事例紹介

徳島の祖谷における古民家再生の取組~サステナブルツーリズムを軸とした地域活性化について~

作成:株式会社 ちいおりアライアンス 取締役相談役 井澤 一清

 

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はじめに


 日本政府観光局の発表によると今年7月の訪日外国人客数は、329万人で過去最高となり年間では3400万人以上となる見通しです。
 一方、少子高齢化などにより空き家の増加が問題となって久しいですが、そのような中で、当社では、2009年より空き家を利活用し、ツーリズムを軸として地域を活性化し社会課題を解決する取り組みを地域の行政と推進してきました。

 

徳島県三好市東祖谷の当社施設「篪庵」

 

空き家の現状


 総務省が2023年に実施した住宅土地統計調査によれば、空き家は900万戸となり空き家率も過去最高の13.8%となりました。都道府県別の空き家率は和歌山県、徳島県がトップの21.2%で、以下山梨県、鹿児島県、高知県、長野県が20%を超え、実数では、東京都がトップで89万戸、以下大阪府70万戸、神奈川県46万戸となっています。実態として地方の空き家は一軒家、大都市圏の空き家はアパートマンションとなっています。

(国土交通省公式ホームページより抜粋)

 

 実際には年に数回清掃に訪れるだけの「半空き家」も多く存在し、それも含めると膨大な数の空き家があると考えられます。空き家になる理由としては人口減少によるところが大きいですが、人口減少にもかかわらず需要が拡大する日本特有の「新築信仰」の強さも大きな要因と考えられます。それに対し政府は、相続登記の義務化などの対策を進め、地方行政は移住促進の取り組みを進めていますが、効果は出ていないのが現状です。

 そこで考えられるのが空き家の利活用です。当社も2009年より空き家を利活用したツーリズムの確立による地域活性化に取り組んできました。

 

 

当社の空き家利活用の事例


徳島県三好市 桃源郷祖谷の山里、篪庵

 徳島県三好市は、県西部の山間に位置し、2021年現在の人口は2.3万人で、市内には、大歩危峡、祖谷のかずら橋など、多くの自然資源に恵まれた地域です。東祖谷の中には平家伝説が語り継がれる落合集落があり、100人程が暮らす東祖谷では最大の集落となっています。

 

徳島県三好市東祖谷落合集落

 

 その落合集落も2005年に国の重要伝統的建造物保存群地区に指定されましたが、人口減少が続き地域の活力も低下、徳島県三好市よりこの地域に関しての相談を受けることとなったのが2008年でした。落合集落を滞在型ツーリズムとしていく取り組みが始まります。
 具体的には、市の事業として、空き家を宿泊施設としてリノベーションし、地域の人々と協力して食事やガイドツアーなどを提供、清掃面もお手伝いいただき、それを当団体が取りまとめて運営していくものでした。
 まず、空き家調査をすると同時に、地域の人々に事業目的や内容を説明していくことから始まりました。当時、旅館業法などの法律が今とは違い、1軒家が宿泊施設として認めるケースがほとんどなく、ハードルの高い事業となりました。

 

事業の構図

 

 地域などでの対話を経て、2011年より工事が始まり、2012年3月に桃源郷祖谷の山里の1棟目が開業しました。地域の人々もわからないまま協力してもらい、協業が進んでいきましたが、この開業までのプロセスをNHKで取材され、図らずも PRが進んだ結果、この地に多くの人が足を運んでもらえることとなりました。次年度2棟、翌年2棟と2015年までの5年間で8棟の整備が進み当初の構想が完成しました。一方当社の篪庵は、2012年8月に補助金を活用して宿泊施設としての改修を完成することができました。これも地元行政の積極的な支援の結果です。施設最大の特徴は、伝統的な茅葺の外見に対し、内部は東洋文化研究家であるアレックスカー氏監修のモダンで洗練された造りとなっていて、暗くて使いづらいという古民家によくあるイメージを全くなくした点です。開業後順調に利用者数を増やし、2019年まで国内外年間4000人以上の利用客が訪れました。地域の人々も当初は戸惑いもありましたが、次第に国内外の来訪者の対応にも慣れていました。インバウンド(訪日客)へのアプローチとして、徳島県や徳島県三好市が2010年代の早い時期より働きかけをしてきたため、その3年後より効果があらわれた形です。
 しかし2020年春以降の新型コロナウイルスで状況が一転し、厳しい環境となりました。私たちの周りで厳しかったことは地域の人の協力が大きく後退したことにあります。協業がままならない状況、緊急事態宣言により利用者が激減し、苦境に陥りました。しかしながら大規模宿泊施設と違い、個別の1棟貸し施設の安全性なども勘案され、次第に利用者は回復基調となりましたが、スタッフ不足は解消されず受け入れ態勢も以前の体制に現在も戻っていません。利用者数はコロナ前の90%程度となり、無理のない範囲で運営をしています。

 

桃源郷祖谷の山里 談山

 

 

事業のポイント


 1点目は、事業を実施する際、持続的経営を考え、無理のない運営を心掛けてきたことです。具体的には、特別なおもてなしサービスは提供せず、誰でも運営に携われるようにしており、外国人利用者も特別なことはなく対応しています。私たちのおもてなしは、この自然環境と特別な宿泊空間と考えています。
 2点目は、地域全体の合意形成より協力体制を見極めて早めに決断して進めることです。地域の合意形成は重要ですが、新しい取り組みに対して地域の人々も判断材料を持ち併せていないため、今までと違う環境を恐れてしまう傾向にあります。空民家の活用では、住んでいた家を活用するため急激に利用者が増えるわけではなく、住んでいた人数が戻る程度の事業規模である事を説明してきました。
 3点目は、一番重要な事ですが、事業者と地域行政の覚悟です。どうすれば実行できるか、覚悟を決めて進めていくことが必要です。開業後は、当初の人たちと違い、覚悟を持たない人たちが担当となるため推進力が低下することが多く、それぞれの段階でのモチベーション維持が必要となります。
 4点目は、宿泊事業だけでないということです。宿泊を中心とした地域活性化事業と考え、地域をPRするイベントやツアーなどを通して地域、施設、運営者のファンを作っていくことが大切です。

 

イベントの様子

 

 

事業のメリット・デメリットと今後の可能性


 事業のメリット・デメリットと今後の可能性を以下にまとめ締め括りとします。

 

メリット:
① 空民家の利活用につながる
② 食事提供は、地元専門店などを活用できる
③ 誰でも参入できる
④ 宿泊事業だけでなくガイドツアー、イベント開催などの周辺事業に広がる
 
デメリット:
① 特徴ある改修するための多額の費用 そのため収益が上がらないケースも
② 施設の維持管理費

 

可能性:
・観光関連の補助金が増えているため、デメリット①を解決できる可能性が拡大
行政の施設の利活用事例:
・行政所有の〇〇家住宅などを積極的に活用する
・移住者向けの仕事として場の提供

 


当社の紹介

 

 当社の前身は、2005年設立の特定非営利活動法人篪庵(ちいおり)トラストで、徳島県三好市東祖谷にあるアレックスカー氏の所有物件「篪庵」を保全し、地域の活性化を進める目的で設立された団体でした。

事業規模に伴い2015年に株式会社ちいおりアライアンスを設立し、地域活性化の支援を経営理念として、宿泊施設の運営関連事業、地域活性化に関するコンサルティング、イベントなどの開催事業をしています。

徳島県三好市東祖谷、香川県綾歌郡宇多津町、京都府亀岡市の3か所で施設を運営し、実践の場を持ちその運営や地域とのあり方などをコンサルティングで提供しています。

HP:株式会社ちいおりアライアンス | (chiiori-alliance.jp)

 


〇プロフィール

 
井澤 一清(いざわ かずきよ)

1984 年立命館大学卒業後 東京でアパレル会社、
京都で町家再生事業会社等を経て2011年

(株)ブルーオーシャンを設立し代表取締役、同年龍谷大
大学院経営学研究科修了。2015 年地域活性化支援を
行う(株)ちいおりアライアンスを設立し代表取締役。
2021 年より取締役相談役。徳島県三好市、香川県
宇多津町、京都府亀岡市で古民家滞在施設運営
および全国で空家利活用や施設運営、ブランド化など
さまざまな地域活性化支援のコンサルティングを行う。

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