事例紹介

日本を海外に売り込む際に忘れてはならない大事な視点とは?

和テンション株式会社 代表取締役 

自治体国際化協会 プロモーションアドバイザー

鈴木 康子

 

 弊社では、インバウンド関連や海外輸出に関わる事業者様や自治体の皆様と接点が多くありますが、ご相談の多くは地域、あるいは自社が持つコンテンツや商品のPRに関わるものです。具体的には「情報発信」「パンフレットなどのツール作成」「多言語化」「インフルエンサーの手配」などであります。

 もちろん、インバウンド集客や海外プロモーションにおいてはそれらすべてが必要なことではありますが、その根幹には、ご担当者様が「対象国の文化や歴史を理解している」ことが大切であると考えています。

言葉は文化。翻訳をする際に大切にしたいこと

 具体例として、日本語から英語への翻訳を例に取り上げてみます。

英語といっても、世界的には英語は1種類ではありません。本来は、英語=イギリス英語が正統ですが、私たち日本人にとっての英語は、米英語です。

ですが、「コモンウェルス(英連邦)」の国、例えば、シンガポールやオーストラリアなどでは米英語ではなく、本来のイギリス英語を使用します。イギリス英語も米英語も、もともと同じものではありますが、言い回しや単語の使い方、スペルなどが多少違ってきます。

 例えば、フレーバー(香り・風味)はイギリス英語ではflavour, 米英語ではflavorと書きます。スペルの違いは1文字2文字異なるという程度の差ですが、ガソリン(イギリス英語:petrol、米英語:gas)や行列(イギリス英語:queue、米英語:line)のように、全く違った言い方になっている単語もあります。

 それぞれの国で日本語の方言や、若者言葉と同じように、ローカライズされた独自の英単語や表現が存在したりしますので、単に英訳といっても教科書通りではありません。

 もちろん、すべての国に合わせてそれぞれの英語にしていてはコストも労力もかかりすぎますが、それらの違いを知っていて、どの国の言葉に基準を置いて翻訳するかどうかを決めることは、地域の魅力を、より魅力的に情報発信する際に重要ではないでしょうか。

図:イギリス英語と米英語

 中国語でも同じです。同じ中国語でも、話し言葉には北京語、福建語、広東語など多数の言語がありますが、文字にする場合は大きく分けて繁体字と簡体字があります。現在の中国では基本は簡体字表記が一般的ですが、同じ民族でも、台湾人、香港人は繁体字を使います。少しセンシティブな話になりますが、香港人(香港は中華人民共和国の一部ですが)には、中国人とは別の香港人としてのアイデンティティがありますので、“2025年の現時点では”、香港人向けに情報発信をしたい場合、簡体字ではなく繁体字であったほうが良い印象を与えます。台湾も、言わずもがなです。

 この理由は、中国の歴史を知れば理解することができるので、歴史や文化をリサーチすることは大変重要です。

ローカライゼーションの重要性

 言語以外でも、ライフスタイルや食文化についても国によって日本とは異なりますので、地域の特産品や商品などを相手国にアピールし売り込みたい場合は、相手国の生活習慣や食文化、価値観などを理解し、彼らに分かりやすいカタチでアピールする、あるいはローカライズ(現地化)して相手に寄り添った提案をすることで、受け入れやすくなり、輸出拡大につながっていくのです。

 ローカライズの具体例を挙げてみます。

 

事例①

 

写真:イベント会場の様子

写真:カスタマイズされたどんぶり

 過去、弊社ではシンガポールにて、日本産米の魅力を広めるためのイベントを開催したことがあります。

 

 日本米はすでに欧米やアジアで認知されていますが、その中でも日本産米の味や香りは別格です。ただ、日本産米は高級品で日常的に食べるものではないというイメージもありました。日本産米を気軽に手に取ってもらえるようにするためには、現地の文化に馴染むようにローカライズしてPRすることが必要でした。

 日本人は「味付けを何もしなくても美味しい白米」が最高の米だと思う食文化なので、美味しいお米と出会うと、「まずは白米だけで」「塩おにぎりで」などと考えますが、シンガポールでは違います。同じ米食でも中華系、インドネシア、マレーシアなどの食事ではお米におかずの汁などをかけることが一般的で白米だけを楽しむ文化がないので、白米だけを勧めてもシンガポール人にはピンとこないのではと考えました。
 シンガポール人におなじみの、ご飯にのせるものを自分で選べるカスタマイズ形式、現地で人気の丼の形式にローカライズすることで多くの人が手に取り、イベントは大盛況となりました。

 余談ですが、シンガポールに限らず、世界中で、白米だけ食べるという食習慣は私の知る限り日本のみですので、全世界で同様なイベント開催は、日本米普及に有効な企画と自負しています。

 

【参考】「どんぶりレボリューション2018」実施報告 

https://company.wattention.com/announcements

/donburireport1/

 

 

事例②

写真:稲庭うどん

 

 次に、また別ケースとして、弊社が昨年、秋田の稲庭うどんの米国への輸出をサポートした際の事例もご紹介いたします。

 稲庭うどんは、日本ではあっさりとつゆと薬味で食べるのが主流ですが、「うどん=讃岐うどん」というイメージが浸透している米国で、稲庭うどんを手に取ってもらうためには、アメリカ人の好きなカスタマイズスタイルを組み合わせてはどうかと考えました。

 そこで、コロラド州デンバーで開かれた日本食フェスティバルの出店に当たり、アメリカ人の好きな揚げ物などをうどんにトッピングできるようにしたところ、このローカライズの工夫によって、稲庭うどんのブースは行列ができるほどの大人気となりました。

 

【参考】秋田の稲庭うどんを海外に輸出!

https://mirokuproject.com/overseas_expansion_

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 このように、我々日本人が考える良いもの、美味しいものも、ところ変わると違う評価が起こり得ます。

インバウンド戦略でも、日本産品の輸出戦略においても、相手国の文化や歴史を理解し、創意工夫して戦略を立てていく事をインバウンド担当になったら最初にやっていただけると、大きな結果につながるのではないかと考えています。

 

その海外旅行博出展は必要なのか?発想を変えてみる。

 インバウンドプロモーションにおいて、自治体が単独で、あるいは地域連携により、対象国の海外旅行博に出展することは一般的ですが、小さな市町村にとって、それは本当に効果があるものでしょうか?

 例えば、「ITE(香港旅行博)」を取り上げてみます。
香港は、中国大陸へのゲートウェイとして、インバウンドプロモーションにおいて、非常に重要な地域の一つです。多くの自治体も香港、そしてその先につながる中国市場に向けて積極的にアピールしたいと対象国とし、旅行博出展の予算取りをしていることでしょう。

 ここ10年は、香港人の知日度や訪日意欲は、台湾市場のそれに迫っており、リピート率も80%を超えています。自治体が香港市場に向けてPRしたいのは当然のことです。しかし、それだけ大きな市場であるということは、全国どころか、全世界が香港市場を重要視することを意味します。全国、全世界とのPR合戦で、小さなブースを一つ出してパンフレットを配っても、対費用効果はどうでしょうか?

 地域や地域コンテンツにもよりますが、場合によっては香港に行かずして、訪日香港人にアピールする効率のよいアピール方法を模索することも検討してみてはいかがでしょうか?

 例えば、すでに東京などに来ている香港人にターゲットを絞ってみるという方法もあります。香港人に人気のレストランや施設などとタイアップして、香港人限定で割引や粗品を用意し、誘致キャンペーンを企画したり、アンケート調査をしたりすることも有効です。

 旅行博会場でアンケート調査をしても、慌ただしい中なのでしっかり答えてもらえないことが多いですが、言葉の通じない日本に来たときに自国の言葉で優遇されるという体験をしたら、きっと“特別扱いされた”と感じ、喜んで一生懸命答えてくれるでしょうし、地域を知っていただくきっかけとなり、良い印象を持つことでしょう。

 多くのFIT(海外個人旅行客)は、鉄道の乗り放題切符を持っていますので旅費はあまり気にしません。予定を変更し、あなたの地域に足を運んでくれるかもしれません。

 このように、発想を変えてみて、他地域がやらないことでアピールすることも検討されてはいかがでしょうか?

 

和テンション株式会社 代表取締役 鈴木康子

 

 2009年、訪日外国人向け日本文化・観光情報フリーペーパー「WAttention」をシンガポールで創刊。その後、2011年に東京に和テンション株式会社を設立し、同誌を世界10か国で展開(2020年、新型コロナウイルスのパンデミック以後は休刊中)。
 自治体、DMO、企業のインバウンドプロモーション、多言語ツール制作、海外プロモーションを支援し、海外向けPRサービスを提供。事業で培ったノウハウを活かし、インバウンドを中心にアドバイザーとしても活動している。2022年より、秋田県美郷町にゲストハウス「ミロクハウス」を開設、国内外より観光客を誘致し、地域の人との交流を通じて、地域商材の六次化による商品企画、支援も行っている。

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