事例紹介

【高山市】アフターコロナを見据えた新たなインバウンドプロモーション戦略 ~ 多文化共生の視点とともに ~

 訪日旅行者を惹きつける岐阜県高山市。平成31年・令和元年には、過去最高の61万2千人もの外国人旅行者が訪れました。世界中が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受ける中、インバウンドに先進的に取り組んできた同市では、どのように考え、取り組まれているのでしょうか。今回、高山市海外戦略課海外戦略係長の大上さんにお話を伺いました。

 

 

これまでの高山市の主な取り組み 

-市の強み、外国人旅行者を惹きつけるその魅力とは?

 

 高山市は、昭和61年にいち早く国際観光都市宣言をし、昨今の人口減少と少子高齢化、市内経済及び国内市場の縮小という背景からもインバウンドに精力的に取り組んできました。平成23年には海外戦略専門部署を立ち上げ、海外を含めた観光等関連機関へ若手人材を継続的に派遣し、情報や経験を蓄積しながら市としてインバウンドの動きに敏速に対応できる体制を整えています。また、行政と事業者が官民一体となって、30年以上にわたって観光施策に取り組んできたという歴史があります。

 具体的な取り組みとしては、外国語HPやマップの11言語での展開、まちなかWIFI環境整備をとおしたマーケティングや旅行者への緊急情報の発信、商店街単独で設置する全国初の免税手続一括カウンターの設置、杉原千畝ルートを始めとした広域連携の推進など、全国でも先駆けてインバウンド推進事業を行ってきました。

 高山市への訪日外国人旅行者数については、全国の国別割合と比較すると、欧米豪地域からの旅行者の割合が多いのが特徴です。旅行者には料理体験や里山体験など、高山の“ありのまま”の暮らしに触れていただくことを大切にしています。

 

   【高山市の観光客入込者数の推移】      

   【高山市の外国人宿泊者数】

 

 

 また、トリップアドバイザーの「外国人に人気の日本のレストランランキング」では、高山市内の飲食店が常に上位ランクインしている特徴があります。言語が通じなくても一生懸命に観光客をお迎えする高山市民のおもてなしの心が、口コミで更なる広がりを見せているようです。コメント帳を置いたり、写真を撮影して店に貼ったりと、お店の方は旅行者との交流によるつながりを大切にし、誇りとやりがいを感じていらっしゃいます。店舗の売上につながるということだけではなく、コミュニケーション自体に楽しさを感じており、まち全体が旅行者に思い出深い滞在をしていただきたいという姿勢があるように思います。

 

 

              大切にするのは、高山の”ありのまま”を体験してもらうこと    

                  

 

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~ 新型コロナウイルス感染拡大の影響 ~

 外国人旅行者は、令和2年1月頃まで順調に伸びていましたが、その後、新型コロナウイルスの影響により、その数は激減しました。市は素早く対応に動き出し、令和2年4月に改定された「高山市海外戦略」に、こうした緊急事態に備えたウイルス感染症への対応方針を盛り込みましたが、翌月5月には、外国人旅行者数は前年比ゼロにまで陥り、賑やかだった古い町並などの観光地は静まり返ったそうです。
 その後、GO TOキャンペーンなどもあり、一時は観光客は戻って来ましたが、令和3年1月下旬時点では、岐阜県も含めた国の緊急事態宣言が発令されたこともあり、観光客はほとんどいない状況になっているそうです。

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インバウンドの回復を見据えた新しい海外戦略プロモーションの策定へ

 -インバウンド推進施策への考え方に変化はあったのでしょうか?

 

 物理的に制限はあり、来てもらうことが難しい現状ではありますが、高山のインバウンド戦略としては、これまでと同様に取り組んでいくという方針に変わりありません。コロナの影響を受ける中、職員一体となって、この危機的状況をどう乗り切るかの検討を重ねた末、インバウンド観光需要の回復を見据え、市場に合わせた段階的なプロモーション戦略を新たに組み立てることにしました。

 

 【新たなインバウンド戦略】

 

 現在は、ステップ1のDreaming(ドリーミング)の段階です。誰もが先が読めない状況の中であるこの間に、いつインバウンドが回復しても他の観光地に出遅れることなく高山市への来訪を想起させるため、また、デスティネーションとして選んでもらうための発信を始めました。公式の多言語HPは、これまでは高山市に来訪する際の情報を得るためのページでしたが、3言語の特設ページ(※)を新規に作成し、魅力的な写真や動画、公式Facebookで紹介している市内事業者さんからのメッセージ「shining people」シリーズなどを掲載しています。また、オンライン広告を掲出し、特設ページへと多言語HPへの相互の誘導を図っています。

 ※特設ページ(3言語
   語中国語タイ語 

 

 

「Shining People」シリーズ

 

 「Shining People」シリーズは、職員のアイデアから生まれたもので、職員自身が飲食店・宿泊施設などの観光事業者等に直接、足を運んで取材をし、観光ガイドでもある市内在住外国人の協力を得て、翻訳、発信を行っています。モノや風景だけでなく、普段、表には出てこない職人の方やお店で働いている方などを敢えて取り上げ、人とのつながりを感じてもらえるよう工夫を凝らして掲載しています。記事を見た方から「高山に行ったことがある!」「コロナが収束したらまた行きたい!」という反響を多くいただいています。

 今後、入国制限の解除状況により、具体的な行動段階へとステップを進めていくことになりますが、ステップ3のVisitingの段階で、訪問者にがっかりさせない、安心してもらえる環境が整えられているように、現段階から取り組むことが必要だと思っています。

 

 

最後に 

- インバウンドに欠かせない“多文化共生”の醸成  

 

 本市では、海外戦略は人を呼び込み経済を活性化させていくことがメインではありますが、異なる文化、お互いの違いを認識し、良さを発見しながら共存している多文化共生への意識がベースにあることが大切であると考えています。国際交流を通して、市民の郷土の良さの再発見や郷土愛の醸成に繋がることに加え、コロナウイルス感染症の影響により外国人旅行者への抵抗感も出てくる可能性も視野に入れ、その抵抗感の払しょくにも多文化共生の視点が必要になると考えます。

 今後は、柔軟な意識を持つ若い世代をはじめとした市民の意識醸成に、より力を入れて取り組んでいく予定です。市民の多文化共生への意識を高めることにより、旅行者が滞在に満足いただくことはもちろんのこと、受け入れる市民や在住外国人が気持ちよく生活を営むことができるまちづくりを進めていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自治体協力交流研修員(ペルー出身)との市民のペルー料理教室(左)やミサンガ作りワークショップ(右)の様子

 

 


高山市を訪問中、飲食店の方をはじめ、地元の皆さんが温かく声をかけてくださり、その場にいる時間が自然と楽しく思えたことが、行く先々でありました。一時的な旅行者を温かく受け入れてくれる、そのことを何よりも楽しく感じている地元の方がいるからこそ、そのような時間を持てたのだと思います。「高山市海外戦略」においても、取り組みの成果指標は、“旅行者の満足度”ではなく、“市民の満足度”。インバウンドにまち全体として取り組む際の大切な視点が示されている気がしました。 

 

    (経済交流課 岩田)

 

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