事例紹介

【岡山県瀬戸内市】日本刀の聖地“長船”を世界に発信

 岡山県瀬戸内市は、名刀“備前長船”で知られる日本刀の産地でしたが、国内での知名度はあまり高くありませんでした。徐々に外国人観光客が増えていることに着目し、日本刀の聖地“長船”として、インバウンドを中心にしたプロモーションに力を入れ、自治体国際化協会の制度も活用しながら国内外での知名度向上につなげる取り組みを進めているところです。

 

日本刀の古式鍛錬

■備前長船刀剣博物館にフランス人観光客が急増!?

 備前国は、平安時代から日本刀の産地として長い歴史と伝統を重ね、数多くの名刀を生み出してきました。質・量ともに日本一を誇る備前刀の中心の産地が長船の地であり、“日本刀の聖地”と呼ばれています。今でも刀匠や刀に関わる職方が日本刀をこの地で制作しています。日本刀の聖地に建つ「備前おさふね刀剣の里」には、全国的にも珍しい刀剣専門の博物館「備前長船刀剣博物館」や鍛刀場、工房などがあります。鍛刀場や工房では、日本刀に関わる刀匠や職方の伝統工芸技術を見るだけではなく、直接職方と話をすることもできます。

 この「備前長船刀剣博物館」では、平成23年度よりアニメとコラボした特別展を開催しており、日本刀ファンの拡大には貢献していたものの、あくまで国内でのプロモーションが中心となっていました。平成24年度の「エヴァンゲリヲンと日本刀展」は非常に話題となり、海外での展示も実施し、ご存じの方も多いと思います。

 ビジット・ジャパン・キャンペーンにより訪日観光客数が増加し始めた平成26年度の刀剣博物館の外国人観光客数は年間約600人でしたが、翌年には1,500人を超え、平成28年度より本格的にインバウンド事業を実施することになりました。岡山県においては東アジアからの観光客が多いのに対し、瀬戸内市では半数がフランス人であり、約90%が欧米豪という特徴がありました。

 こうした現状を踏まえ、瀬戸内市としては一層の観光誘客を推進するため、メインターゲットを欧米とした、日本刀によるインバウンド事業を実施することになりました。

 

■プロモーションだけでなく受入体制の整備も必要

 平成28年度に実施したインバウンド事業としては、知名度を高めるため、WEB、フリーペーパー等の各種メディアへの掲載によるプロモーションと並行して、留学生によるモニターツアーを実施することで課題を可視化し、受入体制の整備につなげました。刀剣博物館までのマップの作成、館内の動画や展示内容の多言語化を進め、増加する外国人観光客の満足度の向上を目指しました。

 日本刀制作工程を紹介した動画については、在米日本大使館広報文化センターのFBに掲載していただけたことで、2千万再生を超え、世界中に拡散しました。しかしながら、ツアーでの立ち寄りやメディアの取材、視察が増えてくるものの、それらのスムーズな対応が難しい状況でした。

 そこで、自治体国際化協会のJETプログラムを活用し、平成29年8月より国際交流員を採用したことで、欧米を中心とした来館者に対ししっかりとした対応ができるようになりました。団体ツアーやマスコミの取材などで、国際交流員がガイドとして活躍しています。さらに、国際交流員と刀匠による、欧州(イギリス、イタリア、スペイン)でのPR活動も実施することができました。内容としては、日本文化を紹介するイベントに参加し、国際交流員が自ら作成したパワーポイントの資料により、日本刀の歴史、文化、日本刀の聖地長船について、現地の言葉を通じて説明しました。また、刀匠が日本刀への思いを伝える際は、通訳としての役割も果たしています。

 

刀剣博物館でガイドする国際交流員

■インバウンドを一過性の観光で終わらせないために

 瀬戸内市へ世界中から刀剣ファンが多く訪れるようになってきたものの、滞在時間も短く、観光消費も多くない状況でした。また、日本刀の職人も減ってきており、現代刀を購入する外国人観光客をいかに増やすかが今後の課題として見えてきました。

 そこで、平成30年度では自治体国際化協会のプロモーションアドバイザー事業を活用し、備前刀を海外へ販売するためのブランディング戦略や効果的なPR方法など、具体的なアドバイスをいただくことができました。これらのアドバイスを活かしながら、現代アートに関心のある層、富裕層をターゲットとしてプロモーションを進め、日本刀職人の技術の継承につなげる効果のある観光を進めていきたいと考えています。

 

プロモーションアドバイザーからアドバイスを受ける国際交流員

 今までに作られた日本刀の約半分が備前刀であり、その中心地に建つ備前長船刀剣博物館には、国宝の日本刀が一口(ふり)もありません。上杉謙信の愛刀として知られている国宝「山鳥毛(やまとりげ・さんちょうもう)」の購入を目指し、現在「山鳥毛里帰りプロジェクト」として、クラウドファンディングによる資金調達を進めています。このプロジェクトは、刀鍛冶の育成や日本刀づくりの伝統技術の継承など、シビックプライドにつながる事業であり、まさに一過性の観光で終わらせない取り組みでもあります。

 瀬戸内市のインバウンドの取り組みは、単に観光客数を増やすというところから、国際交流、観光消費額の向上、伝統技術の継承、シビックプライドにまでつながってきています。今後もこれらの取り組みを継続していくことで、日本刀の聖地“長船”が世界中の方々に知ってもらえるよう、さらなるプロモーションを進めていきたいと思います。

 

山鳥毛里帰りプロジェクトをPRする瀬戸内市長

(瀬戸内市商工観光課 小杉慎介)

 

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