事例紹介

「ハラル」自治体が知るべきこと(前編)

一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事 ハラルビジネスプロデューサー

兼 自治体国際化協会 プロモーションアドバイザー

佐久間朋宏

 

今年の夏は暑い日本でしたが、皆さんの地域はいかがだったでしょうか?

異常気象がいまや通常気象!?になりつつある気候の変化を感じます。変化といえば、少子高齢社会、アフターコロナ、円安、原材料高、DX化など「新しい時代の価値観」が生まれています。その1つにイスラム教徒対応=ハラルビジネスがあります。本稿では、これから必要となる自治体が知るべき・対応すべきハラルなどについて解説します。

■ハラルについての基礎学習

イスラム教徒とは

 イスラム教徒は世界に約20億人おり、世界人口の1/4を占めています。イスラム教徒の多い地域は東南アジア、南西アジア、中東。中央アジア、アフリカ、EUや北アメリカにも多くのイスラム教徒(ムスリムと言います)が生活しています。人口が増えていて、若年層が多く、これから経済発展する国が多いことが特徴です。なんと2100年には世界人口の1/3になるという予測データもあります。

図:イスラム教徒の世界地図2024版

 

ハラルとは

 ハラルの意味は「やっていいこと」、食べ物では「食べていいもの」を意味します。ライフスタイル全般に「やっていいこと」を意味し、口に入れるもの、肌に触れるもの、身に着けるものが広く対象になります。代表的なものは動物(畜肉)由来のモノで、豚肉由来のモノは使用も利用もできません。また牛・鶏・羊は食べますが、イスラム教徒のルールに従った方法で屠畜(とちく)しなくてはなりません。油・ゼラチン類・ショートニング・乳化剤などの添加物も注意が必要です。アルコールは考え方が色々あります。基本は酔わせるアルコールが禁止です。消毒用アルコール、工業用アルコールなどは個人差がありますが、問題ありません。

 そのほか、水・土の中から採れる食べ物は基本ハラル(「やっていいこと」)です。野菜・果物・穀物および水産品は基本問題ありません。日本にある食べ物および由来原料はハラルが多いです。特に明治時代までの日本の食べ物は穀物中心とした仏教(精進)料理で基本的にはハラルです。ハラルは動物由来とアルコール由来のコントロールが大事であり、ノーアニマル、ノーポーク、ノーアルコールの組み合わせの原材料で成立します。原材料の由来がとても重要です。

ハラル認証とは

 ハラル認証は「国際認証のひとつ」ですが、世界統一基準はありません。世界中に400以上のハラル認証団体(機関)が存在しています。国が運営する機関から、各種団体、株式会社、個人が運営する団体まで、さまざまです。ハラル認証を取得する場合は、このハラル認証団体(機関)の中から、自社の目的に合わせて選ぶ必要があります。日本はイスラム教徒の国ではないことから、ハラル認証は国が管理する許認可制度ではありません。したがって輸出国、製品、目的により、適切なハラル認証を取得する必要があります。ハラル認証は、大きな部分ではイスラム教のハラルが原則ですが、認証団体により多少の差異はあります。

 具体的には、5つのカテゴリーを確認してハラル認証の発行を受けます。1つ目は商品の選定。最終製品であればネーミングなども関係することがあります。2つ目は原材料がハラルかどうかです。原材料がハラルでなければハラル認証は取得できません。3つ目は工場の確認です。製造工場の建屋、製造ラインの確認をします。ヴィーガン認証などとは少し違い、現地で接触コンタミ(コンタミネーション:混入)がないか確認します。4つ目は原材料、中間製造物、最終製品の倉庫(置場)がハラル品とレギュラー品(一般品)できちんと分けられているか確認します。5つ目はイスラム教徒の従業員らがいなくてもハラルチーム(他の食品安全システム認証(FSSC2000)、ハサップ(HACCP)など国際基準と同様)を作り、内部規定で管理することなどを満たしているか確認します。これらのチェックを経て、ハラル認証の証明書やハラルロゴマークが発行されます。

図:ハラル認証世界地図

 

ハラルビジネスとは

 ハラルビジネスはイスラム教国、またはイスラム教徒にマーケティングするビジネスの一般総称で、2012年ころからハラル・ジャパン協会で使いはじめた用語です。またムスリムインバウンド(訪日客)も同時期から使用されはじめた用語です。一言にイスラム教国とのビジネスといっても、ハラル認証の必要有無、また輸出・進出などのアウトバウンド展開かインバウンド(訪日客)展開かによって対応は違います。ハラル認証が必要なハラルビジネスの代表は、輸出を主とする原材料です。イスラム諸国のバイヤーなどにハラル認証取得を要求され、指定のハラル認証を取得して輸出します。多くの原材料メーカーが直面している、現在進行形の課題です。最近は高い経済成長の東南アジアのイスラム市場で、マレーシア、シンガポール、インドネシアを筆頭に、タイ、ベトナム、フィリピンからもハラル認証原材料の引き合いが多いです。今後もこの傾向は続き、ハラル認証を取得しての輸出も増えますが、現地製造のために海外進出する企業も並行して増えていくと見ています。

 輸出するものか?現地で製造するものか?の種分けの時代に入ったと考えられます。またハラル認証がいらないビジネスでは、ハラル認証を取得してないが、「原材料はハラルです」「作っている工場やラインはこんな状況です」ということをバイヤーと確認しながら輸出を進める、いわゆる「エビデンスハラル(成分ハラル)」という手法があります。

 

(後編に続く)

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