前編の「旅の特徴やこれまでとの変化」に引き続き、後編では、「自治体が今すべきこと」について、株式会社行楽ジャパンの袁静代表取締役社長にお話を伺いました。
Q.今、自治体がすべきことは?
① 情報収集と分析
自治体担当者の方と話していると、中国人観光客のイメージが古く、爆買いの時代で止まっていることがあります。インバウンドの世界は、変化が目まぐるしく、そのスピードについていくことは大変ですが、「今」の情報を収集し、素早い情報のアップデートが必要です。
現在、中国人が中国国内しか旅行ができていない状況で、どのような旅行を好んでいるのかを分析し、嗜好を把握することが重要です。
次に、“中国には何があるのか”、逆に“中国にはないコンテンツは何なのか”、ということを正確に知り、日本との違いを把握する必要があります。中国人観光客は異国情緒を求めて訪日する訳ですから、そのためには中国の情緒を勉強しなければなりません。つまり、中国人観光客が日本に到着してからの動向だけを分析するのではなく、その人が日本に来る前から、中国国内でどんな生活スタイルをしていて、どんな物足りなさを感じているか、という分析をすべきなのです。
例えば日本国内のとあるホテルは、クラシカルな洋風の建物が日本人に人気ですが、中国人に対してはその建物ではなく、食事を中心にPRしています。中国国内では植民地時代があった影響で重厚な洋館がたくさん存在するため、洋館は訪日旅行でのポイントにはなりません。つまり、日本人に人気なコンテンツを、同じ切り口で中国人にプロモーションしても刺さるとは限らないのです。
情報収集の手段としては、コロナ禍の今は、やはりオンラインがメインとなると思います。以前は人の交流が盛んだったため、例えば、現地の駐在員を通じた情報収集であったり、旅行会社への訪問やイベントの開催、旅行業界のキーパーソンやKOL(Key Opinion Leader:専門的な知識を持ったインフルエンサー)に来日してもらう等、様々なルートでの情報収集が可能でした。しかし、人との行き来が難しいコロナ禍においては、インバウンド情報サイトやオンラインセミナー、そして、中国のSNSからの情報収集が主要な手段となってきます。Weibo(ウェイボー)とWeChat(ウィーチャット)でどんな投稿がされているか、写真を眺めるだけでも、中国人が何を求めているのかという傾向を掴むことができます。文字数の多いWeibo、WeChatの他にも、ほぼ写真や動画のみで掲載される中国のSNSも数多くあります。若者に人気の「小紅書(RED)」や、「抖音(Tik Tok)」、「西瓜視頻(スイカビデオ)」等をダウンロードして、アンテナの一つとして活用するのがよいでしょう。
行楽ジャパンの抖音(Tik Tok)アカウント。和牛をはじめとする日本食やご当地キャラクター、
日本でしか見ることのできない風景への投稿が、毎回人気となっている。
② ネタの掘り起こしと受け入れ整備
インバウンドがストップしている今この時だからこそ、自分たちの街の観光コンテンツの掘り起こしをしてほしいと思います。日本にはいくらでも魅力的な観光資源がありますので、新たに観光地を開発したりする必要はなく、眠っている観光資源に気付くことが大切です。
そして、掘り起こしたコンテンツを、二次交通を考えながら繋げてコースを作ったり、インバウンドに前向きな飲食店を中心としたマップを作ったり、中国語のメニューを置くといった受け入れ整備を進めてほしいと思います。
これまで、このネタの掘り起こしや受け入れ整備の段階を飛ばして、プロモーションをしようとする自治体も少なくありませんでした。もちろんプロモーションは大事ですが、その大前提として“何をプロモーションするのか”が大切です。
既存の観光コンテンツを、さらに磨き上げることも重要です。ホテルの事例ですが、城山ホテル鹿児島は、このコロナ禍の期間を活用し、いくつかのフロアーを富裕層向けにリフォームしました。
また、部屋だけではなく、どのような観光コンテンツをプラスすれば、より中国人富裕層を誘致できるのかを検討しています。学びの意欲が高い富裕層に向けて、ホテル内の展示品を作っている工房を見学するプランや、プレミアム感を求める彼らのために、寿司職人が部屋に来て寿司を握ってくれるプラン等を作り、今後中国人富裕層に向けて部屋とパッケージで販売していく方針です。
新設された「城山ホテル鹿児島」のスイートルームと、室内に展示されている薩摩焼
③ オンライン上での情報発信
WeiboとWeChatで公式アカウントを作成している自治体も多いと思います。SNSを活用した情報発信は、もちろん有効ですが、単に情報を掲載するだけで満足して終わっていないでしょうか。WeChatの公式アカウントは、およそ2,000万件あります。その中でフォローされるもの大変ですし、もし仮にフォローされていても、他のアカウントの投稿により情報はすぐに埋もれてしまいます。2,000万件のアカウントとどう戦うのか、戦い方、戦略を考えることが重要です。
中国のSNSは、新しい機能やルールが毎月のように出てきています。これらの変化にもアンテナを高く張り、目を引くようにデザインを工夫したり、双方向性のあるゲームやキャンペーン等の仕掛けを作る等、創意工夫をするべきだと思います。
メディア等に委託して情報発信をすると、どうしても一方通行の発信になってしまいますが、SNSでの情報発信は、双方向に情報のやり取りができるため、相手の生の声が聞けるというメリットもあります。例えば、アンケートを景品付きで実施し、情報収集するという手法も可能です。実際の事例として、佐賀県のWeChat公式アカウントでは、ユーザーに対し「佐賀県へ旅行する目的」や「今後WeChatで配信してほしい内容」等について質問を投げかけ、回答を収集し分析に役立てています。
佐賀県のWeChat公式アカウントでのアンケート調査。回答してくれた人の中から抽選で、
佐賀県産の日本酒や有田焼の品をプレゼントすることで、回答率をアップさせている。
また、オンラインでの旅行博も、コロナウイルスをきっかけに広がりを見せています。オンライン上に自治体や事業者がブースを設けて、写真や動画を配信し、来訪者はクリックにより、情報をゲットするというものです。
従来のオフラインでの開催は来場者が数十万人規模であるのに比べ、オンラインでは、数千万人規模にアプローチすることが可能です。さらに、ビックデータを活用して、年齢や性別、趣味嗜好等をフィルタリングした上で、ターゲットを絞って旅行博の情報を発信することができるので、より効果的な情報発信が可能です。
最後にメッセージをお願いします
インバウンドの回復は、いつ頃になるか正直見通せないところですが、今だからこそ、新しい取り組みを始めてほしいと思います。
自治体のインバウンド担当部局では、予算や人員がカットされていると聞きます。たしかに、短期的にみると今はインバウンドがストップしている状況ですが、インバウンド回復期を見据え、中長期的な視点で今できることに取り組んでほしいと思います。
クレアからのお知らせ ~プロモーションアドバイザー事業のご紹介~
クレアでは、海外プロモーションに精通した専門家(プロモーションアドバイザー)を自治体に派遣し、海外プロモーションの企画段階において、相談対応や専門的な助言・情報提供等を行うことで自治体の支援を行う事業を実施しています。
本年9月、本取材を受けていただいた株式会社行楽ジャパン様が、新たにアドバイザーとして登録され、アドバイザーは30 社(名)となりました(令和2年11月末日現在)。
また、本事業では、これまでアドバイザーが直接現地に赴くことを要件としていましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、この度、新たにオンライン派遣も可能となりました。
本事業にご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
https://economy.clair.or.jp/activity/dispatch/
プロモーションアドバイザーとして愛知県の観光地を視察し、
コンテンツの磨き上げについて助言をする袁氏(中央)
(経済交流課 佐藤)