は、5年早まったと言われています。今回を機に初めてEC利用を始めたユーザーの中には、ECの利用による安心感と利便性に気づき、継続している人も多くいます。欧米を中心に2度目・3度目の外出制限(ロックダウン)などが始まるなど、状況が安定するには時間がかかると思われますので、ECの利用者数が急激に減ることは想定出来ない中で、EC販売を検討されている方は、早めに準備を進めることが必要です。

 

 

3:インバウンドビジネスでのEコマースの活用

一方、日本国内のインバウンド訪日客の減少も前年同月比 99.4%減※7と大きく、インバウンド向けの観光施策に大きな力を入れていた旅行業界や、各自治体も頭を悩ませているのも現状であると思います。

 

インバウンド需要が下火の中、楽天(株)と岐阜県では、新たなインバウンド推進事業として、過去に岐阜県に訪れた事がある外国人や、日本文化に興味のある外国人に向けて、ECと映像を活用した新たな取組みを来年から行う予定です。

 

“匠の技”と呼ばれる伝統産業など、訪日外国人に人気のある岐阜県の観光コンテンツの映像を、WEB上で配信することで、視聴者は「バーチャル訪日旅行」をしている気分を味わえます。

 

岐阜県体験映像例:Timeless Japan, Naturally an Adventure 3 - Timeless Traditions | Visit GIFU 4K

https://www.youtube.com/watch?v=xBgJbmp7klw

 

 

同時にその映像で登場する”匠の技”によって作られた商品が、米国とフランスのECサイトを介して購入出来る仕組みを構築することで、視聴者はダイナミックな臨場感溢れるバーチャル映像を楽しむと共に商品購入が可能となります。

 

自宅に居ながら岐阜県で「バーチャル旅行」をするとともに、商品を手に入れる事が出来る。「バーチャル×リアル」の体験を提供する予定です。2021年1月から米国とフランスのECサイトで映像配信と商品の販売開始を予定しています。

 

新型コロナウィルスの影響で、日本に旅行に行きたくても行けない現在、インターネットを介したバーチャル映像により、岐阜県への訪日意欲を高めて、ECを活用して“匠の技”の商品を楽しんでもらう。

そして、訪日が可能になれば、実際に岐阜県に足を運んでもらい、現地で”匠の技“を体験してもらう事を促すのが狙いです。

 

 

4:来年以降のインバウンド日客回復期に向けた帰国後の継続購入機会作り

過去にみずほ情報総研が行った調査によると※8、ECで海外のものを購入する方の約60%の人は、過去にその商品を日本で買った事がある、もしくは、友人からお土産としてもらった事がある、または何れかの形で現物を見た経験がある、飲食した事があるものが購入の選択肢に入る傾向にあります。

 

ということは、実際に見たことも、触ったことも、食べ物であれば飲食した事がないものを突然ECで購入することはなかなか考えられません。そうなると、今後また再びインバウンドが回復した際に、いかに訪日客が訪れて来た際に実際に多くの物に触れてもらい、体験してもらうかが、ポイントになります。気に入ったものであれば、インターネットで少し送料を払ってでも、また買いたい、また食べたいという循環的な仕組みが出来るからです。

 

過去に私自身もシンガポールで、日本の商材を楽天シンガポールのECサイトで販売する業務を実施していた際も、多くユーザーから問い合わせが来ていた商品は、「日本で以前購入して」や「友人から以前日本のお土産として貰って」という商品が非常に多かったです。特にアジア圏の人は訪日回数も多く、お土産を購入するのが大好きです。そのお土産というのは、非常に波及効果が高く、それを手にした全く無関心な層にまで興味関心を生む効果があります。

 

 

5:おわりに

単に海外に向けて、ECでの販売を始めるのではなく、各国のユーザーのニーズやライフスタイルを捉えて、マーケットインにプロダクトを発信、販売していくことが非常に大切です。

 

来年以降も訪日観光客が日本を多く訪れることが想定されるビックイベントが多く開催予定です。2021年開催予定の東京2020オリンピック・パラリンピック、2025年の大阪万博(日本国際博覧会協会)と、まだまだ「訪日客」が日本に戻ってくるビッグイベントはこれから続きます。新内閣においても訪日客回復と増加は施策の大きな柱にもなっています。

 

コロナ禍で大きな成長を遂げるEC市場は、コロナの影響でその成長スピードを加速させております。訪日観光客が回復してから、訪日後に日本で十分楽しんでもらう環境を作り、帰国後も継続的にECを活用し継続的に海外に向けて産品を販売していく仕組み作りを今から作り上げていく事をお勧め致します。

 

※本文章は2020年11月中旬時点に書かれたものになり、記事発行のタイミングでコロナウィルス対策や状況が内容と異なる可能性がございます。

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Reference Data Source:

※0:JETROビジネス短信「2020年の米EC売上高、新型コロナ感染拡大で急増」

https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/11/b0be5f93c399d37c.html

※1:Eコマース:電子商取引(でんししょうとりひき)あるいはeコマース(イーコマース、英: e-commerceあるいはelectronic commerce 、略称:EC)とは、コンピュータネットワーク上での電子的な情報通信によって商品やサービスを売買したり分配したりすること。「イートレード」とも言い、消費者側からは「ネットショッピング」とも呼ばれている。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

※2:

  • Adobe Digital Economy Index / Adobe Analytics | August 2020

https://www.adobe.com/content/dam/www/us/en/experience-cloud/digital-insights/pdfs/adobe_analytics-digital-economy-index-2020.pdf

  • E-COMMERCE IN THE TIMESOF COVID-19© OECD 2020

https://read.oecd-ilibrary.org/view/?ref=137_137212-t0fjgnerdb&title=E-commerce-in-the-time-of-COVID-19

※3:STASISTA:Share of consumers in the United States have bought something online for the first time over the past few weeks due to social distancing during the coronavirus pandemic as of March 26, 2020, by age group

https://www.statista.com/statistics/1108530/first-time-online-shopping-during-coronavirus-usa-age/

※4:EC Data Lab : https://ecdatalab.nint.jp/2020/04/06/tmall_queensfes/

※5:Adobe Digital Economy Index / Adobe Analytics | August 2020

https://www.adobe.com/content/dam/www/us/en/experience-cloud/digital-insights/pdfs/adobe_analytics-digital-economy-index-2020.pdf

※6:国際郵便物の差出可否早見表(2020年11月11日現在)

https://www.post.japanpost.jp/int/information/overview.html

※7:日本政府観光局「訪日外客統計の集計・発表(2020 年 9 月推計値)」

※8:訪日外国人の再購買に関する調査―インバウンド観光を起点とした外国人顧客向けマーケティング施策の検討―

https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2016/inbound0803.html

 

 

 

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