事例紹介

長引くコロナ影響下での国際観光と新年のインバウンド展望

 

 

 

 

 

 

 

 

株式会社インバウンドにっぽん

代表取締役 小野 秀一郎 氏

 

 

●海外渡航が途絶えた昨春からビジネスや留学生の訪日で緩やかに回復

昨年2月に発生した新型コロナウィルスの世界的な蔓延による影響で、3月には日本と外国との往来が完全に遮断された。夏頃から徐々に香港やタイなどアジア諸国からのビジネス目的での渡航が再開となった。9月の訪日外客数は13,700人で、11月下旬に発表の10月推計値は、前年同月比98.9%減となるも2万7400人で、7カ月ぶりに2万人を超え少しずつ回復の兆しが見えてきた。今冬はコロナ陽性者数が増えることが予想される為、前月比で順調に増加するかは不確実だが、オリンピック・パラリンピック開催に向けて一般観光客を受け入れる今年春頃には、次第に回復していくと予想される。

 

 

●オリンピック・パラリンピックに向けての対コロナ緩和策

東京オリンピック・パラリンピックで海外からの観客を受け入れる際、政府は新型コロナウイルス対策で通常求めている入国後14日間の待機措置を免除する緩和策の検討をしている。東京都と大会組織委員会などが提案し、具体的な措置は国内外の感染状況を踏まえて春までに決定する。待機措置の免除は昨年10月から、国際大会などから帰国した日本人の強化指定選手らを対象に導入されている。

水際対策も強化・拡大され続けており、昨年10月には国際空港でのコロナウィルスの検査能力を成田、羽田、関西国際の各空港で計1万件程度から新千歳や中部、福岡などの地方空港も含めて全国で1日2万人へ倍増した。

 

 

●世界が注目「ハワイ州観光モデル」の行方

長引くコロナ禍で日本の観光はどのようにして外国人観光客を受け入れていくべきだろうか?筆者は日本人に人気のリゾート地、米国ハワイ州の方式が参考になると考えている。11月初旬から羽田―ハワイ便が再就航した。ハワイ州モデルとは、日本から出国前に国内の指定医療機関で72時間以内に陰性証明が発行されれば、ハワイへ上陸後に14日間の自主隔離が免除されるというもの。オリンピック・パラリンピック開催に向けて、緩和型の入国要件が策定される予定だが、このハワイ州モデルは実用的であるので日本やアジアでも広まるのではないかと見ている。ただし、陰性証明を持っているからと言って以前と同様にマスク無しで自由に動き回れるかというと別問題で、日本は国内で醸成されてきた「日本での感染対策のスタンダード」を訪日客にも理解してもらい、協力を促す必要がある。すなわち、観光地に行けばマスク着用、手指の消毒、検温の3点を実施していることを事前に理解しておいてもらうことが大切である。(図1参照)

 

 

 

●海外からの需要は旺盛で温泉旅館などへ半年先の予約が発生

宿泊施設はGo To トラベルキャンペーンや県民割引など支援策に頼らざるを得ない状況に陥っていることは周知の事実である。しかし外国からの予約・問合せが全く入っていないわけではない。ある宿泊予約サイトの情報によると、昨夏の時点で冬の時期の長野のある温泉地全体への予約が、昨年比で80%まで回復したという。また欧米客で毎年賑わっていたスキー場近くのホテルでもリピーターの1週間滞在の予約などが1月・2月に入った。結局、渡航制限の延長やフライトの休止が続き、それらの予約はキャンセル・変更となってしまったが、日本の観光地への需要は非常に高いことが覗える。本寄稿を綴っている時点でも(12月初旬)、オリンピック・パラリンピック開催前後の京都や伊勢の旅館への問合せがヨーロッパから入ってきている。コロナさえ終息に向かいフライトが復活すれば、必ず訪日旅行をしたいという大きな市場が存在していることは間違いない。

 

 

●トラベルバブルの成功が観光復活の鍵

経済的に結びつきが強い地域・都市間から人の移動を復活させる動きが世界各地で見られるようになった。トラベルバブルは2国間で大幅に入国要件を緩和したうえで感染防止策を講じて、海外旅行を促す取り組み。香港とシンガポールはコロナの感染状況が改善され次第すぐに一般観光客も対象にした渡航を再開させる見込みである。日本も昨年12月から台湾とのトラベルバブルの実現への調整を続けている。アジア諸国の経済は従来よりモノの移動だけでなく人の移動が重要な役割を果たしていた為、こうした動きがアジア諸国間で安定的に実施されれば、一般観光客が行き交い観光だけでなく経済活性への足掛かりとなるだろう。

 

 

●旅館・ホテル・リゾート・グランピング・民泊の展望

先述のように、オリンピックの時期の地方周遊の予約も入ってきている。具体的には京都、長野県の温泉、伊勢など外国人旅行者が元々多かった人気観光地である。東京や大阪の需要もあるが、訪日旅行の際にも密を避けるためか地方観光地への需要が目立つ。クラスターや濃厚接触者の発生を防ぐために、既に国内客に対する衛生対策を万全に行っている施設が多い。アクリル板や衛生対策グッズ、消毒の手間など追加コストも掛かっており、大変な苦労と気づかいをしている様子である。温泉旅館においてはやはり温泉入浴と発酵食を中心とした和食により、健康増進による免疫力向上を全面的にアピールして頂きたい。都市部のシティホテルはGo To トラベルでの滞在型の提案により国内客をうまく取り込んでいる施設が多い。インバウンドの回復期にあたっては施設内での安全な過ごし方は確保できているが、ちょっとした散策を伴う周辺観光や次の宿泊地への移動の際の手配をスムーズに提案ができるかどうかが差別化要素となるだろう。リゾートホテルも同様で、客室内の過ごし方よりも周辺観光地の観光施設などと連携をして安全に移動ができる環境づくりがキーポイントだ。例えばレンタカーだけでなく、タクシープラン・大型の貸切タクシーなどの手配をスムーズに行えるようにするほか、プランとして事前にネット上で情報発信をするなど工夫をする必要がある。現在、最も苦境に立たされているのが、都市部にある宿泊特化型のビジネスホテルである。特に大都市圏のビジネス系のホテルは、テレワークの推進や出張の自粛が定着化し、国内需要も激減している。一方、昨年夏あたりから密を避ける宿泊スタイルとして日本人客の間でグランピングの人気が急上昇している。屋外で滞在するアウトドア感覚を得られる宿泊体験として注目を浴び、宿泊形態の多様化の1つと言えるが気温や天候に左右される要素が強いのでコロナ後も定着化するかどうかはサービスの質とリピーターの確保によるだろう。民泊分野では、ビジネスの訪日客からも需要が波及するのではないだろうか。ホテルではロビーやエレベーターなど共有エリアを行き来するが、民泊であればプライベートのスペースを容易に確保できる為、訴求の仕方次第では密を避けて訪日旅行をしたいという需要にマッチできる可能性がある。どの宿泊形態でも、マーケティング面では訪日目的により求めるものが異なる可能性がある。ビジネス客は移動範囲が狭い為、施設そのものよりも滞在地周辺の安全情報が気になる一方で、観光客は密を避けた移動への関心が高まることが予想される。(図2参照)

 

 

 

●日本の観光ブランド、安心・安全・快適を再び世界へ

2020年観光庁発表の訪日外国人の消費動向調査の結果によると、出発前に役に立った旅行情報源では、SNSが25%、個人のブログが24%、自国の親族・知人が20%で、日本在住の知人・親族が19%となっている。宿泊施設に限らず、観光業者全般に言えることは、この4番目に上がっている日本在住の外国人によるクチコミをうまく活用することである。コロナ禍で訪日旅行者が少ない現状では、日本在住の外国人のクチコミの大切さを認識し、彼らに観光を楽しんでもらいSNSやブログで情報発信をしてもらうよう、体系的に対策を実施することでコロナ後に順調な復活へ繋げてもらいたい。日本の観光ブランドは、安心、安全、快適の3つに基づいている。コロナ禍においてもこの3つは重要視されるが、官民一体となって三密を避けた旅行行動を推進することにより、益々日本の観光が価値あるものとなるだろう。現在、隔離条件付きでのアジア諸国からのビジネス、留学、研修の訪日客が少しずつ復活している。政府は今春から緩和条件のもとでの一般観光客の受入れ再開を計画している。オリンピック・パラリンピック開催に向け訪日客が増えればインバウンド復調へ大きな望みとなる。春からの取り組み次第で、アジアのほか夏以降にアメリカ・西ヨーロッパからも急速に回復する可能性もある。日本の観光はいま大きな転換点を迎えており、世紀の一大イベントに向けて、感染対策、水際対応をしっかり行うことでその後の世界に誇る日本の観光のV字回復に期待したい。

(この寄稿は2020年12月での情報に基づいて執筆したもの)

 

【参考リンク】 株式会社インバウンドにっぽん

 

 

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