事例紹介

高松空港のLCC便数拡大と瀬戸内国際芸術祭で盛り上がる香川県に注目

地方インバウンドの成功エリアとして、よく香川県の名前が挙がっている。2016年の対前年での伸び率が69.5%で県別1位となった。国際便が増えたのが大きいが、そもそも香川県に行きたいという海外需要が無ければ増やせない。そのニーズを後押ししたのが、瀬戸内国際芸術祭であった。

瀬戸内芸術祭のジャウメ・プレンサの作品「男木島の魂」Photo:Osamu Nakamura

瀬戸内芸術祭のジャウメ・プレンサの作品「男木島の魂」Photo:Osamu Nakamura

 

ポイント:

・海外からの定期便の受け入れを進め、四国の玄関口に
・瀬戸内国際芸術祭の海外での認知度向上が、インバウンドにつながる
・瀬戸内の島々の魅力を伝えた中国の書籍が、人気を後押しした


 

■瀬戸内国際芸術祭の知名度向上によって、香川人気が高まる!

ここ数年、香川県の県外からの観光入込客数は増加している。観光庁による宿泊旅行統計調査(2016年)をみると、とりわけ同年の外国人延べ宿泊者数は35万8,360人で前年比70.3%増と大幅に伸びている。直島等の離島も会場となる「瀬戸内国際芸術祭2016」開催に合せて訪れる旅行者が増加したと推測されており、香川県瀬戸内国際芸術祭推進課の関守侑希氏によると「瀬戸内国際芸術祭2016の総来場者数は約104万人で、外国からの来場者の割合は13.4%。前回開催の13年と比較して大きく伸びている(2013年は、総来場者約107万人の2.6%が外国人)。芸術祭が回を重ねるごとに海外での知名度を向上させたことが考えられる」と語る。

瀬戸内国際芸術祭2016における外国人来場者数は、多い順に台湾(37.2%)、香港(13.8%)、中国(11.4%)、フランス(6.2%)、アメリカ(4.6%)となっている。この国籍別来場者数は、以下の高松空港の国際路線とほぼ重なっている。
香川県観光振興課の池浦健太郎氏も「香川県の訪日外国人延べ宿泊者数をみると、国際定期路線の就航先である台湾、中国、香港、韓国からの旅行者の割合が高く、高松空港の国際定期路線の拡充が大きな要因となっていると考えられる」という。

高松空港への国際路線(2017年現在)は以下のとおり
ソウル線(1992年4月就航) エアソウル 週5便
上海線(2011年7月就航) 春秋航空 週5便
台北線(2013年3月就航) チャイナエアライン 週6便
香港線(2016年7月就航) 香港エクスプレス航空 週4便

LCCなど就航便が増えている高松空港

LCCなど就航便が増えている高松空港

海外メディアの取材誘致を目的に、日本外国特派員協会(FCCJ)において記者会見を行い、同芸術祭のコンセプトを伝えた。その結果、アメリカやフランスからのメディア招聘事業が実現し、それによって効果を上げてきている。

ところで、外国人観光客の伸びは、同芸術祭の開催されていない2017年でも見られた。2017年の香川県の外国人延べ宿泊者数の推移をみると、昨年同芸術祭が開催された8月こそ前年比でマイナスになっているものの、それ以外の月は増加しているのだ。これは、何を意味するのだろうか。
瀬戸内国際芸術祭の認知度向上が、香川県のインバウンド市場に大きく寄与していると考えられ、ある書籍の影響もるだろう。

■瀬戸内の魅力を中華圏に伝えた一冊の本がある!

瀬戸内国際芸術祭の開催は、地元の宿泊事業者にも影響を与えている。とりわけ海外の若い旅行者を香川県に呼び込むことに大きく貢献しており、高松市内には若者向けのリーズナブルな宿泊施設であるゲストハウスが急増している(2017年12月現在、高松市内には13軒のゲストハウスがある)。

2016年8月に高松市内にゲストハウス 瓦町ドミトリーを開業した山本梨沙氏もそのひとり。わずか10室のユニークなカプセルホテル風宿泊施設だが、「宿泊客の4割が国内客で、同じく4割がアジア客、残り2割が欧米客。圧倒的に若い世代が多い。台湾人をはじめとする中国語圏の若い世代が香川県を訪れるようになった背景に、ひとりの台湾人作家による瀬戸内国際芸術祭を紹介した本の影響があった」と語る。

それは『小島旅行』(林凱洛著)という本で、同芸術祭の主な舞台である香川県の直島を中心とした旅行体験記だ。エッセイと旅行ガイドが一緒になった内容で、同芸術祭についても言及している。「この本が2013年秋に出版され、台湾で話題となった。香港でも同時発売されたが、その2年後に中国でも簡体字版として発売されたことで、中国語圏での香川県の知名度が一気に高まった」と山本氏は言う。

中華圏で人気となった書籍「小島旅行」の表紙

中華圏で人気となった書籍「小島旅行」の表紙

台湾や香港の若い世代の旅行スタイルはとても気軽で自由だ。国内のゲストハウス事情に詳しく、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)の著書もある松鳥むう氏によると「私が定宿にしている『ゲストハウスちょっとこま』は2013年の瀬戸内国際芸術祭の年に開業した。ここは高松で最初にできたゲストハウスだが、2014年以降、ゲストハウスが一気に増えた」と話す。「この前私が『ゲストハウスちょっとこま』に泊ったときも、香港から出張で神戸に来ている日本語が堪能な20代女子がいて、自由時間が1日あったので泊りに来たと話していた。翌朝、彼女はアートの島(直島)に行くと言って宿を出ていった」そうだ(本人談)。

ゲストハウス「ちょっとこま」に泊まる外国人観光客

ゲストハウス「ちょっとこま」に泊まる外国人観光客

 

■高松市では新しいターゲットに向けたサービスが始まっていた!

こうした高松市における若い外国人旅行者の増加をふまえ、新しいトレンドも生まれている。2017年3月30日、JR高松駅前に世界最大手の自転車メーカーである台湾のジャイアント社がレンタサイクルサービスを開始した。

同社のブランドストアであるジャイアントストアでは、全国7都市(仙台、前橋、びわ湖守山、松江、尾道、今治、高松)でレンタサイクルサービスを展開している。同社の提供するのはスポーツ自転車がメインで、しまなみ海道のゲートウェイとなる尾道と今治には多くの自転車が設置されており、夏には全てが貸し出されてしまうほどの人気だという。

レンタルサイクルを利用して瀬戸内海沿いをまわれる

レンタルサイクルを利用して瀬戸内海沿いをまわれる

瀬戸内国際芸術祭の認知度向上と、それを広めた台湾人作家によるガイド本の影響で知名度が高まったことがきっかけとなり、中国語圏をはじめとした多くの若い外国人観光客が香川県を訪れるようになっている。

 

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中国・四国

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