奈良県は観光消費が低いという課題が前々から指摘されている。そこで、期待されるのが奈良市内中心部に新設されるホテルや、県の中部にある桜井市の“YAMATO”に関する取り組みだ。また、古都としてのブランディングを高めるため、興福寺の国宝をパリで披露することも予定している。現状を取材した。
ポイント:
・桜井市などの奈良県中部への回遊で奈良県全体を盛り上げる
・「ジャポニスム2018」への出展で奈良のブランディングを図る
■宿泊客の獲得を目指して
観光庁が発表した「訪日外国人消費動向調査(2016年)」で、外国人観光客が滞在先でどれだけのお金を使うかを示す「旅行消費単価」を見ると、奈良県は平均4,527円で、なんと全国最下位。一方、2016年に、奈良市を訪れた外国人観光客は前年比61.6%増の157万6千人で決して少なくはない。
外国人観光客から高い関心が寄せられる半面、なかなか観光消費が伸びないのだ。
その原因は、ほとんどの外国人観光客は、東大寺や興福寺のある奈良公園のみを観光して京都や大阪の宿に日帰りしてしまうことにある。宿泊施設が少なかったこともあり、宿代や夕食代等の観光消費が、奈良県に落ちない構造になってしまっていた。
宿泊施設に関しては、2017年にJR奈良駅周辺に3棟のホテルが相次いで新設され、2020年までに6つの宿泊施設が新規開業する予定で、外資系高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」や、緑豊かな庭園に囲まれた高級温泉旅館の建設も計画されるなど改善が図られている。
しかし、それだけでは滞在の必然性に乏しい。県の中央部など、奈良市以外へ回遊してもらえれば、宿泊する動機づけになる。
■奈良県中部の「YAMATO」を知ってもらい、誘客につなげたい
奈良県中央部は、泊瀬朝倉(はせあさくら)・磐余(いわれ)・飛鳥(あすか)・藤原京(ふじわらきょう)と古代の都が置かれ、ヤマト王権の起源とされている場所だ。
さらに1200年以上の歴史を誇る、長谷寺・室生寺・岡寺・安倍文殊院が点在し、多くの国宝や重要文化財を持つ。
県内中部にある桜井市では、3世紀頃の古墳時代に日本を治めた「ヤマト王権」の中心地が桜井市周辺の地域にあったと言われていることから、桜井市を含む8つの市町村にまたがるこのエリアを“YAMATO”としてインバウンド向けに発信している。観光まちづくり課の担当者によれば“YAMATO”という言葉には日本そのものを意味する側面もあり、外国人の方への訴求効果が高いとのことだ。
日本人が外国を旅行する際にそうであるように、外国人の方も日本を市町村単位で考えるのではなく、複数市町村にまたがるエリアで見ることが多いため、桜井市単独ではなく、ヤマト王権というストーリーを背景にした広域的なPRを行うことが効果的なのだ。
桜井市単独によるインバウンドの取り組みは2015年から始まっている。「地方創生の取り組みともあいまってインバウンド対応が始まった」と担当者は言う。また、前述した通り、奈良県への訪日外国人観光客の大半は奈良県北部で完結しており、奈良県中部以南は認識すらされていないという状況にある。これを打破するためにも、インバウンドの強化がその対策の一つとして挙がったのだ。
桜井市はまず、市内を旅行中の日本人及び外国人観光客を対象に、ヒアリングを実施した。桜井市の印象や外国人観光客のニーズを聞き出すためだ。また、2016年には大阪府のゲストハウスに宿泊している外国人を桜井市に招き、引き続きニーズ調査を実施した。そこで分かってきたことは、桜井市は知られてないが、各観光施設や寺社、桜井市自体の雰囲気には魅力を感じる方が多いことだ。
アンケート結果を踏まえて、桜井という市の名前を押し出すよりも“YAMATO”という「日本の始まり」を表す言葉を押し出して、市周辺を広域的に紹介する方針になった。2016年に、桜井市が外国人観光客向けに作成した観光ガイドブックは、タイトルを“YAMATO UNKNOWN ORIGIN”とし、天理市、宇陀市など周辺の市町村にある観光施設、歴史文化、ハイキングといったモデルコースや宿泊施設・飲食店に関する情報、マップなどを掲載した。
「桜井市のインバウンドの方針は、まず知っていただくことに主眼を置いている」と担当者は言う。
2017年の9月に東京・台場で開催されたインバウンド旅行商談会「トラベルマート」では、桜井市としてではなく、“YAMATO”として出展した。アンケート結果通り、欧米を中心とした旅行会社ほとんど桜井市が知られていなかったが、魅力を説明すると、歴史の面影や生活が垣間見られるという点に好意的な反応が寄せられたという。あわせて、欧米の旅行者のニーズとして、観光地よりも素朴な日常の田舎を好む傾向があることも知った。まさに日本の原風景も残っている桜井市および周辺エリアはうってつけだと、アドバイスをもらったそうだ。
「今後の目標は、海外の旅行会社やツーリストに具体的なアクションを取ってもらえるよう、YAMATOの魅力だけでなくモデルコースなどの旅行プランを含む提案を広く情報発信することだ」と市の担当者は意気込む。
■日本のはじまり・奈良をパリで知ってもらう!
これらの動きに合わせて、奈良県では、古都としてのブランディングを海外向けに展開している。その一つとして、今年度パリで開催されるイベントへの出展が予定されている。
「ジャポニスム 2018:響きあう魂」(事務局:独立行政法人国際交流基金)というタイトルで、日仏友好160周年にあたる2018年、パリ市内を中心に100近くの会場で開催される。日本の文化芸術を7月から約8ヶ月間にわたって幅広く紹介する大規模なイベントだ。
奈良県には、ユーラシア大陸における東西文化交流を背景に持つ仏像が受け継がれており、その中から、興福寺の国宝、「木造金剛力士立像(阿形・吽形)」が出品される。2019年1月23日~2019年3月18日までパリにあるギメ東洋美術館で展示される予定だ。今回のイベントでは、この2体を含む仏像をパリに紹介し、パリの人々に、普段は奈良県を訪れなければ味わえない仏像の美しさを感じてもらう予定だ。
(左)国宝 木造金剛力士立像(吽形) 写真提供:興福寺
(中央)重要文化財 木造地蔵菩薩立像 写真提供:興福寺、美術院
(右)国宝 木造金剛力士立像(阿形) 写真提供:興福寺
奈良県としては、「ジャポニスム2018」において、海外で奈良県への関心を深めてもらい、奈良県への来訪を促す絶好の機会と捉えている。積極的に参画することで歴史文化資源を有する「日本のはじまり」奈良の奥深い魅力が発信できると県の担当者は抱負を語る。
奈良市内のホテル新設や県中部エリアの魅力発信、「ジャポニスム2018」による奈良のブランディングにより、奈良県内への宿泊者数や観光消費がどこまで押し上げられるのか楽しみだ。相乗効果を期待したい。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/